IT Architect連動企画]
真の価値をクライアントへ届けるために
危険な技術への盲信から目を覚ませ!

第3回 お客さまの誤解を解く

ウルシステムズ 代表取締役社長 漆原茂
2004/9/10

最新の粋を集めたプロジェクトが、大きなトラブルで頓挫(とんざ)したり、予定より大幅に遅れることは珍しくはない。いま、ITエンジニアに求められていることは何か。ウルシステムズの漆原氏が、思いのたけを語る。

半信半疑な「画期的な業務効率の改善」


本記事は、「ITアーキテクト」と@ITの各フォーラムが展開する、分析/設計工程に焦点を絞った『ITアーキテクト連動企画』記事です。

 最近あるお客さま(ここではA社としておこう)から相談を受けた。とあるベンダ(X社としておこう)のパッケージ導入を検討しており、そのパッケージを使うと、彼らの業務効率が3倍になるという。またWebサービスなどの最新技術にも対応しているから将来の運用コストが10分の1になるらしい。他社ではそういう事例があるということで、半信半疑のまま検討を続けている状態で、A社の担当者がわれわれのところに相談に訪れた。

 それほどの効果が本当にあるソフトウェアなら大変素晴らしい話だ。そこでそのソフトウェアの中身をぜひ話してほしいとお願いした。が、斬新なソフトウェアやサービスではなく、われわれがよく聞いたことのあるパッケージのことのようだった。

ユーザーが自分に都合の良いように解釈する

 通常であれば「またいいかげんな押し売りにひっかかったな」と即断するところであるが、そのX社の技術部隊は私自身よく知っており、いいかげんな売り込みなどするわけがない。……とすると、新しい使い方でも発見したのだろうか? しかし少し調べたが、何か新しい機能が追加されたわけでもなさそうである。

 おかしいな、と思っていたら、X社から直接連絡があった。パッケージを提案したがお客さま(A社のこと!)に話が伝わらずに困っている、というのだ。A社のトップには、X社の広告に並べ立てられた美辞麗句だけが刷り込まれてしまっているらしい。従ってそのX社からのプレゼンを受けた際も、心地よい単語のみが耳に残ってしまったようだ。

 つまり、パッケージ導入を推し進めているのはA社のトップ層。それが最初に述べたような大変な業務改善ができるものとして音頭を取っているが、実際にプロジェクトを進める現場はそれを受け、大変な危機感を持った。どうやっても業務効率が上がるとは思えないからだ。そこで当社に相談にきた、というのが真相だったようだ。

 パッケージベンダのX社の現場も困っていて、A社のトップマネジメントにどうやれば正しく「技術の効果」を説明できるかで悩んでおり、A社、X社の双方の現場が苦慮している、という構図であった。つまりは誰が猫の首に鈴を付けるか、で戦々恐々としていたのである。

 ベンダ側の過剰なマーケティングトークにもずいぶん慣れたが、それにしてもいったん誤解されてしまった技術の何と危険なことか。

誤解の構図

 いまだに新しい技術を、お客さまのキーマンが誤解してしまう場合は多い。過去に何度もシステム導入で失敗しているお客さまでも、「今度こそは」と別のベンダに頼ってしまう。こういう方々は、新しい技術を常に「自分に都合の良いように」解釈する。技術的なリスクを理解せずに「英断」(?)しているわけであり、危険極まりない。また、このような方にいくら後からリスクや制限事項を説明しても聞いてもらえないのである。最初に植え付けられた美辞麗句がいつまでも心に残っており、特に数字は独り歩きしてしまう。

 こうなると、プロジェクトが失敗するまで理解されない、という構図になる。最悪の場合は失敗しても理解されずに現場やベンダに責任や原因を求めようとする。最初から最後まで誤解したままで終わるわけである。

 もちろんベンダ側にも大いに問題があろう。技術と魔法は違うものだ。お客さまの心情をいままで多くのベンダが作為的に悪用してきたのも事実である。自社製品をまるで神のごとく祭り上げ、うまくお客さまの危機感をあおって買わせ、活用に失敗するとお客さまのスキルが低いせいにする。そして、単なる購入事例を「導入事例」と偽り、売り上げを伸ばしていくのである。「画期的だ」というベンダ製品ほどまゆにつばを付けて聞くべきである。

 逆に今回のベンダの技術部隊のメンバーのように、「このままではプロジェクトが失敗する」といってくれる人たちこそ、よっぽどお客さまのことを考えている。お客さまのトップの誤解を解くために、われわれのような第三者にも真摯(しんし)に相談してきて何とか前進させようとしている。このベンダの過剰なマーケティングトークは感心しないが、技術的な姿勢はとても好感が持てるし、信頼も置けるものである。

お客さまの誤解を解く

 さて、前述のお客さま(A社)である。トップマネジメントの方々が誤解している場合は、そのレベルの方々の共感を得るように説明しなければならない。大抵の技術者が苦手なのがこのレベルのプレゼンである。トップマネジメントの思考を理解しなければ共感は得られない。技術的な正確さだけでは説得できないのである。

 注意しなければならないのは、今回のような場合、お客さま自身の問題をいくら指摘しても一般的には状況は好転しない、ということである。確かにお客さまが正しく理解していればこのようなことにはならなかったかもしれないが、いまとなっては後の祭りである。プロジェクトのオーナーがお客さまである以上、お客さまの誤解の背景と事実を把握したうえで、何とか正しい方向へ軌道修正しなければならない。

お客さまとの信頼関係を築き直すTips

 結局は信頼関係をどうやって築き直すかということであり、非常に難しい仕事である。参考になりそうないくつかのTipsを挙げておく。

(1)脱線すると分かっている列車に乗らないこと。脱線に気付くこと

 少なくとも技術のプロである以上、自社が語っている内容が正しいことなのかどうかは自問自答して納得しておくべきである。日本語に翻訳したカタログ用語ではなく、自分の言葉で語れるように日々準備しておきたい。

(2)お客さまの立場で話すこと。ビジネス用語で話し、技術用語で語らないこと

 お客さまは、成功させるべきビジネスを持っているのである。だからITが必要であり、その逆はない。ビジネスを失敗させてまで挑戦したい技術などあり得ない。お客さまの立場を理解すれば、誤解はすなわちベンダへの期待の裏返しにほかならないことに気付くだろう。

(3)製品の受注よりもプロジェクトの成功を優先すること

 お客さまが満足していれば、いつか必ずビジネスは来る。しかし一度でも裏切ったと思われたら二度と取引はない。特に技術屋としての誠意をなくしたらおしまいである。

(4)お客さまのためと確信したなら、ちゅうちょなく行動すること

 プロジェクトが危機に陥った場合、ためらいは禁物である。躊躇なく行動すべきである。それで駄目ならあきらめもつくが、行動せずに問題を先送りしていてもトラブルが大きくなるだけである。

 新しい技術的チャレンジにはリスクがつきものである。しかし単に新しいものにチャレンジしていくだけではなく、プロジェクトの成功請負人たる立場で振る舞いたいものだ。ベンダのマーケティングトーク(たとえ自社であっても)に流されず、誠意ある着実な技術屋こそ、いまの世の中で活躍できる。

筆者プロフィール
漆原 茂(うるしばらしげる)●1987年東京大学工学部卒業。同年沖電気工業入社。同社在籍中1989年より2年間、スタンフォード大学コンピュータシステム研究所客員研究員。オープンシステムでの大規模トランザクション処理システムおよび、Webアプリケーションサーバによる大規模インターネットシステムを多数手掛ける。2000年7月にウルシステムズを設立、代表取締役社長に就任。

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