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経営者から若いITエンジニアへのメッセージ

第1回 ITエンジニアは現場で育つ

長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2007/1/19

ITエンジニアは日本の将来を支えている

 近ごろの「理系離れ」といわれる風潮については、安間氏はどう考えているのだろうか。「理科は世の中を救うはずなんです。ものづくりは理科ですから。ものをつくっていくという一番基本的なところは、ぜひ大切にしてほしいと思います。

 なぜこうなってしまったかは分かりませんが、ひょっとすると日本のSIerの地位も理由の1つかもしれません。欧米ではSIerは基本的にビジネスパートナーですが、日本では出入りの業者という時代が長く、いまでもなかなか地位の向上ができていないケースがあります。そういうことを目の当たりにして、事業会社の社内SEを希望する人も増えていると聞いています。お客さまも含めて変わっていかないといけないんでしょうね。

 アクセンチュアは理系を中心に採用しています。特にアクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズは、初めからそれなりのプログラミングができる人を求めます。そうすると多人数は取れません。ポテンシャルがあれば取ってしまいますけれどね」

 理系離れ、3Kなどといわれている状況ではあるが、「仕事そのものにはすごく面白いものがまだまだたくさんある」と安間氏はいう。毎月2〜3つのプロジェクトを必ず訪ね、エンジニアと昼食を取りながら話をしているそうだ。「そのときに必ずモチベーションと残業時間を聞いています。あるプロジェクトを訪問したときは面白かったですよ。SAPとJavaの複合の非常に大きなプロジェクトで、かなりハードな労働条件だったんですが、『どうよモチベーションは』と聞いたら、これがものすごく高いんです。『だってこれだけのこと、おれたちしかできないもんな』と。非常に頼もしかったです」と笑う。

 「タフな状況になること自体は良くないですよ。でもその中でもモチベーションを失わない彼ら技術屋の、自分たちの技術力と生産性と品質に対する自信は素晴らしかったですね。そういうプライドを持ってやっているエンジニアが、見積もりやマネジメントのミスによって3Kのような状態に陥ることは避けたいのです。自前主義を貫くやり方によって、それなりの報酬とやりがいとプライベートを保てる状況をつくりたい。

 エンジニアは日本の将来を支えているのに、このままいくと日本ではなり手がいなくなってしまいます。エンジニアの働く環境を向上させたいのです」

 そのためにも安間氏は、「会社を大きくしたい」と語る。「いまの成長スピードだと早晩人数もけたが変わりますし、世の中にも求められていると感じているので大きくなるつもりです。しかし実は規模自体はどうでもよくて、マーケットでの発言力や注目度を上げたいのです。

 自前主義を一生懸命地道に貫き、キャリアパスを考え、方法論や見積もりツールにこだわっている会社が世の中でそれなりに認められ、『ああいうやり方の方がいいかも』と思ってくれる人が1人でも出れば、なかなかいい」という。

4カ月の経験が他社の1年分に相当

 社内の教育制度にはどのようなものがあるのか。安間氏は、「ただ座っていれば上から降ってくるというトレーニングはやりたくない」という。「自分から育とうとしてほしい。集合型の研修もあるのですが、プロジェクトをお客さまファースト、現場主義で運営している以上、そんなに簡単に出席できるものではありません。自分で時間をコントロールし、都合のいいときにリーチできるようなものをつくりたいと思い、eラーニングは豊富に持っています」。例えば「Javaの基礎」にしても、たくさんありすぎてどれを受けていいか分からないほど豊富に用意されているそうだ。「ただぼくは、トレーニングは知っておかなければいけない知識基礎を固めるだけのものと考えています。やはり現場が一番大切です。うちの社員がどこにいっても『モチベーションが高くてコミットメントが高くてキャッチアップが早い』といわれるのは、現場主義で育っていることが大きいと思う」

 安間氏は、「うちに来てくれるのであれば、ほかの企業で1年かかるところを4カ月で経験できます」と胸を張る。他社の3倍の速さで経験を積めると断言できる理由は何なのか。「現場の経験の密度ではないでしょうか。スピード感が違いますし、いろいろなことが求められる。経験し、見聞きできるものの深さや広さが違うのかもしれません」。優秀なITエンジニアが多いところも大きいという。「吸収しようとする、成長しようとするモチベーションが違います。素通りしないで、経験を1つ1つ自分の身にしようとする人と一緒に仕事しているためということもあると思います。非常に成長が早いですね。最初はそうでもない人も、いつの間にかそうなっていますね」

 「カウンセラーカウンセリー制度」というものも用意されている。キャリアプランを考える際、上司や人事部が考えるのではなく、「斜め上」の先輩エンジニアと一緒に考える制度だそうだ。「プロジェクト内での上下関係ではなく、時には隣に座ってくれて、一緒に考えて一緒に育とうよという人が必要でしょう。これを制度として持っています」

 また、社内にはさまざまな有志の分科会が存在し、その中に教育について話し合っているものも現在2つあるという。「1つは会社全体としてどういう教育プランを採用するか考えているチームです。研修所があるマレーシアのクアラルンプールに行ってグローバルのトレーニングを確認し、日本語化したり、入社前の内定者に書籍の紹介やキャリアのアドバイスをメールベースで提供したりしています。もう1つのチームはインフラ系、カスタムコーディング系、パッケージ系の3つのサービスラインの専門性に特化して、スキルアップの方法を話し合っています。ぼくはほとんど口を出しません。会社組織はぼくのものではなく社員のため、そのまた次の世代のためにあるものなので、ぼくが古い頭で考えるより社員に考えてもらった方がいいのです」

ITエンジニア、夢のキャリアパス「シニアテクニカルマネジャー」

 アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズのキャリアパスは、全部で8つのスキルレベルに分かれている。職種はいろいろあるが8つのレベルは共通だ。

 実は安間氏は現在、日本からグローバルのアクセンチュアに発信する新しいキャリアパスをつくっている最中だ。「まだ仮称ですが、『シニアテクニカルマネジャー』という技術のスペシャリストのためのキャリアをつくります。Javaのプログラミングが世界で有数というくらい優れていたら、人をマネジメントしなくても人と全然しゃべらなくてもたくさん給料もらっていいというキャリアです」。安間氏のいう「ゴリッとした技術をよりどころにしている人」のためのキャリアだ。性質上、あまり多くの人数は想定していない。全体の数%ほどを考えているという。

 安間氏は、「この会社をつくってからずっとつくりたかったキャリア。それなりのハードルはありますが、夢だったんですよ」という。技術に自信があり、技術1本で食べていきたいと願うITエンジニアは少なくないが、そういう人たちにとって非常に魅力的なキャリアパスだ。「日本で新しいキャリアパスをつくることに関して、グローバルの承認は取りました。日本から始めるというのはけっこう面白いですね」と安間氏は笑う。

 現場主義にこだわり続け、ITエンジニアの労働環境を向上させたいと願う安間氏の言葉は、社員をはじめとする多くのITエンジニアを勇気づけることだろう。

 

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