データベースエンジニアを目指せ!

理想のデータベースエンジニアとは?

加山恵美
2003/2/11

 「ここ3年でデータベースの技術や顧客から要求されるものは変わってきた」という。この3年間で何が起きたのだろうか。その変化は、エンジニアにどう影響を与えているのだろうか。伊藤忠テクノサイエンス(CTC)の田邊正廣氏にお話を伺った。

機能比較が不用になった

伊藤忠テクノサイエンス e-ビジネス営業推進本部 データベース営業推進部 部長 田邊正廣氏。外資系コンピュータメーカーに約20年勤務後、1989年CTCへ入社。 大型サーバなどUNIXプラットフォームの営業推進に従事し、 1999年よりサイベース営業推進部長、2002年より現職

 近年、データベースにまつわる技術やエンジニアの環境は変わりつつあるのかと疑問を向けると、「ここ3年の間で変化は確実に起きています。特に、顧客からの要求については、難易度も高くなるなどの変化があります」と田邊氏は答える。

 CTCが取り扱うデータベース製品は、大別するとOracle、Sybase、IBMの3つで、大規模システムに対応できる主要なデータベースを網羅している。数年前まではそれぞれのデータベースごとに担当する部署が分かれ、実際に顧客に提案する前に、社内の各部署で顧客の要求を満たすべく個別に検討し、それぞれが社内で提案(顧客を直接担当する部署などに対して)していたという。

 「こうした社内競合はやめることにしたのです。これらデータベースの部署を1つに統合したおかげで、大きな部署になりました(笑)」と田邊氏がいうように、現在はe-ビジネス営業推進本部のデータベース営業推進部では、3つの製品すべてを扱うようになっている。統合した理由は、こうした社内競合の解消だけにあったのだろうか。

 データベースごとに部署が分かれていたころは、データベース間には機能、性能、価格面でそれぞれ特徴や差があった。そのため、顧客の要望を聞き、要件を実現するために必要な機能はあるか、どれだけ満たしているかを確認するため、比較表などをよく作成したという。しかし、現在ではこうした機能比較表のどの項目でもほぼすべての製品で○が並ぶようになった。つまり、利用可能な機能で比べると、どの製品も機能は搭載され、差がなくなっている。それだけ、どの製品も完成され、成熟したといえる。

 それでは、各データベースに違いはなくなったのだろうか。それに対して田邊氏は、特定のハードウェアと組み合わせたときのパフォーマンスや、ライセンス体系などが異なっていると指摘する。ライセンス体系の基準はベンダごとに違うため、実際のシステムの規模や条件に照らし合わせて、どのデータベースが顧客にとって「お得」かを比較する。

企業が製品を選別できる時代

 データベースの機能比較だけであれば、システムインテグレータ(SIer)でなくても、Webで検索すれば結論を引き出せることが多い。顧客は自社のリソースとの整合性や相性、ライセンス体系、さらに自社で抱えるエンジニアの得意分野をも考慮に入れて、データベースをSIerに「選んでもらう」までもなく、自らで「選べる」ほど技術レベルが上がってきている。

 「今や、顧客のレベルも上がり、機能比較は聞かれる前に顧客が調べ尽くしていることが多い。そのため、顧客は比較検討資料を求めることもなく、使用するデータベースを指名して購入する企業もあります。いわゆる指名買いですね。これが意外に多いのです」と田邊氏は実情を語る。

 顧客のデータベースに関する知識は向上し、パッケージを購入するだけで、すぐに稼働できるシステムも増えた。データベースはよりインフラに近いものになって、SIerの助けを借りずにある程度のシステムならば構築できることもある。

さまざまな顧客の要求にこたえるのがわれわれの使命だという

広く求められるエンジニアのスキル

 そのため、SIerにはより高度な役割が求められている。つまり、難易度の高い、規模の大きな案件だ。まさにミッションクリティカルな案件で、そうしたプロジェクトになると24時間365日、休むことなく問題なく稼働する保証を求められることが多い。

 このような案件では、業務アプリケーションやインフラを構築するシステムインテグレーションの部隊と、バックエンドの製品知識を持つ専門家のチームとの密接な連携が必要になる。大規模なシステムでも開発期間の短期化は進行しているが、それでも数カ月は要することが多い。

