エンジニアのための
Linux認定資格・試験ガイド
第1回 Linux認定資格・試験の世界

中島能和
2002/3/13

Linuxの認定資格・試験について、雑誌やWebサイトで見掛けることが多くなってきた。しかし、Linuxの認定試験というと、まだまだマイナーな印象を受ける。また、まとまった情報を見る機会も少ない。そこで本連載では、Linux関連の認定資格・試験の全体像を提示した後、各資格試験の特徴や傾向などを紹介していく。

Linux資格の情報が得にくい現状打破のために

取り上げているLinux関連資格・試験
Turbo-CE(Turbolinux Certified Engineer
RHCE(Red Hat Certified Engineer)
ORACLE MASTER Linux+
LPI認定
SAIR Linux and GNU
CompTIA Linux+

 そもそもLinux関連の認定資格にはどのような種類があるのか? 試験はどのような形式なのか? 書店には各種資格試験本があふれているし、試験情報を扱っているWebサイトも多い。しかし、ことLinuxの認定試験に関する情報となると、メジャーな資格試験に比べてまだまだ少ないのが現状だ。情報が不足しているために、受験をちゅうちょしている人もいるのではないだろうか。

 本連載では、国内で実施されている主要なLinux関連の認定試験について、1つずつ取り上げて紹介していく。紹介する試験については、筆者が実際に受験してみて、そのうえで傾向と対策、試験の位置付けなどを解説していきたいと思う。試験内容については守秘義務があるため、内容そのものを紹介することはできないが、受験を予定している方々の参考になれば幸いである。また、Linuxの認定試験に興味を持ち、試験をスキルアップの手段として活用していただければと考えている。

認定資格・試験の意義
 認定資格に対する是非については、さまざまな意見があるが、筆者は「スキルアップするためのツールの1つ」として考えている。現場を通して習得した技術は実践的ではあるが、業務内容やフィールドによってどうしても偏りが出てしまいがちである。筆者もいくつかの試験対策を通して、Linux/UNIXをより深く理解できるようになったと思う。

 筆者にとっての認定資格・試験の意義は、次のとおりである。

  ・Linux自体についての総合的・包括的な理解を助ける
  ・実務で身に付けてきた技術・知識を体系だてて整理できる
  ・自分の知識についてある程度客観的な評価が得られる

 資格を持っていても実務ができないようでは話にならないが、試験をうまく活用してスキルアップにつなげていくことができればよいのではないだろうか。

ベンダ系とベンダニュートラル系

 Linuxの話に入る前に、まずIT関連認定・資格についてざっと見ておきたい。認定や資格としてはさまざまなものが実施されているが、ここでは以下の3つに大きく分けたいと思う。

  • 公的なもの……国家試験や公的・民間資格
  • ベンダが実施しているもの……ベンダ系
  • 特定のベンダに偏らないもの……ベンダニュートラル系

 公的な資格試験としては、経済産業省が実施している情報処理技術者試験が挙げられる。この試験・資格は、一般的な認知度も高い。

 ベンダ系は、マイクロソフト、シスコシステムズ、オラクルなどの企業(ベンダ)が、自社製品に関する知識や技術を中心として技術者のスキルを評価し、認定を行うものだ。大手ベンダ資格を中心に、ここ数年人気がある。代表的な認定・資格として、マイクロソフトのMCP、シスコシステムズのCCNA、オラクルのORACLE MASTERなどがある。

 ベンダニュートラル系は、企業に対してニュートラル(中立)な立場で技術者のスキルを評価し、試験を実施する企業や団体が認定を行うものだ。ベンダ製品に関する知識が不要という意味ではなく、特定のベンダに偏ることのない標準的な技術・知識が問われる。ベンダニュートラルな資格は最近人気が高まってきているようである。代表的なものとして、CIW(Certified Internet Webmaster)、CompTIAなどが挙げられる。

Linuxの認定資格・試験

 Linuxを対象とした認定資格・試験については、ベンダ系とベンダニュートラル系の両方があり、それぞれ複数の認定試験が実施されている。

ベンダ系 ベンダニュートラル系
Turbo-CE LPI認定
RHCE SAIR Linux and GNU
ORACLE MASTER Linux+ CompTIA Linux+
Linuxを対象とした認定資格・試験をベンダ系とベンダニュートラル系に分類した

