Tech総研
2007/3/27
その2 女性エンジニア座談会から見えてきた、 IT業界ならではの問題と切なる要望 |
続いて、20代の女性エンジニア2人にインタビューを行った。エンジニアになったきっかけから現状の不満&満足、そして今後の仕事のビジョンについて、お聞きした生の声をお送りする。
エンジニアになったきっかけと、入ってからの印象――最初に、エンジニアになろうと思ったきっかけについて教えてください。
Aさん 最初は小さいSI(システム開発)ベンダにSEとして勤める。現在はある企業の社内SEに転職。SI業界7年目の中堅。 |
Bさん 大学卒業後、主にプログラマとしてSIベンダに5年勤める。最近SI業界に見切りをつけて転職したばかり。 |
A:きっかけは、学生のときに何げなく取ったシスアドの資格ですね。それに、自分の身を立てていけるだけのものをちゃんと身に付けられる仕事を探したいというのがあって。
B:私が就職したときは、ITバブルぎりぎり最後で。IT業界だけはまだ景気も良くて、魅力的に見えたんでしょうね。
――実際に就職してみて、IT業界に対する印象は何か変わりましたか。
B:以前は「IT系って本当にオタクばっかり」というイメージがあって。でも最初に研修とかで仲良くなって違うなと思ったんですけど。ずーっといると「やっぱりオタクじゃん」みたいな(笑)。外見的にオタクという人はいないけど、家に帰ってからもみんなパソコン触ってますよね(笑)。
A:机に何飾ってもいいんですけど、本当にフィギュアが並んでいるんですよ。「これセクハラだよ」ていうようなフィギュアとかも普通に並んでたりとか。それがIT業界では普通なんで「あーおかしいなー」と。
――ちなみに職場内での女性比率はどのくらいでしょう?
A:1割いないと思います。やっぱりやりにくいなと思うときはありますけどね。お昼どっか行くみたいな話になったときも、気を使ってくれる人は使ってくれる。だからたくさんはいらないけど、「もう1人女性がいたらな」と思うことはよくありますね。
B:同じですね。仕事をするだけだったら、本当に何も問題がなくて。お昼ごはんのとき、みんな食べるのが早いんですよ、男の人たち(笑)。で、1人遅いと逆にすごく気を使われるので、もう必死に食べて(笑)。男の人たちだけで遊びに行くとかいうことがあると、疎外感じゃないですけど、ちょっと寂しく感じるときもあります。
女性エンジニアから見た、IT業界の不満
――IT業界の福利厚生などで不満点などはありますか。
A:産休を取って復帰した人を見たことがないんですね。子どもができた時点で辞めてしまう人が多くて……。もし自分に子どもがいたとしたら無理だろうな、とは思いますね。制度としては時短勤務があるんですけど、それをやっていたらたぶん仕事にならないので。
B:うち、時短使っている人もいたんですよ。でもやりづらそうです、その人も周りの人も。「子どもがいるのは分かるけど、早く帰るのはどうなのよ」とちょっと白い目で見られちゃう。
――周囲の男性エンジニアの普段の言動や対応についてはいかがですか。
B:「出産したら辞めるべきだ」っていわれましたよ、私。男の人はSEで奥さんは専業主婦っていう人が多い。自分の奥さんが家にいてほしいって思うのは全然構わないんですけど、それを私にも押しつけるんですか、みたいな(笑)。
A:何ていうんでしょう、デリカシーがないんですよね(笑)。しゃべる話題が「職場のそばにメイドカフェができたんで皆で行きましょう」とか。
B:うちもいってたー!(笑)。
A:携帯電話の最新機種とかの話になると止まらない人もいるんですよ。「もういいじゃん、何が入ってたって」とこっちは思ってるのに(笑)とか、「何ですか、このサーバ名」と聞くと「何とかのガンダムの名前を付けた」と(笑)。
B: みんな会話のネタが少ないんですよね。たぶん何をしゃべっていいのか分からないのでは。
エンジニアとしての生き方に対する満足度&今後
――不満が多く出てきましたが(笑)、IT業界で満足している点についてお聞かせください。
B:評価・待遇で男女差別がないというのがいちばんいいところだったんじゃないかな。
A:そうですね。もちろん男女同じものを求められますので、頑張らないといけないですけど。
――これからのお仕事の展望はどうですか。
B:仕事の中身自体はそれなりに面白みがあると思うんですよ。やりがいとお給料のバランスがあると思うんですけど、その辺この業界は真ん中くらい。この業界を選んだことは後悔していないけど、やりがいを感じてずーっと頑張れるかっていうと、ちょっと。
A:この業界を選んだのは間違ってはいなかったと思うんです。平等に評価されてきたし。自分のキャリアとしていまこの位置にいる、ということに対して後悔はないです。でもずっとエンジニアとしてやっていくかというと、別ですね。
B:制度的には結構いいと思うんですよ、この業界は。でも制度が整って使えるかというと……。現場の感情的な理由でうまく回らないのかなと。
A:時短じゃなくて「全員定時で帰ります」て決めちゃえばいい(笑)。
――では最後に、男性エンジニアにこれだけはいいたいことってありますか。
B:テンションが全体的にちょっと低いんで(笑)、せめて営業さんのノリに、少しでも近づいたらな、と。
