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転職。決断のとき

第41回 行動を起こせば何かが変わる

加山恵美
2007/6/15


転職が当たり前の時代になった。それでも、転職を決断するのは容易なことではない。スキルを上げるため、キャリアを磨くため、これまでと異なる職種にチャレンジしたり、給料アップを狙ったり――。多くのエンジニアが知りたいのは、転職で思ったとおり仕事ができた、給料が上がった、といったことではなく、転職に至る思考プロセスや決断の理由かもしれない。本連載では、主に@ITジョブエージェントを利用して転職したエンジニアに、転職の決断について尋ねた。


今回の転職者:田中謙太氏(28歳)
大学卒業後、物流系の会社に総務として就職するも、ITエンジニアにあこがれ、外資系のシステムインテグレータに転職。主にサーバ構築やネットワーク構築などの業務を担当し、スキルを身に付ける。その後、会社に対する不信感から転職を決意。@ITジョブエージェントをはじめとする転職サービスに登録し、転職活動を開始する。その後、システムインテグレーションを行う日本企業でITエンジニアとして再スタートし、現在に至る。

同じ境遇にいる仲間に伝えたい

 ITエンジニアの中には才能や幸運に恵まれてぐんぐんと成長し、卓越したスキルを持ち、高い収入を得られるようになる人もいる。輝かしい出世街道を歩むITエンジニアがいる一方、それと対照的な世界に住むITエンジニアもいる。

 単純作業や低賃金、乱暴な扱いに耐えるITエンジニア。日陰の世界から早く逃げ出したいと思っても、悪条件が重なるとなかなかそうはいかない。時間が過ぎれば過ぎるほどそこから逃げ出す気力や機会もなくなってしまう。

 今回話を聞いたのは、その厳しい環境から脱却し、再出発した田中氏だ。これまでは地を這うような環境だったが、ようやく昇り階段の1段目を踏みしめることができたような状況だ。田中氏は力を込めてこういう。

 「このインタビューを受けようと思ったのは、自分の過去と同じような境遇に耐えている人のためです。行動を起こせば何か変わるということに気付いてもらいたい」

最初は総務、エンジニアではなかった

 田中氏にはこれまで紹介してきたITエンジニアと違い、社会人になる前にITエンジニアとして伏線となる出来事は特になく、出発点も遅い。学生時代は経済を専攻した。コンピュータとの関わりといえば一般的なパソコンのユーザーでしかなく、それ以上の技術的なことは学んでいない。

 卒業後の進路は大学院への進学と就職の間で思い悩んだが、「まずは働くのが先だ」と就職することに決めた。就職先は物流系の企業。しかし、職種はITエンジニアではない。配属になったのは総務で、在庫管理などを担当した。在籍中にフォークリフトの運転免許は取得したものの、ここでもITエンジニアらしい技術的なことは学んでいない。

 だがひそかにITエンジニアへのあこがれはあった。「不謹慎かもしれませんが、『IT』や『システムエンジニア』にあこがれていました」と漠然としたイメージを抱いていたという。

 システムエンジニアにあこがれるのと同時に、当時から高い関心を持つものがあった。それは経営やコンサルティングといった分野だ。専攻が経済で、友人との共通の興味でもあったせいか、そのテーマに関連するセミナーには何度も足を運んだ。

 とはいえ、当時の田中氏にとって経営コンサルタントはまだ雲の上のような話である。まだまだ遠い世界と理解しつつも、セミナーに足を運ぶうちに経営や会社のありかたについての理念は田中氏の心の中で育っていった。

ネットで応募してようやくエンジニアに

 最初の物流系企業は2年ほどで退職し、あらためてITエンジニアを目指すことにした。再就職先はインターネットで検索、就職情報誌などをめくるなどして自力で探した。当時は親元で暮らしていたこともあり、「早く就職しなさい」という親からのプレッシャーもあった。

 だが当時は就職氷河期である。ITエンジニアを目指したくてもスキルも実績もないので、なかなか思うように見つからない。選ぶ余裕などほとんどなかった。「なんとか決まればいい」と未体験でも採用してくれる会社を探した。

 そして2005年4月、システムインテグレーションを行う企業にシステムエンジニアとして採用してもらえた。ここでようやく「システムエンジニア」の肩書きを得ることができた。

 この会社では開発現場にITエンジニアを派遣することが多く、田中氏は最初の派遣先が決まるまでは自宅で自習した。主に一般的なオフィスソフトやLinuxについて学んだ。これは会社のアドバイスでこの先の派遣先の業務に生かすためだ。

最初はマニュアル化された作業をこなすだけ

 最初の仕事は大手通信会社に常駐してシステム導入作業などを行った。会社からただ1人で派遣されたが、職場は田中氏にとって「優しい人」が多く人間関係では苦労することはなかった。

