第5回 プロジェクト活性化の鍵は笑いと視点
小田美奈子
2006/9/9
■「笑い」で視点を変える
芦田さんは、会議のときにも笑いの要素は有効だと考えているそうです。
芦田 笑いは魔法で、笑いがあると、緊張の緩和にもなるし、意見を出しやすくなります。素の自分も出しやすい。
しかめっ面で話をするときというのは、一点を見つめていますが、そこに笑いが入ることで、弛緩(しかん)する。そうすると違うところを見るようになります。緩むところがあると、見方が変わります。
小田 笑いで視点も変わるんですね。
芦田 会議のときも、笑いから始めると、モチベーションの高い会議ができます。
会議の最初に笑ってテンションを上げることは、会議を有意義にするために重要だと思います。笑いで入り、笑いで終わるというのが理想だと思いますね。常に笑うというのは会議ではなくなってしまうし、会議の内容にもよりますけどね。
最後は笑いで締めくくると、会議の後もモチベーションが保てると思います。
部会に来ている人のテンションはさまざまなので、帰るときには、モチベーションを上げて帰ってほしいわけです。参加した人に「今日はテンション低かったけれど、会に来て元気になった」といわれるとうれしいですね。
■複数の視点を持つ
小田 笑いをとても大事にされているんですね。ほかに、会の運営で大事にしていることはありますか。
芦田 部会では、成果物を外部に発表したり、Webサイトにアップしていますが、技術者だけの立場で自己満足の世界になっていないかは常に意識しています。発表会で聞く人にとってメリットがある内容になっているか、Webサイトを読む人にとってメリットがあるかとかを考えています。聞いていて楽しいか、意味があるかなど、たくさんの視点があります。いろいろなところからものを見ないと、本当のところは見えてこないと考えています。
芦田さん率いるXMLコンソーシアム関西部会は、立ち上げから1年間の積極的な活動が評価され、コンソーシアムから表彰されました。先進的なアプリケーションの協同開発やXMLの事例調査を実施するなど、XMLの普及活動の一環として部会活動が認められたものです。芦田さんが会でリーダーシップを発揮し、さまざまな取り組みが功を奏したといえます。
今後の活動としては、もっと会を活性化させていきたいとのこと。また、自己研鑽(けんさん)の場として、このような会を利用する人が増えればよいと考えているそうです。
芦田 表彰されたのは、活動が認められたことでうれしいですね。もちろん、私というよりも一緒に活動していただいた方が、一緒に頑張ってくださった結果ですけどね。そんな部会に新しい企業にも入ってほしいし、あらゆる職種の人に参加してほしいと思っています。そういう人が入ることによって、もっと多面的にものが見えると思うからです。部会の要素の中に、そういう見方を加えると、厚みが増すと思うのです。学校や他の団体と会話をしていくという計画もあります。会員にとっても、ほかの人の考えに触れることができるというメリットにもなります。
部会は、自分の知らないところを知る場であり、人の考え方を聞ける場なんです。こういう場で勉強することで、人と人の関係を勉強することや、運営やコミュニティに関心を持つ人がもっと増えていけばと思っています。会話の仕方や発表の仕方を学ぶなど、試せることはいろいろあります。例えば、XMLに関することを社内で発表したい場合は会で練習するというケースも考えられます。プロジェクトをどう進めていくか、どうまとめていくかを考えることもできます。
小田 スキルアップの場としても有効ですよね。
■芦田さんの事例から学べるポイント
芦田さんがXMLコンソーシアム関西部会で実施している取り組みの中で、プロジェクト成功のための参考になるヒントを紹介します。
(1)言葉以外のメッセージにも注目、背景を聴く
芦田さんは、会議を進行するときに、1人1人の表情をよく見て、その人の背景を知るようにしています。気になることがあった場合は、「○○さん、どう?」など、本人に確認し、会への参加に対する満足度を上げる工夫をしています。
コミュニケーションには、「バーバル(言語)・コミュニケーション」と「ノンバーバル(非言語)・コミュニケーション」の2種類があります。言葉そのもので伝わる内容よりも、表情や声のトーン、ボディランゲージなどノンバーバルのメッセージの方が情報量は多いといわれています。これらノンバーバルのメッセージにも意識を向けることで、言葉には表れなかったメッセージを知ることができます。