 「顧客や社内に対して、『われわれ(の役割)は、ある意味で東急ハンズのような一面を持っています』ということがあります。フロアにはコンサルタントがいて、顧客の相談に乗ります。顧客が求めるものは何でもかなえられるようにしておかなければなりません。そのため、パッケージ化された製品は、顧客が必要としているのであれば、何であっても取りそろえておく必要があります。顧客が受付で質問すれば、売り場を案内したり、コンサルタントが相談にのってカスタマイズして販売することもします。

 データベース営業推進部の位置付けとしては、どちらかというとパッケージ化された製品の専門家のイメージに近いでしょうかね。データベースの専門的なスキルを持つエンジニアが集合して、コンサルタントと連携しながら総合的なサービスを顧客提供していきます。それがCTCのビジネスソリューションになります」(図1

図1  CTC e-ビジネス営業推進本部で使用しているビジネスソリューション図。最下層にデータベースがあり、この下にはOSやハードウェアがある。データベースはそれだけシステムに近いと考えているのと同時に、さまざまなアプリケーションを構築する際の土台となると考えていることが分かる

 田邊氏の説明を踏まえて考えると、データベースエンジニアといっても、データベースだけ分かっていればいいというわけではないことが分かる。周辺知識、業務知識などから総合的にシステム全体を描ける人材が重要となるわけだ。

理想の人材とは

 データベースエンジニアに期待される守備範囲も変わってきた。データベースエンジニアといえば、もっぱらデータベースを究めて、あとはその周辺を多少知っていればよかった。しかし、いまはそうもいかなくなってきている。

 データベースの知識や製品知識に加えて、実務で技術でどう適用できるかかが問題になってくる。持っている知識をどう具現化するのかが“キモ”となる。そこで、CTCの中途採用における採用基準から求められるスキルなどを確認してみよう。

田邊氏は、キャリア採用の場合、資格の有無も確認するという

 「キャリア(中途)採用の場合は、ベンダの認定資格の有無に加え、どれだけデータベース設計の実務経験があるかが重要です。ほかに、過去5年から10年ほど、顧客のシステム開発を1年に1案件くらいのペースで、人事、会計、購買システムなど多岐にわたってたずさわったという実績がある人とかだと、とても魅力的ですね。資格と実績、さらに理論をしっかり把握している人が、まさにわれわれが望む人材です。個人的には資格で人間を判断するのは好きではありませんが、(資格は)私は必要だと思います。採用する際の一定の基準となりますから。ですから、エンジニアとして働くなら資格は取得することを推奨します」と田邊氏はいう。もちろん、資格だけを取り上げて採用を決めるわけではない。

 確かに資格を保有していれば就職活動だけではなく、顧客からのウケがよいというメリットがありそうだ。しかし、第一印象や書類選考には有利に働くが、資格によって実務ができるという保証があるわけではない。本当に「できる」人とはどのような人なのか。

 「それは本当に難しい話です。本当にできる人かどうか見極めるには、その人と話をしてみなければ分かりません。強いて例えていえば、客先で人事システムの話を聞けば、その場で具体的なデータベース設計や規模が想像できること、さらに、その案件に適したデータベースも提案できるようなレベルまで達していることが理想ですね。客先で製品知識や専門用語を並べるだけで、顧客と話がかみ合わないようでは話になりません」

 このように熟達したレベルまで到達するには、おおよそ30歳くらいまでかかるそうだ。では、そこに到達するまでに、エンジニアとしてどんな道程をたどればいいのだろうか。

CTCのキャリアパス

 CTCで採用された新人がエンジニアを希望すると申請した人にはエンジニアとして必要な基礎技術を新入社員研修として集中的に学んでもらうという。その中でデータベースは必須項目となっている。

 データベースを扱う田邊氏の部署には、毎年多くの新人が配属される傾向があるそうだ。新入社員研修を終えて配属されると、最初は先輩の下でシステム提案の手伝いをしたり、新製品の技術検証を行ったりして、製品技術をみっちりと学ぶ。「基礎知識もないまま現場に入っても、失敗するのは見えていますから、そんなこと(すぐに現場に出すこと)はしません。私の部署では、新人にデータベースに関連したベンダ資格を積極的に取得してもらいます。ORACLE MASTERであればORACLE MASTER Silverは必須です。それを取得したら次はGold。それ以降はやや時間はかかりますが、3年くらいかけてPlatinumを取得してもらいます。実務をこなしながらここまでくれば、プロジェクトを任せることができます」

