第13回 プロジェクト成功につながる100年の杉苗
野村隆(eLeader主催)
2006/3/25
■将来のビジョンを伝える
キャリアパスも縦横に多様化するSI業界において、各人に適切なキャリアパスを見つけてあげることはとても難しいです。個人的な興味を満たし、いままでのキャリアを考慮し、今後のSI人材市場における価値も考慮し、さらに目の前の仕事を成し遂げるための作業を見つける。正直、できる方が珍しいといえましょう。
とはいえ、個人のキャリアビジョンを無視した作業を依頼しては、各人のモチベーション、要はやる気が萎えてしまいます。リーダーシップトライアングルのVisionの解説でも、キャリアビジョンを示すことによって各人がやる気を出して自律的に仕事をすることを紹介しました。
ここで話を冒頭の100年の杉苗に戻しましょう。プロジェクトマネージャは、長い目で見たビジョンをプロジェクトメンバーに示すことができるかを問われています。いい換えると、プロジェクトメンバーにキャリアビジョンを示すことができれば、メンバーのモチベーションは上がり、プロジェクトは円滑に運営できます。
長い目で見たキャリアビジョンを示さず、目の前のプロジェクトだけうまくいけばいいという発想では、メンバーのキャリアビジョンをまったく考えないプロジェクトマネージャという烙印(らくいん)を押され、メンバーのモチベーション低下の原因となってしまいます。
新卒の学生のみならず、場合によっては10年、20年というキャリアを積んだ人でも、多様なキャリアパスがある中でどのようなキャリアを歩むか不安な日々を送っているのです。
例えば以下のようなレベルで考えたとき、あなたはどこまでのキャリアビジョンを自分で考えることができますか? それを他人に示すことができますか?
- 数カ月後の目標を示す
- 1年後のプロジェクト完了時期を目指した目標を示す
- 数年間のキャリアを考えた将来を提示する
- 5〜10年のキャリアを考えたビジョンを提示する
- 20〜30年の生き方、考え方を示す
いろいろなレベルがありますが、プロジェクトマネージャたるもの、現在のようにSI業界のキャリアパスが多様化している中でも、数年間のキャリアを考えたビジョンを提示できるようになりたいものです。
■ビジョンの提示によって得られるもの
私も100年の杉苗のように、100年後のことまで予見して具体的なキャリアパスを示すことができるかというとかなり疑問ですが、どんな人にでも2〜3年のキャリアを考慮に入れた将来展望を提案できるようになりたいと思っています。
長期的なビジョンを示す好例として、松下幸之助氏の250年計画の話を紹介させてください。昭和7年、まだ松下電器産業が中小企業のころ、松下幸之助氏は社員を集めて、電気製品の販売を通じて250年かけて世界から貧乏をなくすという話をしたそうです。そしてその年を会社の使命に目覚めた元年、「命知元年」と名付けたそうです。社員はその話に異様に興奮し、次々と壇上に登って決意を述べたそうです。その後、松下電器がいまのように繁栄したことは説明する必要もないでしょう。
ここまでクリアなビジョンを示し、共に働く者の志・モチベーションを高めることは、誰でも簡単にできることではないでしょう。私自身も、松下幸之助氏レベルのことがいますぐできるとも思えません。ただこのような好例を見るにつけ、100年の杉苗の話を忘れずに、常に同様のことを心掛けたいと思うのです。
システム開発が多様化する中、他人のキャリアビジョンなんて考えることはできないとあきらめるのは簡単です。しかしプロジェクトマネージャたるもの、プロジェクトメンバーの将来のビジョン、せめて2〜3年のキャリアビジョンを示すということが能力として求められると思います。
キャリアビジョンを示すことができれば、プロジェクトマネージャの下で作業をするプロジェクトメンバーの意識が変わり、モチベーションが高まり、最終的にプロジェクトマネージャ自身が富むというように理解してみてはいかがでしょうか。
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筆者プロフィール |
野村隆●大手総合コンサルティング会社のシニアマネージャ。無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。金融・通信業界の基幹業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイトも運営。 |
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