メンバーの表情を見て、何か気になることがあったら確認してみる。まずはここからスタートしてみてはいかがでしょうか。
(2)メンバーが話しやすい雰囲気をつくる
芦田さんは、さまざまなバックグラウンドを持った人たちをまとめるに当たり、笑いを大事にしています。会に笑いがあることで、意見が出やすくなり、見方が変わります。また、参加者のモチベーションが上がり、会に継続して参加することにつながっています。
会議を進行するときのファシリテーターの役割の1つである「場をつくる」ためには、参加者が話しやすい雰囲気をつくることが重要となります。芦田さんは、会議の最初に笑いを取り入れることで参加者のモチベーションを上げています。また、会議前に個人的に話し掛ける「いじり」や雑談をすることで、参加者が話しやすいような雰囲気づくりをしています。
まずは、相手が話しやすい雰囲気をつくることを意識してみることをお勧めします。
(3)複数の視点を持つ
芦田さんは、物事を見るときに、常にいろいろな方面から見るよう意識しています。そうすることで、内容の厚みが増し、本質が見えてくるとの考えからです。
コーチングでは、相手の自発性を引き出すためにさまざまな種類の「質問」をしますが、質問の効果の1つに、視点を変えることがあります。物事を自分の側から見るだけでなく、相手の立場などいろいろな面から見ることで、それまで気付かなかったことを発見する機会になり、行動の選択の幅が広がります。
また、相手が特定の視点に縛られているとき、その状況に気付いてもらい、ほかに視点があることを認識してもらうことで、新しい可能性を広げることにつながります。
コーチングの基本スキル「質問する」については、「コーチングを身に付けよう」の「第3回 コーチングの基本スキルを会得しよう」をご覧ください。
取材のスタート時、芦田さんのさわやかなあいさつで、一瞬のうちに場が和らぎました。
芦田さんの笑いで雰囲気を和やかにする技、相手の表情から背景を読み取る観察力、1人1人と丁寧にかかわる姿勢など、たくさんのヒントを伺うことができました。
これらさまざまな形でリーダーシップを発揮されたことがプロジェクトの活性化につながっていると思いました。
芦田さんのお話は、笑いが多いのはもちろんのこと、身振り手振りをたくさん交えて話されるので、より引き付けられました。先述の「非言語のメッセージ」である身振り手振りから、より情熱が伝わるのでしょう。今回の限られた時間の中でも、芦田さんの影響力の大きさを存分に感じることができました。芦田さんの生み出す“笑いと情熱”で、これからもあらゆる場面で多くの人々が活性化していくことと思います。
これまで5回にわたり、コーチングやファシリテーションなどのヒューマンスキルを活用している人とその事例を紹介してきました。各事例に共通して、メンバー1人1人をよく見て、話を聴くことを重視されていたのが印象的でした。当連載がプロジェクトを成功に導くためのヒントとして、お役に立てることを願っています。
参考文献 『コーチング・バイブル――人がよりよく生きるための新しいコミュニケーション手法』(ローラ・ウィットワース、フィル・サンダール、ヘンリー・キムジーハウス著、CTIジャパン訳、東洋経済新報社) 『コーチングマネジメント――人と組織のハイパフォーマンスをつくる』(伊藤守著、ディスカヴァー・トゥエンティワン) |
今回のインデックス |
成果を生み出すコーチング(5) 1ページ |
成果を生み出すコーチング(5) 2ページ |
執筆:小田 美奈子(http://www.happy-coachingcafe.jp/) |
消費財メーカーで商品開発・マーケティング業務に携わるうち、コーチングの考え方に出合う。現在は20〜30代の会社員、経営者を対象としたコーチングやキャリアカウンセリング、キャリアをテーマとしたワークショップを実施している。財団法人生涯学習開発財団認定コーチ/日本コーチ協会東京チャプター会員/特定非営利活動法人日本キャリア開発協会認定CDA(Career Development Adviser) |
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