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外資系コンサルタントのつぶやき 第26回
コンサルタントの存在意義って何だろう

三宅信光
2006/3/29

まずはいい訳から

 長い間ごぶさたしてしまいました。私事で恐縮ですが、身辺にいろいろなことが起き、筆を執ることができませんでした。外資系コンサルタントとして仕事をしてきて、感じたさまざまなことを書いてきましたが、今回外資系コンサルタント会社を私自身が離れることとなりました。ですからこの連載(といっても連載というには間隔が開きすぎていましたが)は、今回で最終回にしたいと思います。

 私はまったくITと関係のない業界からぽっとこの業界へ転職してきました。いろいろな経験をさせてもらったわけですが、その間にこの業界を取り巻く環境は大きく変化したように思います。数年前はまだITの案件というだけで大きなお金を企業が平気で出してくれた時代でしたし、この業界にいる人もまた、個性の強い(アクの強い)人が多かったと思います。

会社も従業員も変化した?

 先日同僚(正確には元同僚ですね)と飲んだときに、「ちょうど三宅さんが入ってきたときの新人が一番個性があって面白かった」という話が出ました。さらに前の時代の新人はもっと面白かったのかもしれないですが……。ただ、近ごろは優等生的な人が増えて、優秀なのかもしれませんが、面白みに欠けているように私も感じます。

 私が入社したころは、上にかみつく元気がありましたし、仕事に対する姿勢はとても積極的で、「ああ、コンサルタント会社の新人は、こんなにもアグレッシブなんだ」と感じさせてくれました。もちろん、社会的に非常識な行動を取ってしまうような一面も持ち合わせていましたが……。

 このごろの新人はとっても優等生的な人が増えました。非常識なことはしなくなった代わりに、仕事に対するアグレッシブさもなくなってしまったように思います。良くも悪くも昔に比べて活力がないように思えるのです。

 業界としては徐々に落ち着いてきて、かつてのような高成長産業ではなく、安定期に向かって動いている。そんな感じを受けます。これからまだIT関連といわれる会社が多く出てくるでしょうが、それはいままでのようにIT自体ではなくて、「IT基盤」の上に立つ新しい会社なのだと思います。しかし面白い時代の名残を見ることができたのは、私にとっては幸運だったと思っています。

最初に感じたのは「幻想を売る」ということ

 ITコンサルタント業界に入って一番強く感じたことは、「幻想を売る」あるいは「無から有を生じさせる」職業だということでした。こういうと、同業の方はとても反発するのかもしれませんが、コンサルタントという職業は、決して地に足の着いた仕事であるとは思えません。

 ITの世界はいままで、ある意味「幻想」を売っていたのだと思います。こんなこともできる、あんなこともできる、「はずだ」。もちろん、「はずだ」で終わるものだけではなくて、だからこそこれほど世界を大きく変えてしまったのですし、IT業界が隆盛を誇れたのだと思います。しかし、成功の影に非常にたくさんの失敗、失敗とはいかないまでも、経営的には何の変化ももたらさなかった事例が山ほどあります。

現実を正確に伝えることの難しさ

 コンサルタントはクライアントに、現実を正確に伝えることはめったにないように思えます。非常にきらびやかな世界をあたかも確実なもののように話すことが多いと思います。しかし、そのほとんどは「うまくいったらできるかもしれない」という世界です。これはITコンサルタントに限らないとは思いますが。私が知っているITプロジェクトで結果として投資した企業が経営的にそのプロジェクトで大きな利益を得たものは数少ないと思っています。

 では、コンサルタントが存在する意味はないのか、というとそんなこともない、と思います。

コンサルタントの存在意義とは

 まず、第三者的な立場の人間に自社を見てもらい、意見を聞けること。企業内にいるとどうしてもいいにくいこと、見えてこないことが山ほどあるようです。私がいままでクライアントの方を見てきても、「こんなに優秀な方が、なぜこんな簡単なことに気が付かないのだろう?」と思うようなことがたくさんありました。これはやはり自社の中の人間関係、さまざまな過去のいきさつ、そうしたものに縛られてしまうからだと思います。

 また、コンサルタント業界は非常に個性が強く、独特の知識を持っている人が多くいます。また、さまざまな業務に対して知識を吸収することがとても早い人も多いです。適応性が高いのです。逆にいうと、そうした人並みはずれた適応性、知識欲、また我が強いといってもよい個性の強さ、そうしたものがないと、優秀なコンサルタントにはなれないのではないか、と思っています。

 これだけ聞くとコンサルタントとはとても優秀な人たちで、この人たちが仕事をしたらすごい、と思われそうですが、実のところそうでもないようです。

 実際にコンサルタント業界の人がいわゆる実業の世界で成功した、という話はあまり聞きません。仕事を進めていくうえでとても大事な、「継続性」や「協調性」という点が欠けている人も多いと思います。また、コンサルティングで優秀であるから企業経営に向いている、というわけでもないようで、コンサルタントから企業経営で名を残した人は少ないように思います。やはり独特の資質なのではないでしょうか。

最後に近況

 近ごろ職が変わり、また違う世界の人々とお仕事をさせていただいています。中にはシステムエンジニア出身の方もいて、「やはり雰囲気が違う」と感じます。システムエンジニア出身の人はおとなしいひとが多いようでし、コンサルタント業界の人と異なって地に足が着いている。これはとても大切なことだと思っています。いまもシステムエンジニアからコンサルタントを目指す方が多いのかどうか、私は知らないのですが、ものを作り上げて行く喜びがあるエンジニアの仕事はとても魅力あふれるものだと思います。コンサルタントにはさまざまな職業を体験できる魅力がありますが、どうしても何かを主体的に達成することは難しい職業でもあります。最後に判断するのはクライアントですし、コンサルタントはあくまでもアドバイザーでしかありません。クライアントの会社の最終的な経営判断にプラスになる発言をすることはなかなか難しいのです。

 もちろん、大きな絵図を描いて、それに従って多くの人々が動き、自分の思ったとおりに物事が進んだときの喜びは大きなものです。たくさんの人々と一緒に働き、1つのプロジェクトを成功に導いたときの喜びはまた格別のものだということもよく分かっているつもりです。それは一般ではなかなか味わえないものかもしれません。しかし、ものをつくり、それを現場で実際に使う人が見て喜んでくれる、そういう喜びも大きな絵図を描いて得るものに決して劣らないものだと思います。

 天職、という言葉があります。自分に合っていて、かつ、自分でもそう思える職業のことか、と思っていますが、自分に合っていても、自分ではそう思えないこともままあるようです。他人が食べているおいしそうなお菓子は自分にとっては毒になるかもしれません。ほかの世界へのあこがれはその世界をよく見て、それ以上に自分をよく見てからでなければ、胸にしまっておいた方がよいことが多いようです。

 これは私の経験です。長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。

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