第2回 プロマネにならないと生き残れない?
■プロジェクトマネージャになっても「受ける側」では……
安田さん(仮名)は中堅のシステム開発企業で、Web系アプリケーション開発に従事している20代後半の男性。転職相談に来たときの最初のひと言は「ITエンジニアを辞めたい」。
開発業務で熱心にスキルを磨き、サブリーダーを任されるようになったころからキャリアプランを真剣に考え始め、同時に大きな疑問を抱くようになったとのことでした。
ITエンジニアの仕事は好きだったものの、常にお客さまから指示されたものを指示されたとおりに作らなければならないことが、どうしても我慢できなかったそうです。明らかに非効率なシステム、意味のない仕様でも、お客さまが作れといえば拒むことはできない立場。どれだけ心血を注いでも、結局は他社の持ち物であり、最後まで責任を持って面倒を見られないことにも不満を持っていました。
現在の職場でITエンジニアを続け、いずれはプロジェクトマネージャへとステップアップすることを考えていた安田さんでしたが、重要な役割を任されるようになったところで仕事を「受ける側」であることは変わらず、むしろお客さまに近いところで仕事をする分不満が大きくなっていくのではないかと危惧(きぐ)していました。
「ITエンジニアとしての最善のパスがプロジェクトマネージャなのであれば、どこまで頑張っても越えられない壁があることが分かったのです。大幅な年収ダウンを覚悟すれば、自社のサービスを企画するような仕事にキャリアチェンジすることが可能だと聞いたので、ぜひチャレンジしたいと思っています」。そう語ったのです。
■自らサービスを発信することの価値
私は安田さんにこう提案しました。「もちろん年齢的にキャリアチェンジは不可能ではありません。でも、そんなリスクを犯さなくても、年収を下げることなく自社でサービスを提供している企業で働く方法があります」
安田さんに紹介したのは、大手インターネットサービス企業で、自社のWebサイト上で使用されるアプリケーションの開発を担当するITエンジニア職でした。この企業は、システム開発の大半を外部ベンダに委託しており、社内のITエンジニアは主に部門間の調整、要件定義からシステムの内容を企画するフェイズまでを担当していました。この企業であれば、これまでの開発経験をフル活用しながら、自社のサービスを企画する場面にも深くかかわることができます。
安田さんは喜んで提案を受け入れてくれました。Web系の開発では十分な実績を持っていたので、企業からの評価も非常に高いものでした。加えて、単なる開発では納得できない意欲が、指示待ちで業務をこなす人材との差別化になり、みごと難関を突破。晴れて「受ける側」から「出す側」への転身が成功したのです。
「受託側での業務経験があるので、発注の際にどんな部分に注意すればスムーズに進むかは理解できています。『可能な限り丁寧に分かりやすく』を心掛けています」という安田さんの仕事ぶりは、ベンダ側からの評判も上々とのことです。
じっくりと腰を据えて自社のシステムやサービスに向かい合い、その成果を社内で分かち合いたいという希望を持っているITエンジニアであれば、安田さんの例のようにユーザー企業のシステム企画やIT推進業務で力を発揮するという選択肢があります。
プロジェクトマネージャへの「縦軸」のキャリアプランもあれば、開発経験や業務知識を活用して立場を変える「横軸」のキャリアプランもある。選択肢は縦横無尽に広がっているのです。
■実現したい価値を、幅広い可能性から選択しよう
冒頭の事例の千原さんは、今後も技術のスペシャリスト、プレイングマネージャとしてキャリアアップしていくでしょう。次の事例の安田さんは、将来的にはITを中心とした企画職としての活躍を期待されています。
「ITエンジニアとして生き残るには、プロジェクトマネージャになるしかないのか」という点に関していえば、この2つの事例からもそうではないと断言できると思います。
もちろん管理職も、ITエンジニアの未来にとって有望な目標です。しかし、それが自身の望んでいる価値を実現できるものでなければ、どれだけ高い収入が得られても、高い地位に上れる可能性があったとしても、意味がありません。
自分がどんな仕事に価値を感じるのか、充実感を得られるのか。その「ツボ」を知ることこそが、転職活動を成功させるために最も重要な要素になるでしょう。
しかし、1人きりの転職活動では視野が狭くなり、自らの可能性を決めつけてしまいがちです。キャリアコンサルタントは皆さんの選択肢をさまざまな観点からピックアップしますので、「自分にはこの仕事しかない」と思った経験があるならぜひ気軽に相談に来てください。意外な可能性にびっくりするかもしれませんよ!
今回のインデックス |
「転職でキャリアアップ」のウソ・ホント(2) (1ページ) |
「転職でキャリアアップ」のウソ・ホント(2) (2ページ) |
筆者プロフィール |
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント 高野和幸 通信キャリアや大手航空会社のユーザー系システム開発企業にて、スーパーバイザーとしてスタッフ管理を担当。現在はキャリアコンサルタントとして、SEやWebクリエイターを中心に転職希望者のサポートを行っている。日本産業カウンセラー協会認定 産業カウンセラーおよびキャリアコンサルタント。 |
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