 スキル不足に悩まされることもなかった。短期間で自習して得た程度のスキルしかなかったが作業は完全にマニュアル化されており、ただ黙々と手順通りにコマンドを入力すればよかった。単純作業では学べることはあまり無かったが、黙々とこなしながらLinuxのコマンドや意味を覚えるなど、可能な範囲でスキルを吸収していった。スキルを得てくると手順の不備にも気付くようになり、技術が分かるようになってきた。

 ここで幸運だったのは職場に経験豊富なITエンジニアがそばにいたことだ。その人はプロジェクトマネージャの経験もあるほどで、田中氏には実質的なメンター役だった。休憩時間などを利用して彼から一般的なITの知識や経験を教わった。

給与面で会社に不信感が募っていく

 半年ほどして別の派遣先をいい渡された。次は主に社内環境構築でサーバの導入から詳細設計など、徐々にレベルアップした仕事をやれるようになってきた。さまざまなプロジェクトに参加しつつ、同じ場所に最終的には1年強ほどいた。

 こちらでも人間関係に恵まれ、仕事の内容にも不満がなかった。社員ではなく派遣の立場ではあるが、職場の仕事の進め方を見ると自分が思い描く会社や職場のイメージと合っていた。ただ田中氏にとって正社員ではないことは「責任のない立場」であり、物足りなさを感じていた。

 しかし、それよりも切実な問題があった。収入である。職場での情報交換やネットなど、いろいろと情報を得ていくうちに自分の収入が少ないことに違和感を覚えた。

 「会社の取り分が多すぎるのではないだろうか」

 会社への不信感が徐々に募ってくる。ネットで年収査定などをしても、職場の周囲の派遣社員などと話をしても、「自分の収入はほかより少ない。ITエンジニアがもらうべき分を会社が不当に横取りしているのでは」と思うようになってきた。

週末にはアルバイトで気分転換

 会社の取り分が適性だったかどうかはさておき、事実、田中氏の年収は同い年のほかのITエンジニアと比べて、明らかに少なかった。親と同居しているため差し当たって暮らしには困らないが、このままでは将来独り暮らしなど見込めない。

 そこで週末はアルバイトをした。勤務していた会社は外資系ということもあり副業には寛容で、アルバイトをすることには何ら職務規程違反などには当たらなかった。

 アルバイト先はITとはまったく無縁の飲食店。唯一の休みにアルバイトをすると働きづめとなるが「まったく違う世界で楽しかったです。人と接することでストレス解消になりました」と田中氏は話す。

 土日のアルバイトで月に5万円ほど稼いだ。少ない年収の足しになったが、得たものはお金より人生の充実感の方が大きかったようだ。また週末にはアルバイトのほかに空手道場にも足を運び、ITエンジニアにありがちな運動不足を防ぐことにも役立てることができた。

上司に転職を打ち明けるが黙殺される

 アルバイトや運動で多少のストレスは発散できたが、待遇の悪さは依然として変わらない。会社への不満は次第に募っていく。田中氏は具体的な指摘は差し控えたものの、会社にはモラル面や手続き面で問題視すべき習慣が多々見受けられたという。

 ネットの評判を見ると田中氏の会社の不正を糾弾する書き込みがいくつか見られた。どんな会社でも裏では陰口がささやかれることがあるものだが、目に余るほどだった。こうした悪評も田中氏の不満を増幅していくことになる。

 給与面で疑問が生じたのは2005年末くらいからだったが、それから半年も経つと転職を考えるようになっていた。技術情報収集のためにIT系のWebサイトを眺めていると、広告バナーの「転職」という文字が気になりだしてきた。そして転職体験談を読むうちに転職に活路を見いだすようになった。

 @ITジョブエージェントや他社のサービスに登録し、ひそかに転職活動を進めていった。ある程度めどが立ったころ、上司に退職を告げた。上司は引き留めることもなかったが、「派遣先にはまだいわないでくれ。私の方から話すから」とだけ話した。

 それを信用して自分からは派遣先に退職を話さずにいたが、いつまでたっても派遣先には退職の話が伝わらず数カ月が過ぎていく。

会社への嫌悪感と派遣先への恩の間で

 上司は退職の話を受諾したように見せて、実は黙殺したようだった。引き留めの説得もしなかったのに、ただ無視するという不誠実な態度には怒りさえ覚えた。

 待遇への不満から会社への不信感が募ったうえに、ITエンジニアとしてこの先将来が見えないことへの焦りも加わり、次第に怒りがふつふつと会社に対してわき上がってきた。

 もしかしたら悪い偶然が重なってしまったのかもしれない。もしかしたら誤解や誤報が混じっていたのかもしれない。だが田中氏はもうこの会社に長くいたくはなかった。

 ただ派遣先には恩を感じていた。親切にしてくれたし、技術に触れる機会を与えてくれたので後味の悪い去り方はしたくなかった。だから派遣契約の切りのいいタイミングまで耐え、何とか退職手続きをすることができた。