A:確かに女性エンジニアは自己主張の強い人が多いですけど、もっと普通に声を掛けていただけると(笑)。
最後に 女性エンジニア300人の今後のキャリア展開について |
最後に、男性エンジニアも日ごろ考えているであろう「この業界でこのまま仕事を続けていくかどうか」について聞いてみた。「しばらくはいまの仕事を続けるつもりだが、将来のことは分からない」との回答が約半数、「いずれ(もしくは近いうちに)エンジニアを辞める(IT業界を離れる)つもり」という回答は約32%にのぼった。
今回のアンケート結果からは「この業界では働き続けることができないだろう」という意見が複数見られた。だが、短時間勤務など働き方に幅ができたり、在宅勤務の一層の拡大などが進めば、「これからもずっと」と思う女性エンジニアはきっと増えていくだろう。
ただでさえ人手不足のIT業界、この先も男性女性問わず多くの人材が必要となっていく。アンケート結果では「自分の奥さん・彼女が働きやすい職場・仕事環境を考えてもらいたい」という声もあった。特にこれからIT業界に入ろうとする女性に、現場の男性エンジニアはどうアピールしていけるのだろうか。
●コラム 女性エンジニアが活躍できるカギは、絶対数の増加とロールモデルの存在 | |||
女性エンジニアにとって、IT業界がよりよく変わるためには何が必要だろうか。その1つのヒントを得るために今回、日本女性技術者フォーラム(JWEF)委員長の菅原香代子さんにお話を伺った。
問題点は、女性の役職者が少ないためロールモデルがいないこと。より生き生きと仕事をするためには、まずは「ロールモデルをつくる」「女性エンジニアの数を増やす」ことが何より必要です。 COSMOS(下記注釈参照)もJWEFも「ロールモデルを見つける」ことを共に提案していて、先輩女性をパネルディスカッションなどを通して若手に紹介しています。またマッチングしたメンターを付けることもしています。女性で役職に就いている人は現実少ない。だからこそロールモデルをつくって見せていかなければならないし、それは経営側の責任でもあります。 IT業界はまだまだ男性社会なので、女性エンジニアを増やすためにJWEFが特に力を入れているのは、女子大生や中・高生を対象としたセミナーです。少子化の現在、女性の有効活用が注目されていますが女性で理系、特に工学系や大学院に進んでいる人はまだ少ないので、優秀な理系の女性はどの企業からも引っ張りだこなんです。また「手に職をつける」というのは女性にとって大きな武器になります。ところが女子学生は、エンジニアが何をしているのかさっぱり分からない。働きやすい進路として、もっと紹介していかなければいけないんです。 今後は、在宅勤務も拡大するでしょう。働き方の選択肢として「家庭を大事にしたい」「キャリア志向」など男女問わずありますが、それを受け入れられるダイバーシティ(多様性)が職場にあるかどうか。例えば私の勤務する日本IBMでは、女性だけが取れるのは「産前産後休暇」のみで、それ以外は男性女性関係ありません。 そして、この記事をご覧になっている男性エンジニアにお願いしたいのは、女性エンジニアにぜひ普通に接してください、ということですね。特別扱いをするのではなく、積極的にコミュニケーションしてください。女性もいまだからこそ、活躍できるチャンスがあると思います。技術の強みがあれば、男女差別は関係ありません。
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☆積極的に攻めるか、消極的に選択するか | |
いまや「女性の社会進出」という言葉が陳腐に聞こえるほど、女性がオフィスにいることは珍しくない。だがいまだに女性特有の困難は実在する。 困難の克服には、問題を当事者だけで抱えるのではなく、他人に分かるように伝えることが最初の一歩となるだろう。制度の不備は周囲の理解や認識不足がもたらすことが多いからだ。 とはいえ、仕事を抱え、さらに家事や育児も抱え、管理職でもないのならできることは限られている。だから女性は将来に向けて状況改善への努力はしつつも、現状をよく見据えた賢い選択も必要だと思う。体制に直接働き掛けることもできるが、消極的に働き掛けることもできるということだ。 前者は正攻法として会社に不都合や問題点を指摘していくことだ。育児中なら子を優先せざるを得ないが、どうすればより良く働けるか会社と交渉していく努力も必要だろう。例えばテレワークも有効な手段の1つかもしれない。 後者は自分に理想的または実利をもたらす会社や人生を選ぶということだ。会社や結婚・出産だって選択できる。それには仕事と家庭に対して、現実的に可能な範囲でどう選択し努力を配分するか、それぞれの価値観でスタンスを決めておく必要がある。こうした選択の積み重ねだって、いつか周囲の理解を促すことにつながるはずだ。 (加山恵美) |
この記事は、Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載しています |
今回のインデックス |
最新データで見る「エンジニアのキャリア事情」(41) (1ページ) |
最新データで見る「エンジニアのキャリア事情」(41) (2ページ) |
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