ネットワークエンジニアを目指せ!
ネットワークエンジニアのプロになる条件とは

加山恵美
2004/2/13

ネットワーク・ソリューション・プロバイダの草分け的な存在であるネットワンシステムズ(以下、ネットワン)は、創業以来自社/社外のネットワークエンジニアを育成してきた。今回はそうしたエンジニア育成のノウハウから、ネットワークエンジニアにはどんな技術が必要なのか、そして技術以外に必要なスキルについて伺った。

 ここ十数年、ITインフラとしてのネットワークは急成長を遂げてきた。その発展をけん引してきた企業の1つにネットワンがある。ネットワンは設立以来、大規模でミッションクリティカルなネットワーク構築を中心に事業を展開してきた。ネットワークインテグレータの“本家本元”であり、現在はネットワーク・ソリューション・プロバイダとして、ビジネスの拡張を図っている。その実績により、ネットワンの社名を聞くと技術力や品質の高さを連想する人も多い。ネットワンの実力の源を探ると、社員である個々のエンジニアの実力もさることながら、企業の技術環境も好影響をもたらしていることが分かる。

エンジニアを育てる豊かな土壌

 ネットワークの背後には高度で複雑な技術が集積している。信頼性の高いネットワークを構築し、高品質のサービスを提供するには高い技術力が必要となる。最近見られるブロードバンド化や利活用の多様化といった背景も考慮すると、ネットワークエンジニアこそ、ITエンジニアの中でもプロフェッショナルな人材が求められる職種ではないだろうか。どうしたらそのようなエンジニアになれるのか。いや、どうしたらプロフェッショナルなエンジニアを育成することができるのだろうか。

1988年 会社設立
1991年 通産省(現在は経済産業省)よりシステムインテグレータとして認定
1992年 東京都特定建設業(電気通信工事業)として認可
1995年 「教育センター」を社内に設置、インターネットワーキングコース体系が完成
1996年 日本証券業協会に株式を店頭公開
1997年 シスコシステムズ社認定コース提供開始
1999年 米シスコシステムズより日本初のゴールドパートナーに認定
ジュニパーネットワークス社認定トレーニングコース提供開始(日本唯一)
2001年 東京証券取引所第一部上場
2002年 「ネットワークアカデミー」を開校、CCIEラボルーム開設
表 ネットワンの事業と技術育成の沿革

 ネットワンがどのように社内のネットワークエンジニアを養成してきたのか。まずネットワンの事業とエンジニア育成の沿革を追ってみよう。1988年、ネットワンは国内パソコンLAN普及率がまだ2%というネットワーク黎明(れいめい)期に創業。もともとはLANやプロトコル技術の実装から始まった。が、1989年にはシスコシステムズのネットワーク機器の国内独占販売を開始するなど、ネットワーク事業の先駆けとなった。当時は市場規模がまだ小さかったこともあり、数人の担当者が技術教育を行っていた。ただし教育する対象は社員だけにとどまらなかった。早いうちから顧客側のネットワーク運用者にも技術教育が必要だと認識し、顧客サポートの一環として随時顧客への教育も行ってきた。

人材育成に力を入れる

写真1 ラボルームはCCIEレベルの実践環境だ

 1995年には「教育センター」という部門が設置され、ネットワンが独自に開発した「インターネットワーキングコース」の体系が完成する。1990年代前半には、ネットワーク教育を提供する機関は皆無だった。ネットワンは蓄積してきた技術とノウハウをベースに、すべて白紙(ゼロ)からコースを完成させたという。コースは顧客ニーズに応じて選択できるように細分化され、客先またはネットワンにて提供された。1990年代後半からは事業でもなじみが深いシスコシステムズやジュニパーネットワークスの認定コースも早々に提供を開始した。

 そして2002年には、シスコ技術者認定資格の最難関である「CCIE」の実技試験に対応するラボルームとオープンコースを開設した。ラボルームはCCIEレベルの実践環境で、最新のルータ8台とスイッチ2台を収めたラックがずらりと並ぶ(写真1)。CCIE実技試験対応コース「Network Experts Hands-on」はネットワンが独自で開発したもの。また同年から教育センターは「ネットワークアカデミー」と名称を変え、社内外の高度IT技術者育成を本格的に展開している。ネットワークアカデミーの事業には「ネットワーク技術を基盤にして社会貢献する」という経営理念と、e-Japan戦略や高度IT人材育成ニーズという社会的な背景もあった。

 教育環境が整い、技術への関心が高い社風も影響し、ネットワンでは社員のネットワーク知識が高く、シスコ技術者認定資格の保有率も高い。技術から営業に至るまで、新卒採用の社員全員が「CCNA」を取得している。資格取得だけでなく、日常業務や補強コースの実施によって、社員は2年目までには標準的なネットワーク技術知識を習得するという。

