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必要とされるキャリアとスキルを追う!

第2回 知識とスキルのために時間を惜しまない

下玉利尚明
2006/2/15

いま、現場で求められているキャリアやスキルは、どんなものだろうか。本連載では、さまざまなITエンジニアに自身の体験談を聞いていく。その体験談の中から、読者のヒントになるようなキャリアやスキルが見つかることを願っている。

勉強は「しなくてはならないもの」ではない

 第一線で活躍している多くのITエンジニアには、いくつかの共通点がある。システム開発という「仕事が好き」であること。その「仕事に誇り」を持っていること。「努力家」であること。さらには、ITエンジニアとしての現在のポジションを獲得するために「自ら学び」「道を切り開いてきた」ということである。

 「月間4億6000千万ページビュー」(2005年12月末時点)というアクセス数を誇る巨大サイト「ぐるなび」で、ネットワークとサーバの構築と運用・管理を手掛けている技術department 開発グループの志々目幸憲氏も、まさにそんなITエンジニアの1人である。「自ら学ぶ」スタイルで専門的な知識とハイレベルなスキルを獲得してきた志々目氏は強烈な「ITエンジニア魂」を持っている。そこに迫ってみよう。

勉強は「しなくてはならないもの」ではない

志々目幸憲氏はぐるなび 技術department 開発グループに所属するITエンジニアだ

 勉強とは「しなくてはならないもの」でなく、「したいと思う」ものであるという言葉を聞いたことがある。知識も同じように、生きるために身に付けるべきものではなく、知りたいという欲求があってこそ、初めて本当に身に付くものなのだそうだ。耳が痛いと感じる人も多いかもしれないが、志々目氏とのインタビューで印象に残ったのも同じようなことだった。

 「例えば資格を取得しようと思って勉強する、あるシステム開発の担当者に抜てきされたので勉強する。そんなケースは実際の現場では多いものです。が、本来、ITエンジニアにとって新しい知識やスキルとは、必要に迫られて習得するものではないと思っています。もっともっと『自ら知りたい』『身に付けたい』と渇望するもの、渇望すべき対象です。その『意識を確立する』ことこそ、ITエンジニアとして自立するために大切です」(志々目氏)

ITエンジニアになったきっかけは?

 さて、そんな志々目氏は、どのような経緯でITエンジニアとしての第一歩を踏み出したのだろうか。

 「大学時代には、ようやくインターネットなどのIP接続によるネットワークが、研究室に少しずつ導入され始めた段階でした。その後、国立大学の大学院に進学し、その研究室で本格的にITシステムを任せられるようになり、研究のかたわらネットワークとサーバの構築・運用・管理までを引き受けたのです。ちょうど自分でもFreeBSDなどを使ってサーバを構築したり、ネットワークをつないでみたりとやり始めたころです。いま思い返すとそれがネットワークやサーバに触れた最初でした」(志々目氏)

 大学院卒業後、国家公務員を経てIT関連の団体に勤務した志々目氏だが、その過程の中でITエンジニアとして本格的に歩むことを決意する。「公務員時代にある施設全体にインターネット環境を導入するという経験をしたのです。シスコシステムズのルータも自分で一から勉強しました。そんな経緯でその後もずっと『ITエンジニアとして技術を追求する仕事を極めたい』という気持ちを漠然とながらも温め続けていたのです」(志々目さん)。技術を極めたい。その一心で志々目氏は、フリーエンジニアとなることを決意した。

「当時は、シスコのルータやスイッチに関する専門知識を持ったITエンジニアは少なかった。ベンダのセミナーも頻繁に開催されているわけでもなかった。頼れるものは英語で書かれたマニュアルのみ。その1冊を隅から隅まで暗記するほど読み込んで完全な『独学』で使い方をマスターしていきました。大変そうと思われるかもしれませんが、新しい世界に踏み込んでいくというワクワク感がありましたね。その後、専門雑誌などに設定の記述例などが紹介されるようになったのですが、それを見て『おお、自分の設定とほとんど同じ。やはり正しかった』とうれしくなりました。そうしたことばかりでしたが、楽しかったですね」(志々目氏)

フリーエンジニアの道を選んだ理由

 「当時はさまざまな企業がITエンジニアを募集していました。ただ、ITエンジニアとして企業に入ってしまうと、自分の本当にやりたいこと、自分が追求したい技術に関する仕事を任せてもらえるかどうか分かりません。そこでフリーエンジニアとなったのです。フリーなら『追求したい仕事』ができるはずと見込んだのです」(志々目氏)

 その決断は正しかったようだ。志々目氏は、大手通信キャリアのサポート部隊にフリーエンジニアとして参画した。具体的な業務の内容は、コールセンターから送られてくるトラブルの内容をもとに、シスコのルータやスイッチの設定を確認して問題を解決するトラブルシューティングの業務である。

 フリーエンジニアの世界が厳しいこと、フリーエンジニアとしてコンスタントに仕事を請け負って活動していくことの難しさは広く知られている。

 志々目氏は、フリーエンジニアとして生き抜くのにどのようなことを心掛けていたのだろうか。「知識や技術、スキルを追求する気持ちを失わないこと。これはフリーエンジニアでも企業で活躍するITエンジニアでも同じように必要なことです」(志々目氏)という。

