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@IT自分戦略研究所ブックシェルフ(108)
脳の性質と効率的な記憶法

@IT自分戦略研究所 書評チーム
2009/6/15

■脳の性質を理解し効率よく学習する

脳の仕組みと科学的勉強法

池谷裕二著
ライオン社
2001年12月
ISBN-10:4844062034
ISBN-13:978-4844062035
750円(税込み)

 ITエンジニアにとって「記憶力」は欠かせない能力だ。本書は、この記憶力を「努力と根性」以外でアップさせる方法を紹介している。その方法とは、「脳の性質に合った学習方法を取る」というものだ。

 本書を書いたのは、東京大学 大学院薬学系研究科 准教授の池谷裕二氏。東京大学 理科I類に現役合格し、同大学薬学部、薬学系大学院卒業後、脳の研究に取り組んでいる。池谷氏は、「勉強の成果と勉強の方法には深い関係がある」(『脳の仕組みと科学的勉強法』、p.3)と述べ、脳の仕組みを理解した勉強方法こそが、効率的な勉強方法だと主張する。

 池谷氏のいう脳の性質を理解した勉強方法の中から、いくつかピックアップして紹介する。

・試験前の詰め込み学習は、前日深夜よりも当日の朝!

 「記憶の半分は4時間以内に消える」(同書、p.18)ためだ。例えば、単語を10個覚えたとすると、4時間後には5個程度しか思い出せなくなっている。24時間後には3〜4個、48時間後には2〜3個だ。人間の記憶は忘却曲線をたどる。人間は覚えた直後にどかっと忘れ、「それを乗り越えて残った単語は、わりと長く記憶される」(同書、p.19)。試験前に詰め込み学習をする場合は、試験前の4時間以内に勉強した方がいいというわけだ。

・復習は1カ月以内でないと効果なし

 記憶は脳の中の海馬という、ほんの小指ほどの大きさの部位で作られるといわれる。海馬は情報を整理し、一時的に保管する役割を担う。「海馬に情報がとどまっている期間は、どんなに長くても1カ月」(同書、p.78)。海馬で保管された情報の中から、重要なものが大脳皮質へ送られ、記憶として蓄えられる。つまり、記憶が海馬にとどまっている1カ月以内に繰り返し復習すれば、脳に重要な情報であると認識させ、記憶として定着させることができるというのだ。

・6時間以上の睡眠が学習の鉄則

 池谷氏は「覚えた日は6時間以上の睡眠を取ることが欠かせない」(同書、p.79)と述べる。その秘密は、海馬は人間が夢を見ているときに情報を整理するからだという。「夢は一種の『記憶の再生』」(p.80)。脳は、夢を見ている間に、記憶の断片をあれこれとつなぎ合わせる(余談だが、連載「天才プログラマに聞く10の質問」で登場した五十嵐悠紀氏林拓人氏、また、ソフトイーサの登大遊氏など、実力のあるプログラマは睡眠をたくさん取るという話をよく聞く。睡眠と学習には相関関係がありそうだ)。

 ほかにも、脳の性質を意識した効率的な学習方法を多数紹介している。試してみる価値はある。

 実際のところ、現代の脳科学では、脳についてまだまだ分からないことだらけである。「『睡眠時に海馬で記憶の取捨選択をする』というのも、恐らくそうだろうとはいわれているが、科学的に立証されているわけではなく、研究段階にある」(玉川大学 ソフトウェアサイエンス学科 佐々木寛教授)。そんな神秘的な脳の世界を意識しながら記憶するのもまた楽しい。

本を読む前に
脳科学で解明:運動は記憶力と創造力に効果あり (@IT自分戦略研究所)

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