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ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”

第14回 「もっとスキルを」が引き起こす問題

野村隆(eLeader主催)
2006/5/23

IT業界での一般的な幸せの弊害

 まとめると、IT業界での一般的な幸せの考え方は、スキルや経験について自己中心的になり、他人との比較で自分がいつも優位でありたいという思考につながる危険性を持っているといえます。

 自己中心的かつ他人との比較優位性ばかり考えるようになると、以下のようになります。

  • 自分のことばかり考え、他人のことを思いやる余裕がなくなる
  • 他人のことを思いやるどころか揚げ足を取ったり、ひぼう中傷しようとしたりする
  • 他人との比較ばかり考えているので、自分の欠点や不足しているスキルや経験ばかりが気になる
  • 自分に不足しているスキルや経験を埋めることに躍起となり、新しい要素技術や開発言語、開発手法が世に出るたびにすぐに学ばねばと恐怖心ばかりが募る

 これでは、職場やプロジェクトは殺伐としてしまいます。自分自身も恐怖心から精神的に追い込まれてストレスがたまってしまい、幸せからは程遠い状況となります。

 つまり、IT業界での一般的な幸せの考え方は、幸せをつかもうと努力をすればするほど不幸になってしまう構図になる可能性があるということです。

常に感謝するココロ

 私の周りでも、IT業界の人は、自分中心で精神的に追い込まれているためなのか、文句ばかりいう人が多いです。「もっとスキルを身に付ける経験をさせろ」「研修を受けさせろ」「キャリアアップに直結するポジションに就かせろ」。最後には、「こんな給料ではやっていられない」。

 これらのすべてを同時にいう人は少数派でしょう。しかし、誰でも何らかの不満を口にしているのが現状ではないでしょうか。

 ここで、先に紹介した三浦さんの言葉を思い出してください。

「九つまで満ち足りていて、十のうち一つだけしか不満がない時でさえ、人間はまずその不満を真っ先に口から出し、文句を言い続けるものなのだ。自分を顧みてつくづくそう思う。なぜわたしたちは不満を後まわしにし、感謝すべきことを先に言わないのだろう」

 IT業界の人たちは、「なぜ文句ばかり先に出るのか」と考えたことはないでしょうか。私としては、前述したようなIT業界の人たちの過度に自己中心的な考えと他人との比較の発想が原因だと思っています。

 自己中心的な考えや他人との比較の発想、という考え方から抜け出すためには、まず三浦さんのように、「自分の持っているものに感謝しよう」「いまの状況での幸せを見つけよう」という考えを持ってみてはどうでしょうか。

 別のいい方をするならば、仏教でいう「足るを知る」という考え方が大切です。「足るを知る」とは、自分の持っているもので満足する、幸せを感じるということです。

 例えば、他人のバッグや装飾品、車や家などに嫉妬して、「もっと欲しい!」という気持ちだけがひたすらわき上がってくるとしたら、どうでしょう。このような考え方では、結局は世界中のものを手に入れるまで幸せになれないということになります。

 論理的に破たんしていますし、そもそもそんな物欲丸出しの姿勢はみっともないと思います。

 このように考え、いま自分の持っているスキルや経験で幸せを感じるため、スキルや経験を得られたことに感謝の気持ちを持つために、数分でもいいので、これまで自分がスキルや経験を身に付けた過程を振り返ってみてください。

 自分1人でスキルや経験を身に付けたわけではないでしょう。いろいろなことを教えてくれた先輩、共に働く同期や後輩のことを考えれば、感謝の気持ちが少なからずわいてくるでしょう。

 感謝の気持ちを持ち、さらに次のスキルアップやキャリアアップの目標が与えられれば、そのチャンスにあらためて感謝の気持ちを持つ。

 自分の現在の状況に感謝の念があれば、他人との優劣もあまり気にならなくなる。自分のスキルの不足もあまり気にならなくなる。このような精神的な余裕が生まれれば、他人を気にかけることができて、自己中心的にならずに済みます。他人を気にかけることができる人が増えれば、自然と職場の雰囲気も変わり、ストレスが減るのではないでしょうか。

他人を思いやることのできる職場

 IT業界におけるスキルや経験は、ITエンジニアにとって非常に重要な要素であり、個人が持つ能力です。そういう意味では、スキルや経験の質と量を向上させるべく個人で行動するのは、自然ですし良いことでしょう。

 ただ繰り返しですが、このような行動は、自己中心的となり、かつ、他人との比較の中で生きることとなるので、精神的に負担が大きいという弊害を持ちます。

 この弊害を取り除くには、自分に足りないものを嘆く前に、自分の持っているものに感謝する気持ちを持つことが必要ではないでしょうか。「ITに関する世界中のすべての要素技術を学んですべての領域でナンバーワンにならないと気が済まない」という極論を考えれば、自分の不足を嘆くばかりの理論に、無理があることは明らかです。

 一言文句をいう前に、自分の持っているスキルや経験に感謝することを考えてみてください。自分のいおうとした文句が、くだらないこと、取るに足らないことだと思えるときがあります。

 自分の持っているスキルや経験に感謝し、他人を思いやることのできる人が集まった、文句よりも感謝の多い職場・プロジェクトが1つでも多くなることを祈念しております。

 

今回のインデックス
 ITエンジニアを続けるうえでのヒント(14) (1ページ)
 ITエンジニアを続けるうえでのヒント(14) (2ページ)

筆者プロフィール
野村隆●大手総合コンサルティング会社のシニアマネージャ。無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。金融・通信業界の基幹業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイトも運営。


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