第19回 プロジェクト運営で重要な「リアリティ」とは
野村隆(eLeader主催)
2006/10/17
■リアリティを変えることは困難
「リアリティ」は、その人の人生や社会人としてのキャリアによって脈々と形成されるので、本人も自覚していないことがあります。そのため変えるのが困難という性質があります。
前述のように、Aさんにとっての「リアリティ」が、「いい訳を見つければ免責される」ということであったとします。
Aさんのような行動や発言は、コストをまったく考えていないうえ、いい訳をすれば誰かが助けてくれると思い込んでいることから分かるように、自立心もありません。一定の組織を率いるリーダーの考え方としては容認できません。
ただ、Aさんがこれまで経験したプロジェクトで、Aさんの先輩がこのような責任逃ればかりしていたとしたらどうでしょう。その場合、Aさんがそれまでの経験に照らし合わせて、「責任逃れのいい訳を探すのが処世術さ!」と開き直るのも無理はありません。責任ある発言をしたことによって、余計な責任を負わされる可能性がある、逃げるが勝ちという「リアリティ」がAさんの中にあるのです。
続いて、Bさんにとっての「リアリティ」が、怒鳴り散らすことでしかプロジェクトにおける自分の存在を確認できないという内にこもった不満・不安であったとしましょう。
不満・不安を自覚しているのであれば、そんな自分を守るために、怒鳴ったり、理不尽なことをいったりという行為を繰り返し、プロジェクトの中の自分の存在を確保するでしょう。
不満・不安を自覚していない場合、先輩や同僚などBさんの周囲では怒鳴る・理不尽なことをいう手法で、自分の存在をアピールすることが日常の風景となっているのでしょう。そしてその風景がBさんの「リアリティ」なのです。
それぞれ形成した「当たり前」を変えることは、困難・苦痛を伴います。例えば、右手でご飯を食べるのを急に左手にしなさいといわれるようなものです。納得もいかないでしょうし、最初はなかなかうまくいきません。
■「リアリティ」が多様化する状況での協調作業には困難を伴う
システム開発のプロジェクトにはいろんなバックグラウンドの人が参画します。プロジェクトは「リアリティ」が異なるメンバーの集合体です。
システムを開発する管理が得意な人。開発そのものが得意な人。ユーザーの業務プロセスを分析・設計するのが得意な人。ユーザーと会話してユーザーテストのやり方を調整するのが得意な人。ハードウェアの設計・導入とパフォーマンスチューニングが得意な人。DBMSなどミドルウェアの設計・導入とパフォーマンスチューニングが得意な人。データ移行が得意な人。など、例を挙げればきりがありません。それだけ多様な人の集まりです。
これらの人それぞれに、自分の「リアリティ」があります。得意分野が異なれば、「リアリティ」は異なるでしょう。仮に得意分野が同じであっても、個々人のスキル・経験のバックグラウンドによって、「リアリティ」は異なるでしょう。
プロジェクトが大規模になればなるほど、「リアリティ」は多様化します。従って、プロジェクト運営、特に大規模プロジェクトを運営するとは、異なる「リアリティ」を持つメンバーやチームをいかにコントロールするかということだといえます。
前述のとおり「リアリティ」を変えるのは一定の困難を伴います。そしてプロジェクト運営とは、変化も含めて「リアリティ」をコントロールすることです。つまり、プロジェクトの運営には困難を伴うということです。
さて、ここでまとめです。今回は人それぞれが持っている「リアリティ」とプロジェクト運営について次のように考えました。
- 「リアリティ」は人それぞれに異なる。
- 「リアリティ」を変えるのは困難を伴う。
- 大規模プロジェクトでは、「リアリティ」が多様化する。
- 大規模プロジェクトを推進することとは、多様化する「リアリティ」をコントロールすること、と整理できる。
- 変えるのが困難な「リアリティ」が多様化する大規模プロジェクトを運営することは、多様化する「リアリティ」をコントロールすることなので、困難を伴う。
次回は、どうすれば多様化する「リアリティ」をコントロールできるかについて解説します。
今回のインデックス |
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筆者プロフィール |
野村隆●大手総合コンサルティング会社のシニアマネージャ。無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。金融・通信業界の基幹業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイト、人材派遣情報サイトも運営。 |
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