エンジニアの将来への不安にこたえる
特別企画:
エンジニアのための確定拠出年金(401k)入門
山田静江(執筆)
片岡真理(監修)
2002/6/27
II こんなときにどうなるあなたの確定拠出年金? |
■転職したとき、会社を辞めたとき
転職や退職、独立したときは個人別管理資産を持ち運べます。個人別管理資産を移すときには、以前の運営管理機関を通じて購入していた金融商品を一度現金化してから、新しい運営管理機関で扱う金融商品を購入し直す手続きが必要になります。ただし保険のように途中解約すると解約手数料などがかかる商品でも、転職や退職、独立の場合には解約手数料などは差し引かれません。
転職や独立、退職などのパターンごとに気を付ける点などを、以下にまとめましたので、参考にしてください。1〜7はDC制度の全体像を分類したものをそのまま利用しています。
●企業型→企業型(1→1)
転職先にDC制度があれば、転職先の運営管理機関に資産を移します。ただし、以前の勤務先を3年未満で辞めたときには、会社が負担した分の拠出金の全部あるいは一部は、会社に返さなければならないこともあります。
●個人型→企業型(2または3→1)
企業年金もDC制度もない会社から、DC制度のある会社に転職したとき、または自営業者などからDC制度がある会社に就職したときには、それまでの運営管理機関から新しい勤め先の運営管理機関に資産を移します。
●企業型→個人型(1→2または3)
転職先にDC制度が導入されていなかったり、独立して自営業者になったときには、個人型の運営管理機関と契約して資産を移します。
●個人型→個人型(2→3または3→2)
企業年金もDC制度もない会社に勤めていた人が自営業者などになったときには、従業員型の個人型から事業主型の個人型へ、逆の場合は事業主型から従業員型へ変わります。運営管理機関は変更しなくてもいいので資産の移動はありませんが、拠出限度額が変わります。
●企業型、個人型→個人型(拠出金の払い込みなし)(1〜3→4〜7)
DCの加入資格があった人が、結婚や退職、転職、失業などで加入資格のない4〜7の立場になった場合、運用指図者になります。個人型の運営管理機関に個人別管理資産を移して管理しますが(それまで個人型なら資産の移動は必要ない)、加入資格がないので新たに拠出することはできません。
本来なら一度加入したら脱退は認められていないのですが、加入期間(拠出金を拠出した期間)が3年未満で、4〜7に該当する人は、「脱退一時金」を受け取ることもできます(図5)。
図5 DCに加入していた人が加入資格を失ったときにどうなるかを図示したもの |
■会社が倒産しても自分の老後資金は守られる
帝国データバンクによると、2002年1月の企業倒産は前年比19.3%増の1620件だったそうです。ある日突然自分が勤めている会社がつぶれてしまったら……。考えるだけでぞっとします。
会社が倒産したとき、従来の企業年金・退職金制度では、退職金が減らされたり受け取れなくなったりするケースがほとんどなのを知っていましたか? 老後資金として当てにしていた退職金がもらえなくなれば、ライフプランは大きく狂ってしまいます。
DCでは、加入者の個人別管理資産は信託銀行などで分別管理されていますから、会社が倒産しても減ったりなくなったりすることはありません。
このほか、経営者の一存で退職金(個人別管理資産)を減らされることもありませんし、勤続3年以上なら懲戒解雇で会社を辞めることになっても退職金(個人別管理資産)はあなたのものです。
勤めている会社の経営が悪化したり経営者との関係がうまくいかなくても、大切な老後のための資産を確保できるという点で、従業員にとって安心できる制度なのです。
■DCの資産は差し押さえの対象外
事業で失敗したり、他人の保証人になってしまったり、失業して住宅ローンが払えなくなったりなど、自己破産せざるを得なくなるリスクは、だれにもあるものです
DCの個人別管理資産は、差し押さえの対象外。自己破産して無一文になっても、DCで積み立てた老後資金は守られます。
その代わり、原則として60歳までは個人別管理資産は一切引き出すことができず、それを担保にお金を借りることもできません。例外として加入者が死亡したときには「死亡給付金」、一定の障害状態になったときには「障害給付金」が支払われ、また加入期間が3年以下なら脱退一時金を受け取って脱退することもできます。
自分のお金なのになぜ自由に使えないの? という不満を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、こういう制約があるからこそ、差し押さえの対象にならないで済むのです。
DCは拠出時も運用時も、そして60歳以降に受け取るときも税金の面で優遇されますが、これも老後資金という目的でためていくお金ということで、特別扱いされているからなのです。
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表1 60歳になる前に支給される給付金。なお、脱退一時金は経過措置として例外的に認められている制度 |
■預け先は人任せではダメ!