 こうして育ったエンジニアも、数年たち、ひととおりのことを学ぶと、ほかの部署へと異動し、巣離れするという。「新人を育てた社員からは恨まれますね(笑)。『せっかくここまで育てて、自分をサポートしてくれる存在になったのに』と。しかしね、会社全体のスキルをアップさせるうえでは重要なことですしね」

 「データベースの仕事をそのまま続けていたとすると、本当の意味で一人前になるまでには、最低でも5年、一般的には7〜8年はかかります。そのころには30歳くらいになっているでしょう。その次のレベルは、30歳代後半から40歳くらいのところです。ここまでくると、キャリアは10年以上となり、組織も管理してもらえるレベルになっているはずです」(図2

図2 CTCにおけるデータベースエンジニアのキャリアマップの一例

 最近のCTCの新人には学校でコンピュータ知識を習った人もいるが、入社してゼロから学ぶ人もいる。CTCのある新人は、「私は理系の修士卒で、大学でもコンピュータを扱っていたので、比較的苦労は少なかったと思います。しかし、周囲を見ると文系出身でコンピュータを最初から学ぼうとしている人は、確かに大変そうに見えました。しかし、ORACLE MASTERのSilverなど、『目標が掲げられているとやりやすい』という人がいます」という。

ドライに、理論的に

 近年のエンジニアの特徴として、システム改善方法もチューニング一辺倒でなく、多様になっているという。一昔前までならば「データベースなら何から何まで知っている」ような専門家がいて、チューニングを任せれば即解決という人が社内に1人はいたものだった。しかし、もはや解決策はチューニングだけではなくなっている。

 「パフォーマンスが悪ければ、多少のチューニングはともかく、ハードウェアを入れ替えるという解決策もあります。顧客の業務アプリケーション・システムを分析して作り直したりするとなると、多大なリスクを背負うことにもなりかねませんし、そんなことをやりたいと思う顧客も今はまれです。かなりドライな時代になりつつあるのかもしれません」(田邊氏)

 最後に基本を顧みて、エンジニアにとって大事で、忘れてならないことは、論理的な理解力だという。システムの要件を把握する理解力、それを具現化するための創造性、最大の効率を引き出すためにはどうしたらよいのかを考える力、こういった要素は時代を問わず、データベースエンジニアには普遍的な課題となる。

田邊氏のオススメはデータベース以外

 最後に、田邊氏が推薦する本を伺ったところ、データベースそのもののの本ではなく、その周辺や、さらに上を目指すためのものばかりだ。それを紹介しよう。

   エンジニアの次のステップを考える

 エンジニアの次のステップとして「ITコンサルタント」が注目されている。ITを技術としてだけではなく、経営の戦略的手段として用いることができる人材が求められている。この本では、近年登場したITコーディネータの解説もある。企業経営をよい方向に導き、そこでIT技術を駆使できるような人材とはどのような存在だろうか。

田邊氏:「データベースやシステムにかかわる仕事をしている人間からすると、これからはITコーディネータを目指すことが目標になってきます。この本はITコーディネータの概要から解説されており、それを目指す人に役立つでしょう」

ITコンサルタント入門

小山仁著
アスキー
2001年3月
ISBN4-7561-3753-9
1800円(税別)


   データベースの応用分野を知る

 CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の理論と実践方法が解説されている。いまやデータベースは、CRMのほか、ERPなどさまざまな業務分野で利用されている。それらの基本を知るうえで便利な本だ。

田邊氏:「いまやトレンド、いやそれ以上の存在になったCRMですが、それをひとくちにいっても、具体化する方法はさまざまです。実際には、CRMはそれぞれの規模に応じて構築するのが最良かと思います」

CRM戦略のノウハウ・ドゥハウ−「顧客主義」を実現する

野口吉昭編、HRインスティテュート著
PHP研究所
2000年3月
ISBN4-569-61028-5
1700円
(税別)


   IT全般を見渡して理解する

 見開き2ページで1社の事例が紹介されている。バンク・オブ・アメリカやコカ・コーラといった海外企業から、アスクルや松下電器といった日本の企業まで、先進事例が一挙42社分掲載されている。

田邊氏:「ITという言葉がまだ一般にまで浸透する前に出た本です。そのころにこれほどの事例を集めたのはすごいことだと思います。事例だけではなく、統計資料まで付いてこの価格というのはお勧めできます」

図解IT経営

新谷文夫著
東洋経済新報社
2000年3月
ISBN4-492-08992-6
1600円(税別)


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