 ネットワークアカデミーで講義を行う沖千里氏(ネットワークアカデミー 技術第2チーム チームリーダー)は長らくネットワンの教育部門に携わり、CCIE認定資格の保持者である。CCIEは資格としては最高位に近いが、それでもまだ「通過点」だという。沖氏はネットワンの技術力をこう語る。「ネットワンはネットワークがメジャーになる前から技術を磨き、長年蓄積してきたノウハウが豊富なので、技術的な競争力が高いのです」

ネットワンシステムズ ネットワークアカデミー 技術第2チーム チームリーダー 沖千里氏。CCNP、CCDP、CCIEなどの資格を保有する

高い付加価値を提供する事業基盤

 加えて、ネットワンの付加価値を高めているのが、テクニカルセンターと品質管理センターだ。テクニカルセンターは、評価や検証を行う技術研究施設だ。大規模なマルチベンダ環境で検証できる環境が整っている。ひとたび顧客のネットワーク構成が決まれば、導入前にここで同じ環境を再現して実証試験を行うことが可能だ。事前検証を確実にして、顧客側で問題なく運用できるようにする。

 もう1つの品質管理センターでは製品の品質検査を行う。メーカーから入荷した時点で検査、さらに顧客に出荷する前にも検査を行い、不良品を徹底的に排除する。沖氏は「こういう努力によって客先でのトラブル発生率をかなり低く抑えています。もしお客さまのところで障害が発生すると、お客さまがネットワークそのものに失望してしまう可能性があります。そうならないように、できるだけ導入前にトラブルを回避するようにしています」と説明する。

 ネットワンでは、創業時からエンジニアの育成が事業の一部であったことに加えて、こうした事業基盤もプロフェッショナルなエンジニアの育成に役立っている。なぜなら、テクニカルセンターや品質管理センターでは、世界各国で開発された最先端技術やさまざまな新製品を扱うことができるからだ。これらにじかに触れ、実践を積めるぜいたくな環境。ほかにもサービス事業を展開するグループ会社のネットワークサービスアンドテクノロジーズから保守運用ノウハウを学ぶ機会もある。最新の顧客ニーズを知る営業や、現場で経験を積んだエンジニアから届けられる情報も講義や教材に生かされているという。実務と教育が好循環をもたらしているいい例だ。

ベストエフォートは最低ライン

 ネットワークエンジニアが習得するべき技術を考えてみよう。「基礎技術の習得は普遍的に重要です」と沖氏はいう。ハイレベルな技術の習得は基礎レベルからさらに専門分野を深めていくことになる。

 基礎技術とは、具体的にはLANやTCP/IPなど通信の基礎知識と、ルータやスイッチなど機器の基礎知識を持ち、それらを相互接続し運用できるスキルを指す。ここまで押さえて初めて「初級ネットワークエンジニア」と呼べる領域に到達するという(図1図2を参照)。

図1 ネットワンの社内資料より。IP技術者に必要な技術要素(プロトコル編)。画面をクリックすると拡大表示します

図2 ネットワンの社内資料より。IP技術者に必要な技術要素(機器編)。画面をクリックすると拡大表示します

 ただし、このレベルで構築できるのは「ベストエフォート型のネットワーク」程度だと沖氏は考えている。「例えばVoIP技術でデータと音声を統合した場合、音声会話に遅延を感じるかもしれません。電話でいえば、『もしもし』『はい』の会話が円滑に流れるとは保証できないかもしれません。それでは不十分ではないでしょうか」

 変化が激しい分野はブロードバンド化が進むバックボーン、QoSを使った制御、セキュリティ、加えてアプリケーションの多様化への対応だ。高速・広帯域インフラが整備されて、IP電話やオンライン会議といった音声通信や動画配信への需要の高まりが背景にある。WANの技術もかなり変化した。広域イーサネットやIP-VPNの普及など環境は一新されつつある。

 特に最近需要が高まっているのは情報セキュリティだという。ネットワークアカデミーではセキュリティの技術だけでなく、組織全体で情報セキュリティ対策を実施するためのeラーニングや、管理者向けの「情報セキュリティポリシー策定コース」も提供している。

 ここで述べた項目のほかにも多数のコースが存在する。ネットワークアカデミーではコース体系を最新の技術需要に対応させて毎年改編している。沖氏はスキルをしっかり身に付けるためには講習と実践をバランス良く組み合わせることが理想だと指摘する。「実践だけだと技術に偏りが出る可能性があるので、そうしたギャップを講習で埋めるといいでしょう。特に体系的に知識を修得するのに講習は役立ちます。講習を受けた後は、実践を重ねてしっかり身に付けることが大事です」

勝てるネットワークエンジニアとは

 プロフェッショナルなネットワークエンジニアになるためには、専門知識のほか、何をプラスアルファすればいいのだろうか。それは「先見性とコミュニケーション能力」だと説くのは、人材開発本部の粂田昌邦氏だ。3年先、5年先もパフォーマンスを発揮するネットワークを提供するためには、技術動向を予測して、周囲を説得していくことが重要だという。技術を先導するエンジニアはそれができる。それが“勝てる”エンジニアだ。