自信は半々だが新天地でスキルアップを目指す

 最終的には人材紹介会社を通じて転職先を探した。田中氏のスキルとキャリアで転職できそうな会社として提示された会社は20〜30社ほどあった。そこから田中氏が絞り込み、書類選考などを経て最終的には2社に絞った。

 1社は主にシステム運用業務を行う外資系企業で、もう1社はシステムインテグレーションを行う日本企業だ。そして田中氏は後者を選んだ。運用よりもシステムインテグレータでスキルを身に付けたかった。また、前の会社が外資系だったせいもあり、心情的に敬遠した。

 「スキルについての自信は半々でした。でもやってみないと分からない、足りない分は補っていけばいいと考えました」と田中氏。これから学んでいきたいスキルは何かと聞くと「これまでサーバ系のスキルを蓄えてこれたので、今後はネットワーク系、データベース系、Web系に力を入れていきたい」と話す。

 田中氏のITエンジニアとしてのキャリアはまず出足が遅かった。第二新卒でようやくスタート地点に立てたものの、最初の環境ではいくらもがいてもスキルやレベルアップは見込めそうもなく、ただ時間だけが過ぎてしまっていたかもしれない。悪循環を断ち切るべく、そこから脱出した。

ほかの同じようなエンジニアも勇気を

 会社に対して怒り抱えることは決していいこととはいえないが、田中氏が見聞きしたことからすれば不可避な感情だった。だが田中氏はわき上がる不満をうまく昇華させることができた。これはなかなかできないことである。ネガティブな感情は払拭(ふっしょく)するのが難しいからだ。

 だが田中氏は鬱屈(うっくつ)をアルバイトや運動で発散し、最終的には会社と決別し、スキルアップが見込める会社へと転職した。自分の抱える怒りを転職へと転換するという、実に建設的な形で解決した。ほんの数年という間で成し遂げたのは、会社への洞察力や行動力もあってのことだろう。田中氏はこう話す。

 「お金は可能性につながっています。ITエンジニアの給料を奪うことは、その可能性を奪うのと同じです。会社だけが潤ったり・勝ったりというのは病んでいると思います。ぼくはこうした会社の姿が許せませんでした」

 会社に比べたら社員は弱い立場である。弱い立場が強い立場に不服や不義を指摘するのは難しいが、社員には「退職」という伝家の宝刀がある。その場から去るだけでは根本的な解決には至らないが、「もう力を貸さない」と精いっぱいの異議を示すことができる。少なくとも田中氏にとって今回の転職にはそういう意味があった。

 そして田中氏は前の自分と同じように不遇な環境で働くITエンジニアに、「自分の待遇が不当でないか客観的に調べてみてほしい。そして問題があれば勇気を持って行動を起こしてほしい」と願っている。自分が困難を打破したように。

担当コンサルタントからのひと言

 初めて田中さんとお会いした際の第一印象は、もの静かでおっとりした方だなという感じでした。

 じっくりとお話を伺っているうち、仕事に対して非常に意欲的かつ前向きに取り組まれる姿勢と、何よりも顧客に対するホスピタリティの高さを強く感じさせられました。「顧客のニーズに沿ったサービス提供をしたい」「社会貢献度の高い会社でやりがいを感じながら自身も成長していきたい!」という熱い思いをお持ちの方でした。

 そんな田中さんのキャリアビジョンに沿う企業でご活躍してもらいたいと、私も熱い思いをもってサポートさせていただきました。ほどなく転職先が決まり、その後、田中さんからいただいたメールで、現況と合わせて入社を本心から喜ばれているご様子をお見受けした時、心からうれしく思いました。

 今後これまでになかったさまざまなご経験を積まれる中で、1つ1つ着実に成長を遂げられることでしょう。仕事に対するスタンスを崩すことなく、田中さんには頑張ってほしいと思います。


記事のためインタビューに出てくれる転職経験者募集中
本連載では、さまざまな理由で転職したITエンジニアを募集しております。なぜ転職したのかを中心にお話を聞かせてください。記事のインタビューに当たっては、実名、匿名どちらでも構いません。インタビューを受けてもいいという方がいらっしゃいましたら、次のアドレスまでお知らせください。なお、インタビューを受けていただいた方には、多少ではありますが謝礼を差し上げております。
連絡先: jibun@atmarkit.co.jp

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