学校のIT教育現場も人材不足 特別編
最終回(第7回)
高校生の科学オリンピックは、ITなんて当たり前
中内美紀
2002/9/18
息抜きの施設やサービスまで |
ISEFの期間中、ホテルはどこも高校生や中学生であふれ、街中が関係者だけで埋め尽くされます。コンベンションセンターは、メイン会場以外もフル活用しています。驚いたのは、特設のゲームセンターまでもが設置されていたことでしょうか(写真8)。最新のコンピュータなどのほか、さまざまなゲーム機までが並ぶ巨大なものです。この特設ゲーム会場は、夜の7〜11時までの間ならば自由に出入りして遊ぶことができ、昼間は準備に追われる「Finalist」たちの息抜きの場となります。もちろん無料です。しかし、ここはあくまでゲームセンターとしての利用で、インターネットは一切使用できません。発表に必要な調べものが必要な場合は、やはり特設のインターネットルームを使用できます(写真9)。
写真8 「待ち時間なしの巨大ゲームセンターは開催期間中だけの特設 |
写真9 審査前ぎりぎりまで、情報を収集し研究発表に役立てる熱心な学生も多 い |
「Finalist」たちは、最後の最後まで自分の研究を最大限にアピールする努力が可能なわけです。専用のパソコンが50台ほど設置され、そのほかにリラックスできるエリアが設けられた、こちらも広い部屋です。メリハリが付けられているなと感じました。
参加している学生たちにとっては大会に出場するということは、相当なプレッシャーになるようですが、そんな彼らの緊張を解くために楽しいイベントが多数用意されています。到着日にはインターナショナルパーティが、2日目にはオープニングセレモニーが用意されていました(写真10)。
写真10 どちらの写真も到着日に行われたインターナショナルパーティの1コマ |
また、ルイビル市主宰のウェルカムパーティでは、市内野球場での野球観戦に無料招待されました。こうした催し物の間に学生たちは、互いに交流を図ります。どうやらピン(バッジのこと)交換が恒例のようで、各自が持参したオリジナルピンを交換し、シャツや帽子に付けていました。
また、期間中には「プレゼンテーションを効果的に行うために」とか、「インタビューを受けた場合のマスメディアへの対応」といった内容のセミナーも開催され、学生たちは自分たちの必要に応じて参加できるようになっていました。また、各分野のスペシャリストを集めたパネルディスカッションが開催され、ここでは学生たちが、日ごろ抱いているさまざまな疑問を直接彼らに投げ掛けることができます。
授賞式は、グラミー賞などでも行われるアナウンス形式での発表です。審査結果は、最後の最後まで知らされませんので、「Finalist」たちは会場の前方に座り、緊張しながら発表の時を待ちます(写真11)。受賞者が呼ばれて壇上に招かれるたびに、各国の仲間たちからの声援で多いに盛り上がります。最優秀賞のほかにも各スポンサーから多くの賞が用意されています。
写真11 授賞式の様子 |
日本からの参加者 |
日本代表の「Finalist」は、山田哲也さん(神奈川県中央農業高等学校 3年)と柴田恭幸さん(千葉県船橋高等学校3年)です(写真12)。2人とも、日本国内で行われた「日本学生科学賞」(読売新聞主催)で文部科学大臣奨励賞、内閣大臣賞をそれぞれ受賞し、ISEF大会の参加権を得ました。柴田さんは2年前のグループ参加に続き、念願の個人参加の夢を果たしました。山田さんは「植物遺伝資源のロゼット化による長期保存方法」で生物部門の第3位、柴田さんは「磁場中における科学反応に伴う溶液の回転運用の解明」で物理部門の第4位となりました。
写真12 今回参加した柴田さん(左)4位、山田さん(右)は3位を見事獲得した |
山田さんは、「日本のやり方で研究内容をまとめてしまったため、少し残念です。ほかの参加者たちの研究を見ると統計学は当たり前に使われていますが、日本では大学で初めて学ぶのですから……。審査員は、研究前のプロセスやその実用性にも関心を寄せ、詳しく聞かれました。世界各国からの専門家が自分の研究に興味を持って真剣に話を聞いてくれるということは、うれしかったですね。また、近くのブースで友達になった女の子のプレゼンテーション能力には驚きました。英語の能力に関係なく、自分の研究をいかにアピールするかということを、今回学んだような気がします。主催者側も参加者側も、皆熱気に満ちた“熱い”大会でした。だからこそ、みんな充実した顔だったのだと思います。」と、今回の感想を語ってくれました。余談ですが、米国では統計学を高校の必須の科目に加える学校も現れています。
あまりに異なる日本の現状 |
柴田さんは、「大会に参加して、科学への自分自身の考え方が変わったと思います。日本では、暗い人間とも見られがちな分野に対し、サッカーや野球など、スポーツと同じ華やかなイメージを重ねている世界各国の同世代の人に会って、自分の中にあった(科学への)悪いイメージを打破できました。この科学の世界で生きていこうと自信を持って決心させてくれた大会だと思います。また、プレゼンテーションなど、日本では重視されていない教育が、世界では当然のように行われていることに対して、世界とのギャップをあらためて感じました」と、科学に対するイメージの違いと、プレゼンテーション能力の差を感じたようです。
2年前にISEFに参加したという風間大輔さんと神田哲宏さんも、わざわざ見学に訪れていました。その理由を聞くと、「ISEFに参加すると最高のライバルで最高の友達に出会うことができる」からだそうです。さらに「日本では、科学を勉強していても教師に偏見で見られることがあり、科学を間接的に非難されているようで悔しかった」と、過去の体験を話してくれました。
写真13 科学に対するイメージが、日本と外国とではまったく異なるのを見て驚いたという(左から柴田さん、神田さん、山田さん、風間さん) |
風間さんは「他国からの参加者の多くは、参加費を国や州政府が負担しているそうです。日本からは『日本学生科学賞』によって数名が何とか派遣されていますが、やはり寂しいですね。科学や情報教育のことを本気で心配しているのならISEFは科学への興味を引き出す絶好の材料になると思いますが、政府が無関心であることが非常に残念です」といいます。
ここ1〜2年、中国、インド、マレーシア、フィリピン、韓国などアジアからの参加者が増えているそうです。そして、今回の日本の参加者は2名です。1200分の2という割合をどう見たらよいのでしょうか。世界にもたらす日本の経済効果やいままで培ってきたさまざまなテクノロジへの貢献度からすると非常に低い数字ではないでしょうか? 提携コンテストを複数抱える各国に比べて日本では「日本学生科学賞」だけが唯一の提携コンテストです。しかも「日本学生科学賞」で取り扱っているのは、物理、化学、生物、地学の4分野です。このままでは、コンピュータやテクノロジの分野での日本からの参加はあり得ません。本当に残念です。ISEFに参加した学生たちの感想を見てもその効果は計り知れません。政府や企業からの支援が少しでも増えることを願うばかりです。まずは、日本国内で教育に携わる人たち、そうでない人たちへの情報教育や科学に対する認識や位置付けが変わることが重要だと感じています。
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