ネットワンシステムズ 人材開発本部の粂田昌邦氏

 それには常に先を見通す眼力が必要だ。顧客に「こんなことは可能か?」と問われてから研究し始めるようでは遅い。先にニーズを予測して研究しておくのだ。顧客が関心を示したときには、すぐに対応できるようにしておく。いろいろと質問や相談される機会が増えれば、顧客の要望をより深く理解し、結果的にニーズに的確に応えるソリューションが提供できるという好循環が生まれる。

 さらには「ネットワークの切り口で顧客と将来像を共有することが必要になります。顧客のビジネスを取り巻く環境がどう変化しているかも熟知している必要があります。顧客のライバル企業の動向もそうですが、顧客自身の経営ビジョンを理解することが大切です」と粂田氏は語る。

 逆に困るのは、技術力だけで満足してしまうエンジニアだ。得意な専門分野があるからといって、その切り口でしか考えられないようでは、技術が付加価値を生み出すことは難しい。「当社では、技術者はバックエンドで研究しているだけではありません。最先端技術をいち早く習得し、事業部と一体になって付加価値の高いソリューションを提案していくための存在です」と粂田氏は語る。専門分野に精通することは大切だが、それだけで満足せず、顧客の要望に応えるために技術をどう活用するか考えることが必要だという。

 相手のいうことをくみ取ることができる能力はエンジニア同士でも重要となる。違う分野のエンジニアが集まれば、見解や認識の違いもあるだろうし、用語も違う。「(電話の)内線が話題でも電話屋、交換機屋、ネットワーク屋が集まるとまったく話がかみ合わないことがある」と粂田氏。いい回しの違い、認識の違いを超えて、うまく意思疎通が図れるエンジニアは貴重な存在となる。

エンジニアは一生勉強

 ネットワークエンジニアに向いているタイプはあるだろうか。「自己投資型で探求心がおう盛であることです。ネットワークエンジニアは一生勉強です。お客さまは興味を持てばどんどん質問されますが、きちんと答えられなければ失望されてしまいます。顧客が知りたいことに的確に答えられるようにいつでも準備しておくべきですね」と粂田氏はいう。人に教えられるだけでは技術習得は完全ではない。常に技術力を高める努力ができる人間が向いているという。

 エンジニアの学ぶ意欲も重要だが、会社の理解や支援も重要だ。技術向上に投資することや「技術を習得するのも活用するのも人である」という考えは、社員だけではなく企業も十分に理解していることが望ましい。その点ではネットワンは理想的だ。

 一生勉強とはいいつつも、少しでも効率よく学ぶにはどうしたらいいのだろうか。沖氏は「どういうふうに勉強すればよいのか分かっていると効率的だ」という。つまり、自分なりの学習方法を心得ているということだ。 沖氏は「学習すればするほど、覚えることもうまくなっていきます」とアドバイスする。粂田氏は何か専門を極めることを推奨する。「ジェネラリストよりスペシャリストになることです。何か深く精通した分野を持ってほしいです。何かを極めると、応用でほかも理解できるようになります。技術の神髄が読めてくるのです」

 最後に、ネットワークエンジニアにとって最も過酷なことはなんだろうか。トラブルシューティングだろうか。「いいえ。トラブルシューティングも大変ですが、さまざまなトラブルに遭遇するうちにノウハウが蓄積され、対応能力が向上することで負荷の感じ方が変わることがあります」と沖氏。それより難しいのは「飽くなきスキルの追求」だと沖氏はいう。確かにネットワーク技術は絶え間なく進化している。自ら最先端技術を追求していかなければ、他人が支援することもできない。それが苦痛とならない人材こそが、プロフェッショナルなエンジニアに成長し、活躍していけるだろう。

沖氏のお薦め本は

 それでは沖氏が薦めてくれた本を1冊紹介しよう。

   エンジニアの実践経験も注入されたTCP/IPの入門書

 ネットワーク関連記事でも何度も紹介され、数多くのネットワークエンジニアが推薦するのがこの1冊だ。実は、共同執筆者に名を連ねる竹下隆史氏はネットワンの社員である。数多くのネットワークエンジニアが崇拝する本を執筆している人もまたネットワンの社員である事実も、ネットワンの抱えるエンジニアの技術力の高さを示す証拠の1つだろう。

沖氏 この本ではネットワーク全般に関して分かりやすく網羅されています。初心者には必ず読んでいただきたい本です。この本は現場で何が必要か分かっている人が執筆しているので実践に即しています。共同執筆者の竹下は、弊社でネットワークの構築や24時間監視サービスなど、トラブル対応を含めたあらゆる経験の持ち主です。

マスタリングTCP/IP 入門編 第3版

竹下隆史/村山公保/荒井 透/苅田幸雄 共著
オーム社 2002年
ISBN4-274-06453-0
2200円(税別)

自分戦略研究所、フォーラム化のお知らせ

@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。

現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。

これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。