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ここでも生きる! エンジニア経験

第4回 サンゴ礁再生に闘志を燃やす元エンジニア

岩崎史絵
2008/11/12

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ダイバーたちの自主活動をサンゴ礁再生に活用しよう

 植田氏が着目したのは、ダイバーたちが記録している潜水のログブックだった。植田氏は考えた。「有志を募り、定点観測を行い大学教授など専門家に分析してもらうことにより、サンゴ礁破壊の原因を探ることができる。またダイバーの中には、サンゴにとって有害となる貝類を捕獲し、サンゴ礁保護に貢献する人も多い。こうした志あるダイバーへの呼び掛けや、ログの管理を行うのに、Webのインフラを活用すれば、多くの人に情報を発信したり、共有できるのではないか」

ITを実社会で役立てる構想、それを実現する行動力を持っている植田氏。その基盤には、ITエンジニア時代に培った技術力がある

 こうした思いで、植田氏は何度かNPO助成金へ申請を試みるが、なかなか芳しい結果は得られなかった。最近でこそ環境問題が大きなテーマとなっているが、NPO助成で通りやすいのは、地域経済の活性など、金額的な効果を生み出しやすいものだといわれている。その矢先に、植田氏が目にしたのは、マイクロソフトが推進する企業市民活動「NPO支援プログラム」だった。

 これはマイクロソフトの社会貢献活動「UP−デジタルインクルージョン」の一環で、2002年から実施しているプログラムだ。過去5年間にe-○kを含め34のNPOが支援を受けている。1団体に付き上限300万円を、7月1日〜翌年6月30日まで助成し、NPOの推進に役立ててもらおうというものだ。選考ポイントとしては、「社会的意義」「NPOの目的遂行に当たり、ITを適切に活用できる体制があるか」「机上の空論に終わらず、プランを実施・継続できるキャパシティがあるか」など。植田氏の場合、サンゴ礁再生に向けての活動プランや、必要な情報・人材、すべてがそろっており、何より「社会的に大きな意義がある」ということで、満場一致で決定したそうだ。なお、助成合格の返事をもらった植田氏は当初「信じられない」といったという。

ダイバーと研究者の間をつなぐWebサイトをオープン

 海洋研究を専門にする九州大学教授 野島哲准教授の協力の下、サンゴ礁再生プロジェクトのコアであるサイト「www.sango.ne.jp」がオープンしたのは、2008年7月21日の「海の日」だ。この日には、マイクロソフトのNPO支援プログラムの担当者も参加し、ダイバーたちによるダイビングログのリアルタイム更新を実施。与論島のサンゴ礁の美しさ、そしてサンゴを取り巻く環境の厳しさを訴えた。現在も、ダイバーによる貝の捕獲結果の告知、多くのダイバーによるログの入力・公開など、その情報は日々更新されている。

 「助成を受け、こうした試みを進めるのは初めての経験でした。しかし、プロバイダ在籍時代に、技術者やユーザーとネットワークを作り上げた経験を生かし、『いま、必要としているのはどういう機能なのか』を確認しながら進めていったこと、そしてマイクロソフトから、資金だけでなくさまざまな情報支援を受けたことで、第一歩が踏み出せたと思います」

 そんな植田氏が、次の目標として定めていることは3つ。1つは、島内に光ネットワークを敷き、より強固なインフラ整備を実現すること。これは2010年3月をめどに完了する予定で、これにより、企業誘致やU/Iターン希望者を積極的に募れるようになる。

 もう1つは、島内の情報活用支援に注力すること。これまで、インフラ整備や島からの情報発信を中心に進めてきたため、島内の生活をより向上させるような行政・商業の活性化を、ITを使って推進したいそうだ。こうした発想は、流通業に携わっていた経験が役に立っているという。「ただ、島民がメールやチャットでコミュニケーションするような状態にはしたくない。いまの良さを生かしつつ、より生活が向上する手段としてITを活用したいと思います」と植田氏はいう。

 最後は、サンゴ礁再生プロジェクトの大きな発展だ。今年のサイトオープンは、ちょうどダイビングシーズン開始のタイミングと重なったこともあり、事前の告知が十分にできなかった。来年のダイビングシーズンには、多くのダイバーに参加を呼び掛け、「次の世代に、美しい環境を残していく活動を活性化したい」と植田氏は語った。

与論島の風景、暮らす人々

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