第18回 プログラマ社長が語る「60歳プログラマ」の勧め
加山恵美
2008/7/2
■組み込みは3つのレイヤに分かれている
続けて澤田氏は組み込みの世界の概観を示した。組み込みの機器自体は大手のメーカーが提供することになるが、その内部は3つのレイヤに分かれているという。
1つ目はプラットフォームのレイヤで、ハードウェアを直接制御する部分だ。コンピュータそのものの知識が必要となる。メーカーから見れば基本となる部分であり、アウトソースされることが多い。イーソルの得意分野でもある。
次はメーカーのレイヤだ。かつてアナログで実現していた機能にコンピュータが入り込み、組み込みシステムで実現されるようになった部分だ。例えばカメラならメーカーごとに使い勝手に差が出るように、この部分が商品の個性となり魅力となる。このレイヤにメーカーのノウハウが凝縮される。
最後は開発会社が携わることが多いレイヤだ。近年ではデジタル家電やカーナビにもパソコンで実行するようなアプリケーションが組み込まれ、製品価値を上げることにつながっている。基本的にはハードウェアがパソコンから組み込み機器に変わっただけなので、ITシステムの開発スキルや経験をそのまま生かせる分野となる。
■どのレイヤからスタートし、専門を決めるか
これらレイヤの違いは、明確に定義されているわけではない。だが実際に、ハードウェアの制御をするか、製品の主機能を担うか、パソコン並みの機能を組み込みで実現するかで、仕事の内容はまったく違う。組み込みとは実に幅が広いものなのだ。
組み込みの世界でエンジニアとして働くなら、自分はどのレイヤで仕事をするかが大事なポイントとなる。「取っ掛かりはどこでもいいのです。メーカーに就職したらメーカーのレイヤから始めることになるかもしれません。そこからスキルを深掘りするなり、周囲に広げるなりすればいいでしょう」と澤田氏はアドバイスする。
「組み込みが面白いのは、機器によってまったく違うからです。カメラ、車、携帯電話、それぞれに必要なスキルも知識も違います。だからこそ、ひと通り習得するには時間がかかるし、一生の仕事として考えなければならないのです。イーソルが終身雇用を前提にしているのは、こうした理由からです」
■品質を高めるには仕事の体制が大事
レイヤにより大きく異なるものの、組み込みの仕事には共通項もある。製品の一部として動作するため、不具合があれば製品の回収という事態にも発展しかねない点だ。パソコン系のソフトウェアのように、リリース後にWebでパッチを提供するなどということはできないからだ。
「だから品質にはうるさいんですよ」と澤田氏は力を込める。近年では品質に対するメーカーの目はますます厳しくなっている。完ぺきにこなさないといけないというわけだ。だがそうはいっても、人間はミスをする。そこで澤田氏は「チェックする体制があればいいのです」という。つまり、起こり得るミスを検知し、チェックできる仕事の流れがあればいい。
業界やレイヤにより、組み込みの仕事の規模には差異がある。イーソルでは20人程度でプロジェクトを組むことが多い。数百人が参加するような大規模なプロジェクトと違い、「1人1人の役割や責任は明確になります。実際、この規模だと職種を明確に階層化しようがないのです。しかし任されている実感、出来上がったときの達成感は大きいと思います」と澤田氏はいう。
■自分なりのキャリア戦略を、自信を持って
澤田氏は、エンジニアとしてキャリアを考えるに当たっては「自分流」を見いだすことが大事だという。「全体を概観し、自分はどこにいるのかを把握し、そこからキャリアを考えるのもいいでしょう。しかしこれは私のやり方です。人によっては、好きなことをとことんつきつめるのもいいかもしれません。方法論はいろいろとあるのです。大事なのは自分なりのキャリアの築き方を見いだすことです」と澤田氏。
近ごろ、エンジニアという職種が「3K」とされることがある。このことに関して、澤田氏は懐疑的だ。「実際にはコンピュータのエンジニアは肉体労働ではありませんし、従来の3Kとは意味が違います。今後、どれだけ自分の能力を高めることができるかに目を向けるといいのではないでしょうか。ずっとエンジニアを続けたいなら、50歳でも、60歳でも、できますよ」
自身も生涯プログラマを志向しているだけあって、「できますよ」という部分がとても力強い。「絶対やれる」と自信を持つことの大切さを澤田氏自ら示してくれた。
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