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不定期コラム:Engineerを考える(12)
コミュニケーションが仕事の成否を分ける

加山恵美
2006/4/1

コミュニケーション不全がトラブルを招く

 最近の取材で何回か、ITエンジニアの仕事とコミュニケーションの重要性が指摘されるのを聞いた。まったく別のテーマで取材していて似たような話が核心に出てきたので心に残っている。

 あるときは新人のスキル習得を語る中で。新人研修で架空のプロジェクトを想定しチーム内で役割分担して仕事をさせてみると、成功するチームとしくじるチームに分かれることがある。スキルは均等になるようにチーム分けをしたにもかかわらずだ。成否を分けるのはチーム内のコミュニケーションだという。いわく、

「失敗するチームにはコミュニケーションにミスがあります」

 またあるときはプロジェクト管理の体験談で。プロジェクトで不具合がもつれにもつれて収拾がつかなくなることがある。そうしたトラブルの元をたどると、コミュニケーションの不備があるという。いわく、

「トラブルがあるところにコミュニケーションの不備があります」

 さらに最近読んだ本の中でもシステムエンジニアの仕事の大半は人にあると著者は指摘し、コミュニケーションの重要性を繰り返し強調していた。こちらもいわく、

「コミュニケーションの改善がすべて」

 システムエンジニアの仕事を成功させるにはコミュニケーションが鍵であるようだ。ただしコミュニケーションが良好であれば成功するとは限らないが、少なくとも失敗するところにコミュニケーションの不備があるということは共通して得られる結論だ。

「バグはユーザーが生む」

 とはいえ、関係者が良好なコミュニケーションをしていれば自然にバグが直るわけでもないし、システムにのしかかる重い負荷が水蒸気のように蒸発するわけでもない。だが小さな不具合でもコミュニケーションに不備があるままだと、ボヤが大火事に発展してしまう。

 予期せぬことが起きると人間は困惑する。「聞いてないよ!」と動揺し、怒り、時には亀裂を生むこともある。予測ができず解決できないこと、それがトラブルなのだろう。

 それに対して、影響の大きい不具合でも事前のコミュニケーションが十分にあると人間の心理に与える影響は少なくて済む。例えば「この機能は開発中なので実行すると異常終了します」「月曜日の午前中はアクセスが集中するので反応が遅くなります」など、たとえ不可抗力でも分かっていれば関係者は代替案や対処を考えることができる。

 トラブルは人間の間に生まれるものなのだなと思う。バグについても似たようなふしが思い当たる。 前に開発者から「バグを生むのはユーザーだ」 と聞いたことがある。

 もちろんバグはプログラミング上のミスで生まれるものだが、誰かが気付かなければバグは検知されない。ユーザーが気付くことでバグは露呈し、認定される。中にはユーザーにとって想定外の動きをしたという理由で、バグというぬれぎぬを着せられる仕様もある。それを「バグはユーザー(の指摘)が生む」と。いい得て妙だ。

ITエンジニアは人間と仕事をしている

 話を元に戻すと、コミュニケーション、つまり情報伝達は重要だ。知るべき人が何かを知らないと、トラブルが起こる。少なくともその可能性は高い。トラブルが起きると時には思わぬ代償が必要となる。トラブルを回避したり、最小限に抑えることの積み重ねが成功を導くといえるのだろう。

 意思疎通、情報伝達が大切なのは承知しているはずだが、悲しいかな、コンピュータと仕事をしているとついコミュニケーションの重要性を忘れてしまいがちだ。いつも向かい合っているのがディスプレイであり、生身の人間の顔ではないからだろうか。

 ITエンジニアの仕事ではディスプレイを凝視することが多い。プログラミングをするため、サーバのパフォーマンス監視のため、電子メールを作成するためなど。頭はシステムの中身を考えている。機械と戦っている。そういう生活を送っていると仕事の評価は技術的な完成度で測るべき、そう思いたくなる。

 それが間違っているというつもりはない。技術で仕事をしているエンジニアが技術を軽視するなんて本末転倒だし、成果物が技術的に高度であれば素晴らしいことである。だが、仕事の評価や成否はどうだろう。どれだけ目的に沿っているかといい換えればいいだろうか。

オリンピック競技ではない

 オリンピックのようにひたすら技術や能力を競う場なら話は別だが、仕事とは依頼や目的があってそれを達成することで対価を得るのではないだろうか。人間がいて仕事が生まれるわけだし、その成否を評価するのも人間だ。一緒に仕事をするのも人間だ。

 それで、仕事をするうえで人間とのコミュニケーションはおろそかにしてはならない、と考える。どれだけコミュニケーションが確実または良好にできているかどうかで、ITエンジニアの仕事は成否が分かれる。冒頭で熟練のITエンジニアたちが語ってくれた話の深層には、そうした教訓があると心得ておくべきなのだろう。つい忘れてしまいがちだが、仕事をする相手に伝えるべきことは伝わっているだろうか。

筆者紹介
加山恵美(かやまえみ) ●茨城大学理学部化学科卒業。金融機関システム子会社とIT系ベンダにてシステムエンジニアを経験し、グループウェア構築や保守などに携わる。そのかたわらで解説書を執筆していたが、それが本業と化す。技術資料を提供することで、日夜システムと格闘しているエンジニアをサポートできればと願う。幼少からバレエを始め、現在コンテンポラリーダンスを習っているが、いまだに身体が硬いのが悩みとか。双子座A型。

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