第9回 組み込みのOS開発者は何の夢を見るか
三浦優子
2008/1/10
■ほかの開発者と異なる資質が必要
権藤氏は、OS開発を任せられるエンジニアというのは、ほかのソフト開発を担当する技術者とは異なる資質が必要だという。
「プログラム開発が好きというのは、どんなソフト開発者にとっても欠かせない資質だと思います。しかし、OSを開発するにはそれに加え、ある種の支配欲のようなものと、自らOS作りにかかわりたいという強い意志を持っている必要があると思います。OSはアプリケーションを動かす際の基本となるものです。何となく書いたプログラムでは駄目なんです。アプリケーションだったら、仮にそれが問題があっても、アプリケーションが影響を受けるだけ、ということもあります。しかし、OSの作りが悪いと、システム全体に影響を及ぼすことになります。そこまで考えて開発できるエンジニアでないといけない」(権藤氏)
もっとも、篠原氏は「OSというのは、OSそのものをキレイに作るだけで事足りる、というものでもないんです。OSというのはアプリケーションを載せて動くもの。アプリケーションを動かすことまでを想定し、開発をしなければならないのがOSです。これから坂本君はそのあたりのことまで考えて開発を進めていかなければならないでしょう」という。
■OS開発の肝はどこに?
実際は、OS開発にどのような思いを持って坂本氏は開発を行っているのだろうか。
「確かに同年代のほかの人がやっていないことをやっているのだという快感はあります。ただ、ほかの人がやっていないことをやるというのは、参考例が少ないことも事実です。私自身が参考にしているのは、昔作られたOSで現在も使われているものや、OS開発の仕組み作りが書かれた本ですね。ただ、本を読んでいるだけでは実感できないことも多々ありますから、本を参考にしながら、体験を通して、1つ1つ、試しながら実感していくということでしょうか」(坂本氏)
この本で学んだことを実体験で補完していくという坂本氏の言葉に対して、権藤氏は次のようにフォローする。
「われわれが手掛けるリアルタイムOSの実装は、自分で動かしてみないと分からない部分が多いものだと思います。例えば、『並行動作』を概念として理解したとしても、本当の意味は動かしてみないと分からない。同じように、アプリケーションを動かすというのも、実際にアプリを書いて動かしてみないとわからないことがある。坂本君ももっと経験を積んでいくことで、もっと深い部分を理解することにもなるでしょうし、エンジニアとしてレベルが上がっていくんだと思います」(権藤氏)
■「海外に羽ばたくエンジニアに」と周囲は期待
最後に、坂本氏に将来はどんなエンジニアになりたいと思っているのか、尋ねてみた。
「実はものすごく、欲張りなんですよ。現在はOS開発を担当していますが、これからはOS以外のものも手掛けてみたい。例えばミドルウェア。ミドルウェアを含めたシステム全体など、まだまだ知らない領域があるのでやってみたい」と話し、新しい領域に挑戦することに意欲を見せる。
その一方で、「すごく負けず嫌いなんです。だから、いま、OSを担当しているのですから、『OSに関することなら、こいつに聞け!』といわれるような存在になりたいとも思います」と語り、現在担当する技術を極めることに対しても前向きな様子だ。
ただ、権藤氏によると「本人は、『これをやりたい!』と進んでリクエストを出すタイプではないんです。でも、今日ご紹介してお分かりのように、本人はとっても能力が高い。1つのことをある程度任せられるようになったら、新しいことを任せていろいろな経験を積ませたいと思います。ただ、私たちは仕事としてやっているのですから、ある程度成果を出してもらわないと次のことは任せられない。任せた仕事にどれだけの成果が出るかで、今後が決まることになると思います」という。
イーソルは組み込みシステムに関しては、OS、開発ツールなどトータルで手掛けている。そのため、顧客は国内だけでなく、海外にもいる。坂本氏は海外に通用する技術者になりたいという希望はないのだろうか?
「そういうチャンスがあれば」と、相変わらず淡々と話す坂本氏に周囲は期待を見せる。
「ありがたいことに、イーソルで手掛けているソフト、それも坂本君が担当している領域は、日本で数少ない、海外に輸出が可能な領域のものです。だから、これからの本人の頑張りによって、海外で通用するエンジニア、海外で使われるソフトの開発者になることも決して不可能ではないんです」(権藤氏)
それが実現するかどうかは、これからにかかっているようだ。そんな海外でも通用するOS作りが、坂本氏の夢なのかもしれない。
今回のインデックス |
OSの開発者として苦労する点は何か |
OS開発の肝と将来の夢 |
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