第2回 ITエンジニアの行く先にあるものとは
千葉大輔(@IT自分戦略研究所)
2006/9/29
■いままでの経験で無駄になったものはない
ITエンジニアから別の職種に活躍の場を移した2人目は、アイ・ティ・イノベーション 代表取締役社長 林衛氏だ。
林氏は名古屋大学卒業後、トッパンムーアに入社。トッパン・ムーアシステムズの設立に参画し、業務系システム開発やシステムコンサルティングなどを手掛ける。その後、渡英。モデルベース開発方法論や統合開発ツールについて学ぶ。ジェームスマーチン・アンド・カンパニー・ジャパンを経て1998年にアイ・ティ・イノベーションを設立した。
アイ・ティ・イノベーション 代表取締役社長 林衛氏 |
林氏は、ITエンジニアという職業の魅力について「コンピュータに自分が自由に考えた設計、仕組みが実装されて世の中に影響を及ぼすなんて素晴らしいこと。簡単にいかないことも多いが、それを乗り越えるのがだいご味」と話す。
ITエンジニアとして仕事をしていく中で、身に付けたことも多かったという。「常にもっと改善、改革できるだろうと高いレベルまで持っていくというマインドを持てたし、自分なりに一生懸命やってある程度自信も付いた」
林氏はイギリス留学を経験している。そのときに「当時のイギリスと日本の差にがく然とした」と話す。「『まだまだ』と正しく自己評価できるようになったのも、それまで一生懸命にやってきたから」
これまでの経験のほとんどが、いまの会社経営の場で生きている。興した会社がすぐに成長できたのも、ITエンジニア時代の実績や知名度があったためだという。「10年悩んでやってきたことには価値があった」
林氏はいまの若手エンジニアについて次のように語る。「弱いな足りないなと思う部分はたくさんある。特に決断力や勇気のなどの面でそう感じることが多い。でも、まじめさや粘り強さがある」
いま自分がやりたいことがあるが、なかなかチャンスに恵まれない。またはリスクを考えてなかなか動くことができないと考える人が多いのではないだろうか。林氏は「思い切って転職してみるとか動いてみると何かが分かる。例えば、自分の実力がないことが分かるかもしれない。しかしそれもプラスの経験として次に生きてくる」と話した。
■ITエンジニア時代につかんだことはほかにも適用できる
最後にマイクロソフト デベロッパー&統括本部 戦略企画本部 戦略担当部長 成本正史氏に話を聞いた。
成本氏は大阪大学卒業後、横河電機に入社。ビルディングオートメーションや、ファクトリーオートメーションのソフトウェア開発を担当した。その後、マイクロソフトに入社し、開発コンサルティングやエバンジェリストを経て、現在は戦略担当部長として、マイクロソフトの技術の方向性や、製品を組み合わせてどのように市場に価値を見せていくのかなどの仕事をしている。
ITエンジニアだったときと比べ、作業時間は減ったが作業量は逆に増えているという。いくつもの業務を掛け持ちしているため、スケジュール管理などに苦労している。「PDAや携帯電話、電子メール、ブログ。いろんなものを用途別に活用している」と成本氏。
マイクロソフト デベロッパー&統括本部 戦略企画本部 戦略担当部長 成本正史氏 |
マイクロソフトに転職した理由を成本氏は、「コンサルタントとして仕事がしたかったから」と話す。「自分で作る楽しみはもちろんあったが、それよりも多くのプロジェクトに自分のアイデアを生かしたかった」という。開発者としてかかわれる製品やプロジェクトの数は、それほど多くない。成本氏は、コンサルタントとして数多くの製品やプロジェクトに携わる道を選んだ。
もっと多くのものへ影響力を広げていきたいという動機は、いまも変わらない。成本氏の業務の範囲はどんどん広がっている。「自分では活動範囲の広がる方向が、正しいスキルパスかなと思っている」
現在、さまざまな業務に携わる成本氏が、ITエンジニアとしてのキャリアから得たものは何だったのだろうか。「ロジカルに物事を組み上げていく能力はいろんな場面で役に立っている」という。それだけではなく「世の中の仕組みには、普遍的な部分がある。ソフトウェア開発で得た知識・経験をほかの分野に適用してみると実は同じアプローチで解決できる問題が多い」と成本氏は話す。
例えば、マーケティング戦略を考えるときに、アーキテクチャという概念が使えるという。このアーキテクチャは戦略や組織、人間関係などさまざまなものに共通する部分があり、「いろんな物事はソフトウェアと同じ仕組みで成り立っている。そういう目ですべての物事を把握できることは、アドバンテージになっている」と説明する。
続けて「エンジニアリングという概念も同様に幅広い。ソフトウェアや経済、ビジネスにもエンジニアリングが存在している。エンジニアはエンジニアリングのエキスパート。ライフスタイルなど、さまざまなものをエンジニアリングしようと考えてほしい」と成本氏は話す。
「EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)の提唱者ジョン・A・ザックマン(John A. Zachman)さんは、ボーイングの組み立て工程から得たものを企業の情報システムに適用できないかと考えたという。こういう何でもかんでもエンジニアリングしてやろうというバイタリティを吸収して見習っていきたい」
■突き詰めた先にある道
お話を聞いた3人は、ITエンジニアから経営者や戦略担当部長に立場を変えた。それは自分の信念や目的を突き詰めていった結果だといえる。それまでの仕事を追求して得られた経験や物事の本質は、仮に別の仕事に就いたとしても自分の基礎を成すものとして十分に機能する。
例えば、顧客との信頼関係の構築やマネジメントの仕方。それまでの仕事で得た自信が仕事のモチベーションになることもあるだろう。そして何より、それまでITエンジニアとして培ってきた自分自身の考え方やもののとらえ方は、どんな分野にも適用することができる。
3人がインタビューの中で語った「ITエンジニアの発想は自由」という言葉が印象的だった。ITエンジニアが自分自身の仕事を突き詰めた延長には、自由な選択肢があるのではないだろうか。
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