第16回 スペシャリストを目指せ、英語を磨け
三浦優子
2008/3/13
企業各社にとって、人材戦略は非常に重要な課題だ。人材の育成に当たって、トップは何を思うのか。企業を担う若いITエンジニアに何を求めているのか。 |
■「自分は何でもできます」というITエンジニアは必要ない
今回話を伺ったのは、リアルコムのCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)の竹内克志氏だ。今回は同社が欲しいITエンジニアという話から始め、次第に一般のITエンジニアに期待すること、という順番で話を伺った。
リアルコム CTO 竹内克志氏 |
「うちの会社には、『自分は何でもできます』というエンジニアは必要ない」――竹内氏は、自社が求めるITエンジニア像をこういい切る。理由も明確だ。
「当社のエンジニアの仕事は、企業のシステム開発ではなく、オリジナル製品の開発です。企業のシステム開発では先に仕事があって、要望に沿った開発をしていくものです。最初に営業担当者が仕事を取ってきて、顧客の要望に合わせたシステム開発を行う場合は、特定技術に長けている技術者よりも、一通り何でもできるジェネラリストの方が活躍場面が多いでしょう。しかし、製品開発はその逆です。作った製品だけで勝負をしなければなりません。他社の製品と競争し勝てる製品を作るためには、ジェネラリストではなく、特定技術に強いスペシャリストの力がいります。際立った製品を開発するためには、スペシャリスト・エンジニアが必要なのです」
リアルコムは、ネットベンチャーブームだった2000年に設立された。当初はコンシューマユーザー向けに、知恵を検索するサイト「Kスクエア」を起ち上げた。その後、このアイデアをビジネスユーザー向けに転換したナレッジマネジメントソリューション「REALCOM KnowledgeMarket」の提供を開始。その後は、一貫して企業向けに「人」を中心とした情報共有基盤を提供するビジネスを行っている。
■スペシャリストが欲しい
「当社は、会社の成長とともにオリジナル技術の育成に取り組んできました。技術的環境も整いつつある中、際立った技術力を持つスペシャリストの必要性が高まってきました。できることなら、まったく違う技術のスペシャリストを5人ほど集めたい。5人のスペシャリストがそろうことで、他社の製品とはまったく違う特性を持った製品開発も可能になると思うからです」
竹内氏は、スペシャリスト集団によって新たな製品を開発することで、リアルコムが海外のITベンダと肩を並べて競争ができる企業となる可能性を感じている。
「コンピュータを学んでいる学生さんに対して、同じソフト開発といっても受託開発と、製品開発には大きな違いがあることを説明し、『ぜひ、製品開発の道に進んでください!』と呼び掛けています。日本でソフトを開発しているエンジニアの95%は、受託開発に関係しています。そうであっても、当社のような製品開発を行っている企業があることも知ってほしい」と竹内氏はいう。
■意識しなければなれない存在、それがスペシャリスト
日本のITベンダの多くは、スペシャリストよりもジェネラリストを育成する傾向にあると、竹内氏は指摘する。日本のITベンダに勤めるITエンジニアは、プログラマ→システムエンジニア→プロジェクトリーダー→プロジェクトマネージャという直線的なキャリアパスにいまだに組み込まれているからだろうか。
日本のITベンダがスペシャリストへのキャリアパスを考え始め、実施し始めたのは、まだ最近のことだ。
そうした状況をかんがみ、日本には真のスペシャリストはそう多くはないと竹内氏は指摘する。では、スペシャリストになるには、ITエンジニアはどんな修業をすればよいのだろうか。
「スペシャリストというのは、本人が意識しないとなれないものだと思います。気が付いたら、スペシャリストになっていたということはあまりない」
スペシャリストになるための第一歩として、「本人がソフトを好きか否かが重要」と竹内氏は指摘する。この「ソフトが好き」というのは、ちょっとした好きというレベルではなく、ソフトウェア開発に身も心も捧げる……くらいの気合が必要という意味を含んでいるようだ。
「インターネットは、情報を豊富に集めることができます。ですからソフト開発でも、世界中から情報を集める気構えが必要です。とにかく、ソフトが好きで、子どものころから開発をし続けてきた、というような人でなければ、スペシャリストになるのは難しいかもしれません」
■英語力は必須要素
スペシャリストとなるために、もう1つ欠かすことができない要素が、「英語を習熟すること」と竹内氏は断言する。英語に関しては、スペシャリストだけでなく、ジェネラリストであっても必須だ。ITの新技術は、現在は米国からのものが多い。英語で新技術を勉強する能力を持てば、ITエンジニアにとっては大きな強みとなる。
「現実に、英語は世界の共通言語となっています。当社の中国のパートナー企業で上海に本社を置く会社は、全社員が中国人であるにもかかわらず、社内の公用語は英語です。米国の仕事が多いために、公用語を英語にしているのだそうです」
竹内氏も学生時代に英語の必要性を感じ、そのころから英語のラジオ放送を日常的に流すようにして耳が英語に慣れるよう心掛けたという。大学院で自分自身の英語力の不足を痛感し、大学院卒業後に外資系ITベンダに入社。これは、外資系企業で働くことで生きた英語に触れる機会を増やし、最先端の技術情報を習得できると考えての判断だった。
それだけにマネジメントを行うようになった現在の立場からすると、「英語ができない優秀なエンジニアを見ると、なんだかショックなんですよ」と率直な感想を漏らす。
「先ほどお話ししたように、中国では優秀なエンジニアは、ほぼ100%英語に堪能だと見て間違いない。ところが、日本はそうではないというのが残念です。最近の若いエンジニアは、危機感を持っている人が増えているので、状況は変わっていくとは思うのですが……」と竹内氏はいう。
■売り込むにも英語が必要
ITエンジニアが活用するのは専ら技術用語ばかりで、技術用語だけきちんと理解できれば、それほど英語力は必要ないという考え方もある。しかし竹内氏は、「例えば『パソコン』というのは、和製英語です。そのように知らずに和製英語を使ってしまっては海外では通用しません」と述べ、やっぱり英語力は必要であると指摘する。
しかも、英語を学ぶというのはITエンジニアが技術情報を習得するためだけに必要なものではない。リアルコムのように製品開発を行っている企業が日本以外の国にソフトウェアを売り込もうとする場合、必ず英語が必要になる。
「技術とともに乗り越えなければならないものに、カルチャーの壁というのがあります。単純な例でいえば夏時間です。日本には夏時間はありません。ところが、米国には夏時間がある。米国にソフトを売り込むためには、夏時間に対応する機能を持つことが必要です。そうした細かい問題を乗り越えるためにも、英語が必要になってくることがあるのです」と竹内氏は力説する。
英語ができるスペシャリスト。いまはITベンダもスペシャリストの重要性を認識し始め、ITアーキテクトなどを積極的に育成しようとしている。そうなれば、今後スペシャリストの需要は、製品開発の世界だけではなく、システム構築の世界でも増えそうだ。
どうだろうか、スペシャリストを目指すのは?
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