 仕事でLinuxに携わっている人や、Linuxに興味を持っている人なら、これらの中のいくつかの試験・資格についてはご存じなのではないだろうか。あるいは、受験を検討したり、実際に受験してみた人もいらっしゃるかもしれない。

 それでは、それぞれの認定試験についてざっと見てみることにしよう。なお、難易度については単純に比較できない面があるので、あくまで目安程度に考えてもらいたい。

ベンダ系認定資格・試験

Turbo-CE(Turbolinux Certified Engineer)

 Turbo-CE(ターボリナックス認定エンジニア)は、ターボリナックスジャパンが実施している、Linuxエンジニアのための資格制度・支援プログラムである。対象としては、システムエンジニア・システム管理者・セールスエンジニアなど、Linuxの導入・サーバの構築に従事している技術者を想定している。

 試験は、Linuxやオープンソースソフトウェアに関する基本的な知識を問われるものが多く、入門レベルのエンジニアが各分野の基礎的な知識を幅広く確認できるような形になっている。スタートから1年半経過した昨年9月末時点で、試験の合格者は2000人を超えている。

試験形式 オンライン試験
難易度 比較的簡単
受験料 3万円(税別)
受験場所 全国のプロメトリック公認テストセンター
Turbo-CEの試験情報

RHCE(Red Hat Certified Engineer)

 RHCE(レッドハット認定エンジニア)は、Red Hat Linuxが世界共通で実施している認定資格だ。実務的なスキルを測る実技試験を中心とし、ネットワークサービス分野においてRed Hat Linuxを確実にセットアップして管理する能力がテストされる。内容は、Red Hat Linuxのインストールからネットワークサービスの設定、セキュリティ、システム管理、トラブルシューティングなど多岐にわたる。

 RHCEを取得するには、択一式選択試験(1時間)、サーバ設置およびネットワークサービスセットアップ試験(2.5時間)、システム診断およびトラブルシューティング演習試験(2.5時間)のすべてに合格しなければならない。試験内容、難易度、受験費用など、どれをとってもほかの試験とは一線を画している感がある。

試験形式 実技、筆記試験
難易度 難関
受験料 9万円(税別)
受験場所 東京もしくは大阪会場
RHCEの試験情報

ORACLE MASTER Linux+

 これは、LinuxというよりはオラクルのDBの認定資格であるが、Linux関連ということで取り上げた。「Linux上でOracleデータベースシステムを構築することができる技術者」の認定として実施されている。受験に当たっては、ORACLE MASTER Silverを取得していることが条件となる。また、ORACLE MASTER Goldレベルのデータベース管理知識も必要だ。

 試験形式は120分間の実技試験であり、試験問題に記載された課題を、配布されるマテリアル(CD-ROMや資料)を利用して、Turbolinuxがインストールされたマシン上に実現することを評価する。

 試験科目は2つあり、Oracle8(Oracle8 Workgroup Server R8.0.5)の場合はTurbolinux4.2J、Oracle8i(Oracle8i R8.1.5)の場合はTurbolinux6.0Jが試験環境として用意される。

試験形式 実技
難易度 やや難しい
受験料 3万円(税別)
受験場所 東京もしくは大阪の日本オラクル研修会場
ORACLE MASTER Linux+の試験情報

ベンダニュートラル系認定資格・試験

LPI認定

 カナダに本部を置く国際的なNPO団体「Linux Professional Institute(Linuxプロフェッショナル協会)」が実施している世界共通の認定プログラム。特定のディストリビューションに偏らない、Linuxの総合的な知識が求められる。

 LPI認定(LPIC:LPI Certified)には、レベル1(基礎)、レベル2(中級)、レベル3(上級)の3つがあるが、現時点ではレベル1とレベル2が実施されている。レベル3は2002年中に開始される予定だ。認定を取得するには、それぞれのレベルごとに2つの試験に合格しなければならない。レベル1、レベル2はいずれも必須、レベル3は6つの試験科目から2つを選ぶ。

