第13回 セキュリティ最前線で戦うには?
三浦優子
2007/11/6
企業各社にとって、人材戦略は非常に重要な課題だ。人材の育成に当たって、トップは何を思うのか。企業を担う若いITエンジニアに何を求めているのか。 |
■前職といまとの接点、そして異なる点
もちろん、ほかの企業で積んできたITエンジニアとしての経験は、トレンドマイクロでも十分に生かすことができる。
沓澤氏もトレンドマイクロで仕事を始めて3年だという。それ以前は21年間にわたり、日本ヒューレット・パッカードで仕事をしてきた。サポート部門のエンジニア経験が長く、「日本HPのリージョナル・エスカレーション・マネージャとして、クレーム担当責任者としての経験が、お客さまにどう対峙するかということの基本となっています」という。
現在のトレンドマイクロでの仕事では、日本HP時代と同じサポートエンジニアといっても性質が異なる部分が多い。「毎日のように新しいイノベーションを起こしていかないと、インターネット犯罪者に対抗していくことはできないという点は、日本HP時代の仕事とはまったく違いますね」と沓澤氏。
しかし、根本的なリアクティブな部分については、「共通するものを感じています」と沓澤氏は答える。
トレンドマイクロで働く場合に必要とされるようなセキュリティに関するスキルは、入社前に必須なのだろうか。「トレンドマイクロとしてのビジネスの特質である、インターネット世界を守るためのセキュリティソリューションの提供という点にやる気を感じるマインドと、基本的なコンピュータサイエンスに関する知識さえあれば、ウイルス対策、脅威対策といったことに関しては、入社してからも十分に学べると思います」と沓澤氏は答えてくれた。
■現在の脅威の特徴とそれに対応するには
ただし、最近の脅威は、犯罪のプロによるものが大幅に増えているという。それに対して沓澤氏は次のようにいう。「将来的には、コンピュータの知識だけではなく、犯罪心理など技術とは違う広範囲な知識が必要となってくる可能性もあります。当社が必要とするエンジニアにも、単なる技術者だけでなく、犯罪に関する研究者を迎えるといった可能性もあるでしょう」
最近の脅威の中には、単独犯ではなく、役割を分業化し、それぞれの専門家が担当するといったチームによるものも増えている。また、正規のWebサイトを改ざんし、不正プログラムを埋め込んだWebサイトにアクセスさせ、複数のウイルスに感染させる「Webからの脅威」といった新たな脅威も登場している。
場合によっては、個別のウイルスを作成した犯人は、その意味を正確に理解していないが、それらが集まることで製作者の意図を超えた意味を発揮してしまうケースすらある。
「被害についても、以前とは違ってサイバーテロにつながる被害が出ることも十分に考えられます。その防止には、サイバーテロを防ぐための対策ノウハウを持った人材が必要になるといったこともあるでしょう」
以前のセキュリティ対策は、トラブルが起きた後でそれを退治するという方法を取ることが多かった。しかし最近の脅威は、それでは対策が間に合わないものもある。そのため、事前対策を取ってトラブルを回避することが必要となる。そのためには、いわゆるITエンジニアとしてのノウハウ以上に、犯罪の実情に詳しい人材も必要ということなのかもしれない。それが前述した沓澤氏の「犯罪に関する研究者を迎える可能性」という言葉に結び付くのだろう。
■将来の目標を持て
沓澤氏は若手のITエンジニアに対し、「現状の仕事に対しては、非常に優秀な人材が多くなっていると思います」と指摘する。その一方で、「いまやるべきことはしっかり把握しているが、将来目指す目標についてははっきりと見えていないという人が多いように感じる」という。
トレンドマイクロでは、年に2回、キャリアレビューミーティングとして面接形式で今後のキャリアの目標などを話し合う機会がある。
「その際、いろいろと話をするのですが、将来自分はどうなりたいのかという目標がない人が多いように思います。高すぎる目標でもいい。例えば、将来は社長になりたいといった目標があると、プラスにこそなれ、マイナスにはならないと思います」
沓澤氏自身は、「いやあ、大きな声でいうのは恥ずかしいのですが、ワールドワイドのサポート責任者になりたいという目標を持っています」という。
これは、「日本人のトップというのは、まだまだ少ないですが、能力的には決して日本人が劣っているとは思いません。自分たちの先輩で、ワールドワイドで部門を率いる立場の人間が出てくれば、若手エンジニアにとっても励みになるんではないかと思うからです」というビジョンあってのこと。
「これが実現できるかは分かりません。ただ、そういう目標を持っているかどうかで、その人自身の今日やるべきことというのも、おのずと変わってくるような気がします」と沓澤氏は、若手のITエンジニアにアドバイスする。
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