エンジニアが語るリレーエッセイ
エンジニアに資格は必要か? 第1回
ただただし
2001/9/18
毎回さまざまな分野のエンジニアに、「エンジニアに資格は必要か?」をテーマに、自身の実体験などを織り交ぜて語っていただく。エンジニアの“生”の声を紹介する月刊リレーエッセイ。第1回は、データベース、ミドルウェアの周辺ソフト開発者であるただただし氏が、その本音を語る。 |
■資格の前にやっておくことがある
この業界で、資格と名の付くものほど役に立たないものはないと、多くのIT系エンジニアは感じているのではないだろうか。業務命令で、もしくは顧客のウケがいいからという理由で取得してはみたものの、実際の業務では大して役に立たないことが多い。
私もそう考えているクチだし、この業界に入る前からそういった考えだったから、資格の有無で待遇が大きく変わるような企業はこっちから願い下げだと思っていた。当時はバブル華やかなりしころで、同期入社が多く、文系・理系が入り乱れていた……。あれから10年以上たったエンジニア人生を振り返ると、いわゆる資格志向の人よりもそうでない人の方が、仕事がしやすいことが多かったように思う。資格をすべて否定するわけではないが、その前にやっておくことが何かあるんじゃないの? というのが最近の私の考えだ。
■CodeRed II感染で見える管理者のあり方
話は変わるが、8月初めからネットを荒らし回っているCodeRed IIは、この原稿を書いている9月下旬になってもまだ、収まる気配はない。このCodeRed II、インターネットだけでなく企業内ネットワークにも侵入し、結構な損害を出したようだ。聞いた話だが、世界中に数多くの事業所を展開するある大企業に侵入して、社内ネットワーク全域で大暴れをしたそうだ。感染が発覚したとき、全社ネットワークの管理グループが取った行動を聞いて私はあきれた。彼らはまず、対処方法を管理者メーリングリストに投げた後、同じ情報を社内Webサイトに掲示したそうだ。
ご存じのように、CodeRed IIは感染と同時に最大300カ所への攻撃を開始する。Windows 2000主体のネットワークでこれが起きると輻輳(ふくそう)が発生して、場合によってはルータまでが落ちてしまう。つまり、メールもWebも使えない状態になる。結局その会社では、各地のローカル管理者たちが自力で復旧を行い、件の「対策メール」を読めたのは、ほぼ復旧が終わってからのことだったという。
大きな企業の管理組織だから、当然シスアドなどの資格を持っている管理者が何人もいるだろう。しかし、ここで欠けていたのはその手の資格でフォローできる「知識」ではなく、むしろネットワークが分断されたときのことを考える「想像力」であり、電話やFAXのような代替手段を使う「知恵」とでもいうべきものだ。彼らはネットワークに頼ることしか知らず、そのほかのメディアの活用は思い付きもしなかった。あいにく「想像力」も「知恵」も、猛勉強したから習得できるというたぐいのものではないから、たとえ資格があっても火急の際には役に立たなかったわけだ。
似たような話は現場にいるといくらでも耳にする。プログラミングテクニックはすごいのに、仕様書が理解できないので、要求されたとおりに動くコードが書けないプログラマー。MCPのロゴがきらびやかに輝く名刺を持っていながら、顧客と満足のいくコミュニケーションが取れないSE。いずれも資格でどうにかできる問題ではない。
■SEにも基礎体力が必要
こういう能力は、スポーツでいえば基礎体力のようなものだ。どんなにすごいテクニックを身に付けても、筋力や反射神経のような基礎体力がなければ一流のアスリートにはなれないように、技術者にも基礎体力に相当する能力がある。知識だけをかき集めて資格を取っても、それを生かせるだけの基礎体力がなければ宝の持ち腐れだ。
一方、十分な運動能力を持っている一流のスポーツ選手は、頂点を極めた後、別の競技へ転身することも珍しくないし、新しい競技で再び優れた成績を残すことも多い。明日にはどんな新しい技術が生まれているかも分からないIT業界でも、似たようなことはいえるはずだ。ともすれば風化しがちな資格にすがりついて時代遅れになるよりも、華麗に転身できるフットワークを持っていた方がいい。
そうはいっても、資格がなければ採用時の判断材料がなくて困る、と人事担当者はいうのだろう。もっとも、資格を持っているエンジニアは採用しないといい切る企業もあるらしいので、履歴書を書く方も使い分けが大変だ。
■私なら数学とコミュニケーション能力を見る
もし私が採用担当者で、資格以外の採用基準を考えるとしたら、数学の素養とコミュニケーション能力を見るだろう。数学の素養から推し量れる論理的思考能力は、エンジニアとして必須のものだ。例えば高校・大学を通じてまったく数学に触れていないエンジニアには、不安を禁じ得ない。
コミュニケーション能力は、顧客との折衝、チームメンバーとのやりとりがスムーズにできるかどうかにかかわってくる。これも基本的なエンジニアのスキルだ。ある程度は面接や小論文で推し量れるが、履歴書レベルで判断するのは難しい。強いて資格を履歴書レベルで判断できるとしたら、それはTOEICだろう。少なくともコミュニケーションに対する意欲の高さは分かるし、あるかないかの2値でしか判断できない一般的な資格よりも点数が直接出るから判断材料にしやすい。
かくいう私は、数学はやっていたけれど、TOEICは自慢できるような点数ではない。自分が設定した判断基準で不合格になってしまってはどうしようもないが、もしこれを読んでいる若いエンジニアがいるとしたら、情報処理技術者試験よりはTOEICで一歩上を目指した方がいいよ、といっておきたい。
筆者紹介 |
ただただし■基本はデータベース、ミドルウェアの周辺ソフト開発者だが、社内ではカスタマーサポートからネットワーク管理、製品企画、営業、SE、コンサルタント的な業務まで、転々とこなすなんでも屋。でも、フリーソフトウェアを書いているときが一番充実しているかも、という。著書に『Rubyを256倍使うための本 網道編』(アスキー刊) |
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