LPI認定レベル 117-101 Linux一般1
117-102 Linux一般2
LPI認定レベル2 117-201 Linux応用管理
117-202 Linuxネットワーク管理
LPI認定レベル3
(2002年開始予定)
117-321 Windows統合化
117-322 インターネット・サーバ
117-323 データベース・サーバ
117-324 セキュリティ・暗号化
117-325 カーネル操作、デバイス・ドライバ、パッケージ作成、ディストリビューション
117-32x その他応用(詳細未定)
LPIの認定レベルと試験科目。レベル3は、6つのうちから2つの試験を選択する

 特徴としては、LPI自体がコミュニティベースで運営されており、試験の開発もオープンな形で行われていることが挙げられる。国内外において多くの企業がスポンサーとなって支援を行っているのも、LPIならではだ。

試験形式 オンライン試験
難易度 比較的簡単(レベル1)〜難関(レベル3)
受験料 各1万5000円(税別)
受験場所 全国のVUE公開テストセンター
LPI認定の試験情報

SAIR Linux and GNU

 こちらもワールドワイドで実施されている認定試験だ。試験の対象となる範囲は広く、分野ごとにいくつかの試験に分かれている。国内では昨年11月より、LCAの一部が日本語で実施されている。そのほかの試験は英語版のみが実施されているが、順次日本語化される予定だ。SAIRの特徴としては、試験内容が広範囲にわたること、GNUの名を冠する唯一の認定試験であるということだ。

 SAIR Linux and GNUは3つのレベルに分かれていて、LCA、LCE、MLCEの順に難易度が上がっていく。

LCA Linux 認定管理者
LCE Linux 認定エンジニア
MLCE Linux マスター認定エンジニア(2002年開始予定)
SAIR Linux and GNUの認定レベルと試験科目。レベル3は、6つのうちから2つの試験を選択する

 レベルはいくつかのブロックに分かれている。LCAの場合、試験は「インストール」「システム管理」「ネットワーク」「セキュリティ」の4つのブロックに分割され、各ブロックごとに試験が行われる。

3X0-101 インストールと設定
3X0-102 システム管理
3X0-103 ネットワーク
3X0-104 セキュリティと情報倫理、プライバシー
各レベルは、いくつかのブロックごとに試験が存在する(上記は、LCAの場合)

 上記のうち、「インストール」「システム管理」のいずれかに合格するとLCP(Linux Certified Professional)という資格が得られ、4つの試験すべてに合格するとLCA(Linux Certified Administrator)という資格が得られる。

試験形式 オンライン試験
難易度 比較的簡単(LCA)〜難関(MLCE)
受験料 各1万6200円(税別)
受験場所 全国のプロメトリック公認テストセンター
SAIR Linux and GNUの試験情報

CompTIA Linux+

 CompTIAは、ベンダニュートラルなIT関連資格試験・認定などを行っている非営利団体だ。CompTIAの実施する認定試験としては、PCのハードやOSに関する「A+」、インターネット関連の「i-Net+」などがあり、これらはすでに日本語で実施されている。

 「Linux+」は、半年程度の実務経験を持つ技術者を対象にLinuxの知識を問うもので、昨年秋に米国でスタートした。Linuxのインストール、操作、管理、トラブルシューティングなどに加えて、コンピュータハードウェアについての基礎知識も問われる。今年の夏ごろに日本語化される予定だ。

試験形式 オンライン試験
難易度 比較的簡単
受験料 各2万6250円(税別)
受験場所 全国のプロメトリック公認テストセンター
CompTIA Linux+の試験情報

 次回からは、それぞれの認定試験について詳しく見ていく。

Turbo-CE
RHCE
OracleMaster Linux+
LPI認定
SAIR Linux and GNU
CompTIA Linux+
参考URL一覧

筆者紹介
中島能和 株式会社クロノス常務取締役。講師としてLinux/ネットワークの研修に携わりつつ、書籍の執筆やエンジニアの採用も手掛けるエンジニア。効率的なLinux教育を模索していたときにLPI認定を知り、Linux関連資格・試験にのめりこんでいるという。



 


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