DCのメリットでありデメリットでもあるのが、拠出金や積立金を運用する金融商品を自分で選ばなければならないということです。お好きにどうぞといわれても困る人も多いのが実態でしょう。
DCで提供される商品には、預貯金や保険商品のような「元本確保型」と投資信託や変額保険などの「一般の運用商品」、そして個別の株式や債券などの「1つの銘柄による運用商品」がありますが、運用の中心になると期待されているのは少額で複数の投資先に分散投資できる「投資信託」です(表2)。
表2 確定拠出年金(DC)で提示される運用商品例 |
日本人の多くはこれまで、預貯金か貯蓄型の生命保険など、確定利回りの商品しか利用してきませんでした。確定利回り商品の利回りが高かったこともあって、投資型商品を利用しなくてもまあまあお金を増やすことができたからです。
ところがいまや超低金利時代です。例えば、1年満期の定期預金の金利は0.04%まで下がっています。これでは、安全性を求めて預貯金ばかりで運用していても、資産を増やすどころではありません。また、長期運用では表3にあるように数%の運用利率の違いが将来大きな差をもたらします。
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表3 2%と5%で運用したときの積立金残高の比較。毎月1万円ずつ拠出していった場合。なお、税金や手数料は考慮してない。単位:円 |
老後資金づくりを目的とするDCは、運用期間が長期になりますから、投資型商品を取り入れて運用していくことが欠かせません。1人1人が自分で判断して預け先を決められるようにならないと、自由に選べるというメリットは生かせません。
企業型では、事業主は加入者に投資教育や情報提供をする義務があります。個人型でも、利用する運営管理機関から投資教育や情報提供を受けることになります。この機会にしっかり投資の基礎を学び、金融商品を選ぶ目を養いましょう。
■DCのメリットを数字で確認しよう
投資信託なら別にDCを利用しなくても買えるのではと考える人に、DCを通じて買うメリットをお話ししましょう。前にも書きましたが、DCは老後資金づくりをサポートする制度ということで、税金の面で優遇されています。
まず拠出金は企業型では全額会社が負担します。給与扱いではないので、拠出金相当額には所得税や住民税がかかりません。個人型では、拠出金は全額所得から控除できますから、やはり所得税や住民税の節税に役立ちます(表4)。
表4 所得別に見る、1年間の所得税・住民税の節税効果(画面をクリックすると、拡大して表示できます) |
積立金の運用期間中も、利子や配当には課税されません。本来なら課税される部分(利子や配当の20%相当)も運用に回せるので有利です。拠出時と運用中と、二重に税制の恩恵を受けられるので、長期では複利効果が働いて大きな違いになります(表5)。
表5 投信とDC、どちらが得か(1万円がいくらに増えるか)? (画面をクリックすると、拡大して表示できます) |
例えば、1万円で投資信託を購入したときと、DCを通じて同じ投資信託を購入した場合とで比較してみましょう。DCでは、拠出時に非課税になる税金分(所得税・住民税合わせて15%なら約1500円)だけ得します。得する税金分だけ拠出額を多くすれば、将来受け取る金額も増えます。
毎年5%で運用できると考えて、運用利益に20%課税されたときと、非課税のときの残高の差を比べてみると、5年後の年平均利回りで1%以上の差がつきます。投資信託を選ぶときには信託報酬(投資信託で運用中に毎年差し引かれる手数料)にも注意が必要ですが、信託報酬が1%も高い投資信託をDCを通じて購入した場合でも(表5のaとb)、5年後にはほぼ同じ利回りになり、非課税の効果が案外大きいことが分かります。
■ペイオフには注意
2002年4月にペイオフが解禁になりました。最近よく聞く言葉ですが、ここでよく分からない人のために解説すると、「銀行などがつぶれたときには、預金などは一定額(1000万円とその利息)までしか保証されなくなる」ということです。1000万円を超えた額は、破たんした銀行に残された財産に応じて戻ってきますが、一般には減ることになるでしょう。つい最近までは銀行などが破たんしても預金などの全額を国が保証していましたが、これは金融不安を小さくするためのいわば例外的措置でした。例外的状況が本来の姿に戻ったのが「ペイオフ解禁」というわけです。
DCに加入しているときにも、ペイオフとは無関係ではいられません。銀行などが破たんしたときには「1つの金融機関、1人の預金者につき1000万円とその利息」までが全額保護の対象ですが、この中にはDCを通じて預けている預貯金も含まれるので注意が必要です。DCの資産を預貯金で運用するのはナンセンスと書きましたが、退職直前や預け先に迷ったときに一時的な資金の退避先として利用することもあります。念のため、DCで利用している銀行はメインバンクには選ばない方がいいかもしれません(図6)。
図6 ペイオフの対象となる金融商品 |
■DCの受け取りは税金の面で有利
加入者が60歳になると、いよいよDCの受け取りです(老齢給付金)。60〜70歳の間に年金の受け取りを開始するか、一時金で受け取ります。年金なら5年以上の期間(終身年金も可)を選びます。
いつから、どうやって受け取るかは、原則として加入者が自由に決められますが、企業型では会社の規約などで受取方法を制限されることもあります。
年金で受け取るときも一時金で受け取るときも所得税がかかりますが、年金では「公的年金等控除」(控除額が有利に計算される)の対象になり、一時金では退職所得控除(例えば10年加入していれば400万円、30年加入していれば1800万円までは非課税:ただしDC以外の退職金との合算)が受けられます。公的年金や退職一時金と同じように優遇されているのです。
もし年金の受取期間中に受給資格者が死亡したときには、死亡給付金として残りの金額が遺族に支払われます。
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表6 60歳以降の受け取り方法と税金の優遇 |
筆者プロフィール |
山田静江(やまだしずえ) ●ファイナンシャルプランナー(CFP)、DCアドバイザー。早稲田大学商学部卒業。銀行、会計事務所、独立系FP会社などを経てフリーに。個人相談、金融記事の執筆・監修、セミナー講師を中心に活動している。近著に『はじめての保険・年金』(共著、日本経済新聞社)がある。 |
監修者プロフィール |
片岡真理(かたおかまり) ●明治大学法学部卒業。財形制度の情報専門会社を経て、平成8年度に財形ビジネスネットを設立し、同社取締役に。また平成12年には確定拠出型年金教育・普及協会の設立にも参加した。『これならわかる確定拠出年金導入のポイント』(共著、日本実業出版社)などがある。 |
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Index | |
エンジニアのための確定拠出年金401k入門 | |
I まずは確定拠出年金の基本と種類を知る | |
II こんなときにどうなるあなたの確定拠出年金? |
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