 「多くのITエンジニアは、あるプログラムを開発するときなど、すぐに検索エンジンでサンプルを探してきて、そのとおりに作って『動いた』とか『うまく動かない』とかやっている。そこに自らのスキルを高めようとか、技術を追求しようとかの気持ちはあるのでしょうか。安易にサンプルコードを参考にするのではなく、自分で実際に手を動かしてコマンドを書き、打ち込んでみて、そこで『なぜうまく動いたのか』『なぜうまく動かないのか』をしっかりと論理的に納得していかなければなりません。自分自身の力にはならないのです」(志々目氏)

 システム開発の現場で苦労している多忙なITエンジニアからは「一から手で書いていたら納期に間に合わなくなる」といった声も聞こえてきそうだ。しかし、そんなITエンジニアの人たちは、志々目氏の次の言葉に耳を傾けてほしい。

 「なぜITエンジニアの仕事を選んだのですか。『好きだから』選んだのではないのですか。ITエンジニアとは、仕事をしてその対価としてお金をもらえればそれでいいという職種ではないはずです」(志々目氏)。いわゆる「サラリーマン的な発想」でできる仕事ではないというのだ。「好きだから」こそ追求したくなる。だからこそ自分の力がつく。そのためには時間を惜しまない。そういった気持ちになれるかどうか。そこが本当のITエンジニアか否かの分かれ道かもしれない。

好きだから知識と技術の追求に時間を惜しまず

 さて、好きな技術を極めたいがためにフリーエンジニアとなった志々目氏だが、徐々にフリーエンジニアの限界も感じるようになっていったという。

現在の仕事の魅力について志々目氏は、「責任の重さ。それが『やりがい』につながっています」と語る

 「システム開発において本当に重要な部分は任せてもらえない。プロジェクトのマネジメントもさせてもらえない。もっと大きなシステムの開発や運用を経験するために、ぐるなびのITエンジニアとしての道を選んだのです」(志々目氏)。現在は、同社の技術departmentでネットワークとサーバの構築から運用・管理までを手掛けるグループのリーダーである。

 コンシューマ向けサービスを手掛けるぐるなびだけに、万が一にもネットワークの不具合が発生したり、アクセス急増でWebサーバがダウンといったトラブルが発生するとWebサイトの利用者、Webサイトに登録しているレストランや飲食店などに多大な迷惑が掛かってしまう。

 志々目氏は現在の仕事の魅力について、次のように語る。「絶対に止められない、絶対にダウンさせられない、そんな責任の重さ。これが『やりがい』につながっています。あとはネットワークやサーバの構築から運用・管理までトータルで任せられているところです。例えばシステム開発会社のITエンジニアだったら作って納入するまで、メンテナンスをアウトソースで請け負う場合には保守・管理のみの担当エンジニアとなってしまうケースが多いでしょう。開発から運用までを一貫して担当できるので、いまでは自分たちが作ったものが一般の人たちにどう喜ばれているかを体感しています」(志々目氏)

 巨大サイトの「快適さ」「信頼性」の確保を一手に任されて多忙を極めている志々目氏だが、いまでも当然のごとく「技術を追求するためには時間を惜しまない」という気持ちを持ち続けている。「いまは万が一のトラブルに対応するための冗長化の構成を見直しています。より優れた構成のためには、時間を惜しまず日々、研さんを積んでいます。いままでも自分のやりたいことのためには睡眠時間も削るなどして取り組んできた。その気持ちは失いたくないですね」(志々目氏)

 淡々とした語り口ではあるが、かなりの熱情を秘めたITエンジニアであることは間違いないだろう。そんな志々目氏に次代を担うITエンジニアたちへのアドバイスを聞いた。

 「とにかく自分の手を動かすこと。一から自分の頭と手で納得するまで取り組むこと。安易にサンプルコードに頼らない、人に聞かない。私はグループの若手ITエンジニアにも同じことをいっています。私が教えたら5分で解決することでも、自分の力で解決するように考えさせます。2時間くらいかかってしまうこともあるようですが。でも、それがITエンジニアとしての財産になっていくのです」(志々目さん)

オフではすべてを忘れる

 「仕事が好き」で、その「仕事に誇り」を持ち、「自ら学び」「道を切り開いてきた」。そんな志々目氏のエンジニアスタイルからは多くのことを学べそうだ。

 「夜中に障害対応で呼び出されてもまったく嫌じゃない。平日の勤務時間がほかの部署のネットワークやサーバのメンテナンスや設定、あるいは会議などに終始してしまったら、土日に出社してそのほかの仕事を一気に片付けます。開発から運用・管理までを任される責任あるITエンジニアの仕事がやっぱり好きなんですよ」(志々目氏)

 24時間365日体制で働いているような志々目氏だが、趣味は意外(?)にも「のんびりとした散歩」だそうだ。天気がよければ「4〜5時間は歩く」という。そのときばかりは「ネットワークもサーバも冗長構成も、そんな言葉はいっさい頭から追い出します!」とのことだ。

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