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経営者から若いITエンジニアへのメッセージ

第4回 スキル向上にオープンソースを活用せよ

三浦優子
2007/4/4

企業各社にとって、人材戦略は非常に重要な課題だ。人材の育成に当たって、トップは何を思うのか。企業を担う若いITエンジニアに何を求めているのか。

 「オープンソースはITエンジニア教育には欠かせないものだ」という意見に異を唱える人はいないだろう。自社のソフトウェアを決してオープンソース化しないメーカーであっても、ITエンジニアがソースコードに触れることの重要性を認めている。

 オープンソースのソフトウェアでビジネスを展開するレッドハットのグローバルサービス本部本部長 高宮敏幸氏も、「自分の仕事がオープンソースに関連していなくても、たくさんのソースコードを読み、よい書き方、悪い書き方の識別できる力を持つことは、エンジニアにとってプラスとなる」とアドバイスする。

全員がソースコードを書く力は必要ない

 ソフトウェアの部品化が進み、プログラミング言語を使って「プログラムを書く」というよりは、「ブロックを組み立てる」という感覚でシステムが作られることも多くなった。仕事の中でソースコードを見る必要性がないITエンジニアも増えていることは間違いない。

レッドハット グローバルサービス本部本部長 高宮敏幸氏は、スキル向上のためにオープンソースを活用すればよいという

 高宮氏も、現代のITエンジニアはソースコードにまったく触れることなく仕事をすることも十分に可能だという。

 「エンドユーザーが求めるのは経過ではなく成果。その点から判断すれば、エンジニアが手で書いたプログラムではなく、部品を組み立てて作られたソフトウェアであっても、必要な成果が出せるのであれば構わないともいえる」

 また、業務によってはレッドハットにおいても、ソースコードを触る必要がないITエンジニアも存在する。

 「オープンソースを読解する力よりも、お客さまの要求をきちんと聞き取り、それを具現化したシステム作成を取りまとめていく能力が必要なスタッフもいる。レッドハットにおいても、全スタッフがソースコードの達人である必要はない」という。

 情報システムを構成する要素は、OSだけではない。ミドルウェアに相当する統合監視ツール、高可用クラスタ、データベース、アプリケーションサーバ、トランザクションモニタといった知識も不可欠になる。そしてこうしたミドルウェア部分については、ユーザーの業務や業界の知識を持ったITエンジニアが不可欠となる。

 「オープンソースに関する知識はなくても、特定の業種や業界のシステム構築の経験を持っているエンジニアを必要とするようになっている」

 高宮氏自身は、学校を卒業後、制御系のエンジニアとしてメカトロニクスを担当。その後、外資系コンピュータメーカーなどを経て、レッドハットに入社した。オープンソースだけでなく、ハードメーカーのプロプライエタリなシステムビジネスに携わった経験を持っている。

 そうした経験から、「プロプライエタリなシステムは、ソースコードも社内で書かれている。だが、ソースコードを読むことさえ、担当するのは一部の部署だけ。ハードメーカーのエンジニアは、自社にソースコードがあったとしてもソースコードに触れる機会はほとんどない。レッドハットのように、エンジニアがソースコードに触れる機会が圧倒的に多い企業ばかりではない」ということもよく理解している。

 高宮氏は人からオープンソースについて質問されると、「法律と同じようなものだと答えるようにしている」という。

 これは、法律もすべてがオープンになっているものの、それを解釈するには専門知識を持った弁護士のようなプロフェッショナルが必要であるということを指す。「オープンソースを上手に活用していくためには、やはりそれなりの専門知識が必要」になってくるのだ。

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 その一方で、オープンソースにはITエンジニアが自分の力を向上させるために、便利に活用できる要素もある。

 現代のITエンジニアは、ソースコードを自身で書かなくても仕事はできる。しかし、「書かないまでも、ソースコードを読むことはエンジニアにとっては決してマイナスにはならない。仕事上はソースコードに触れる経験はまったくないというエンジニアでも、いろいろなソースコードを読んで、その良しあしを見分けることができるような力を持つというのは、自分の力を蓄えるにはよい方法」だと高宮氏は話す。

 現在のLinuxはカーネル部分だけで600万行を超える。

 「それを漫然と眺めているだけでは理解できないだろうが、読解力がついてくれば全体の構造を把握し、自分が必要としているのはどの部分か見極めることができるようになるはず。もちろん、そういう能力を身に付けるためには、たくさんのソースコードを読む必要があるだろう。だが、その経験は、エンジニアにとっては必ずプラスになる。プログラマにとっては、たくさんのプログラムを見ることが、よいプログラムを書くことにつながる。自分ではプログラムを書かなくなったSEであっても、お客さまから説明を求められたときにソースコードを理解する能力があれば、きちんと説明をする能力を持つことにつながる」

 また、「自分が書いたプログラムをオープンソース化することで、自分がどれくらいの力を持っているのか、世の中に問うてみるというのもよい経験になるのでは」と高宮氏は話す。

 プログラムを書くという行為は、属人的なものになりやすい。他人の目に触れることがないプログラムは、後から他人が見て、「なぜ、こうなっているのか、分からない」ということになりがちだ。

 「オープンソースはいろいろな人に見られることが前提となるので、自分が作ったプログラムがどれくらいのレベルなのか、思い切って世の中に問うてみることで、自分の技術者としてのレベルを認識する機会とするのも、オープンソースという仕組みならではのことではないか」

 自分で作ったプログラムをオープンソース化するまでに至らなくても、オープンソースコミュニティに積極的に参加して、プログラム作りにかかわっていくという経験だけでも、「エンジニアにとっては、目からうろこが落ちるような経験となることがままある」そうだ。

 「会社の仕事として、プログラムを書いていく場合、技術的な要素以外に優先すべき課題が出てくることもある。オープンソースコミュニティで協働作業を進めていく際には、周囲との整合性も考える必要があるし、自分ではベストだと思ったプログラムが『それはベターであって、ベストではない』とはっきり指摘されることもある。さまざまな人とコミュニケーションを取りながら、何かを作り上げていくという経験はエンジニアにとって自分を磨く機会になるはず」

 前向きに勉強を続ける意思があるエンジニアにとっては、オープンソースやオープンソースコミュニティにかかわることで、自分の能力を向上させていく場ともなり得る。

常に新しいことに取り組む意欲を持つこと

 オープンソースとかかわっていくうえで欠かせないのが「英語力」だ。

 「日本のコミュニティも存在するが、やはり英語でのコミュニケーションが多いのは確か。これからのエンジニアには英語力も必須課題となってくるのではないか」

 高宮氏自身も日本企業から外資系に転職しただけに、当初は英語に苦労した経験を持つ。

 「ソースコードの話と同様に、外資系といっても英語が必要になる仕事もあれば、英語はほとんど必要のない仕事もある。それは企業によっても違うし、仕事の内容によっても違う。ただ、自分で意識して担当するソフトや業務内容を変えていくことで、自分にとっての刺激にもなるし、勉強を続けていくことにもつながる。必死で英語に取り組むのもよい経験になる。私自身も英会話教室に通ったり、いろいろと試した。しかし、英語を母国語としない人たちと英語でコミュニケーションを取ることは、実際に体験してみないと乗り越えられないものだった」

 こうした高宮氏の話を聞いていると、英語を学ぶことも、オープンソースに触れることと同様、ITエンジニア自身がいかにモチベーションを高くして取り組んでいくことができるか、その姿勢を問われるものといえそうだ。

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