第5回 新卒1年目でも転職できますか?
数年前と比較すれば、転職は身近なものになってきている。だからこそ気を付けたい「転職でキャリアアップ」の思い込みについて、「ウソ・ホント」の視点で考えてみたい。 |
■増加する若手エンジニアの転職
4月に入ってから、朝の通勤電車で目をランランと輝かせた多くの新入社員を見掛けるようになりました。熱い思いを胸に、夢に向かって突き進もうという姿(私の勝手な想像かもしれませんが……)は本当に気持ちの良いものです。毎年、そういう彼らの様子を見ると非常にうれしくなり、「自分も初心に帰って仕事を頑張ろう」という気持ちになります。
しかし、そんな新入社員たちも入社3年目までに3割以上が退職してしまうといわれています(文部科学省の「新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移」)。通勤電車で私にやる気を与えてくれる新入社員たちも、3割が3年で退職していくことになるのでしょうか。
このことを念頭に置いて転職市場を見てみましょう。若手社員の転職率の上昇と同時に、転職市場でも第二新卒のニーズが非常に高まっており、多くの企業が第二新卒枠での求人募集をしています。従来、転職というのは自身が積み上げてきたキャリアを売り込むことであり、転職希望者はある程度の経験を積んだ人が中心でした。しかし、それとは別枠の第二新卒のニーズの高まりにより、若手にとっても非常に転職しやすい環境が整ってきているといえます。
たとえ新卒で入社して1年目のITエンジニアであっても、転職によるキャリアアップの可能性は広がっています。その半面、キャリアアップにつながらない安易な転職をしてしまうという失敗も増えているのが現実です。
では、若手社員が転職で失敗しないためには、何に気を付ければいいのでしょうか。その答えを探るために、新卒で入社して1年目で転職を決意した2人のITエンジニアの例を見てみましょう。
■自分だけが成長していない?
嶋さん(仮名)は、大手システムインテグレータに新卒で入社し、プログラマとしてようやく1年を迎えようとしているITエンジニア。この1年間は客先でのコーディングに追われ、目の前にある仕事をこなすことで精いっぱいの毎日でしたが、そういう現状に特に不満もなく過ごしていました。
そんなとき、大学時代の友人たちと集まる機会がありました。そこで嶋さんは、友人たちが職種は違えど、少しずつ責任のある仕事を任せられる立場になっていることを聞いたのです。現状の嶋さんの仕事は、仕様書のとおりにコーディングし単体試験をこなすことの繰り返しです。嶋さんは友人と自分とを比較し、自分だけがまったく成長できていないのではないかという不安を抱くようになりました。
そこで嶋さんは転職活動を始めました。しかし面接までいっても内定獲得には至らない状況が続き、私の会社に転職相談に来たのです。
私が嶋さんに転職理由を聞いてみると、「キャリアアップしたい」とのことでした。「具体的にどうされたいのですか」と重ねて質問してみても、答えは「責任ある仕事がしたい」という漠然としたもので、嶋さんが今後どうなりたいのかという目的がまったく見えてこなかったのです。面接で不合格になってしまう理由はここにあるのだなと感じました。
一方、嶋さんの1年間の経歴を見てみると、現状をあまり悲観的に考える必要はないように思えました。嶋さんは入社以来、製造業向けの財務会計システム開発を担当していました。大規模な案件であり、友人たちのように1年目から責任あるポジションを任されるのが難しい状況であるのは仕方ないことです。また、この分野のITエンジニアのニーズは非常に高いのです。
そこで私は嶋さんに、もう少し経験を積み、財務会計に関する知識を増やして成長していくことで、3年後、5年後には本当にキャリアアップできる転職が可能であるとお話ししました。
いま無理に転職をしても、自分の強みを特に持たないプログラマとして転職することになり、状況はあまり変わらないでしょう。幸いにも嶋さんの職場には、今後上流工程から開発経験を十分に積んでいける環境がありました。嶋さんもそのことを理解し、転職をいったん思いとどまったのです。
今回の相談をきっかけに、嶋さんは「将来、財務会計分野のコンサルタントとして活躍したい」という目標を定めることができました。そして日々の業務に携わりながら、財務会計に関する業務知識をもっと増やしていくことを決意しました。いままではただ漠然とこなしていた業務に対しても、目標を持つことで前向きに取り組む気持ちになることができたのです。
数年後、嶋さんが転職という選択をしたら、おそらくそれは嶋さんにとって本当のキャリアアップ転職となることでしょう。
今回のインデックス |
「転職でキャリアアップ」のウソ・ホント(5) (1ページ) |
「転職でキャリアアップ」のウソ・ホント(5) (2ページ) |
@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。
現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。
これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。