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必要とされるキャリアとスキルを追う!

第5回 暗号実装の魅力を探る

加山恵美
2006/7/14

いま、現場で求められているキャリアやスキルは、どんなものだろうか。本連載では、さまざまなITエンジニアに自身の体験談を聞いていく。その体験談の中から、読者のヒントになるようなキャリアやスキルが見つかることを願っている。

 携帯電話やカーナビゲーションシステムの普及に伴い、いま組み込み系開発で活躍する技術者が増えている。さらに組み込み系機器では盤石なセキュリティを確保する必要性も高まっている。組み込み系と暗号の最先端を研究するエンジニアを追う。

昔から暗号はあった

 今回のテーマとなる技術は暗号と組み込み系となるが、まずはその前に暗号のルーツをひもとくところから始めよう。エジプトの古代遺跡に記された象形文字、ヒエログリフを見たことがあるだろうか。紀元前1900年ごろの遺跡に、最古の暗号文が使われていた、といわれている。

 紀元前5世紀の古代ギリシャのスパルタでは、革ひもと棒を使ったスキュタレー暗号があった。一見して文字が乱雑に革ひもに書かれているだけだが、特定の棒に革ひもをらせん状に巻き付けるとある行に並ぶ文字がメッセージになるという。ほかにもアルファベットを置き換えたり、多様な工夫を凝らし特定の人だけに情報を伝える暗号技術が古今東西で開発されてきた。

 暗号技術はしばしば歴史の転換点で登場する。特に戦時では攻撃計画を暗号化して送信すること、逆に敵の暗号を解読することに甚大な労力が費やされた。日本でも第二次大戦時に、外務省が海外公館との連絡に「九七式暗号」という精巧な暗号機を用いることもあった。暗号を制することは戦争の勝敗や国の将来を分けるほど重要であった。

DESの解読から生まれたMISTY

 アメリカのディフィー氏とヘルマン氏により公開鍵暗号が考案された。後に米IBMのトマス・J・ワトソン研究所のホルスト・ファイステル氏が開発したものをベースに改良したものが「DES(Data Encryption Standard)」となり、アメリカの標準暗号となった。DESは56ビットの鍵を持つもので、当時解読は不可能とされていた。多くの研究者がDESの解読に挑んだが、なかなか解読は成功しなかった。

 しかし、このDESもついに破られた。解読に成功したのはなんと日本人である。三菱電機の松井充研究員が独力で成し遂げた。DES解読のニュースは世界中の暗号関係者を仰天させた。

 このDESを解読した経験を基に、三菱電機ではDESよりも安全な暗号アルゴリズムを開発した。それがMISTYだ。世界最強の暗号の1つとして名前が挙がるほど有名である。MISTYは英語で「霧」や「ぼんやりとした」という謎めいたイメージがあるが、「Mitsubishi Improved Secure TechnologY」の略でもあり、開発に携わった「松井充氏、市川哲也氏、反町亨氏、時田俊雄氏、山岸篤弘氏」らの頭文字を並べてできた単語でもある。

ゆず茶に挑戦、探求心豊かな山口氏

 DESの解読やMISTYの開発に続き、三菱電機ではMISTYをベースに携帯電話向けにカスタマイズした「KASUMI」、NTTと共同開発した「Camellia」といった共通鍵暗号アルゴリズムを発表している。またこれらの暗号アルゴリズムを標準として提案する活動も行っている。こうしたことからも分かるように、三菱電機の暗号化技術は日本でも世界でも屈指の域にある。

 その三菱電機で暗号技術の最先端に携わるエンジニアがいる。三菱電機 情報技術総合研究所 情報セキュリティ技術部 開発第2チームの山口晃由氏、まだ30歳前の工学博士でもある。インタビューする部屋に入ると山口氏はすでに待機しており、じっと座っていた。

 細長い目で冷静沈着そうな表情。だがどこかユニークな一面が秘められているようでもある。話を始める前に各自飲物を注文したが、そこで山口氏は一風変わったゆず茶を選んだ。探求心が豊かなタイプのようだ。

消費電力などから秘密情報を解析する技術

 そんな山口氏は三菱電機に入社して3年目。組み込み機器への暗号実装と安全性評価に関する研究開発に従事している。

三菱電機 情報技術総合研究所 情報セキュリティ技術部 開発第2チーム 山口晃由氏

 暗号化が実装された製品となると、いまや身の回りに多くあふれている。携帯電話、DVDレコーダー、自動車用の電子キー、指紋認証装置、ICカード、コンビニエンスストアのATMだってそうだ。こうした機器はユビキタス社会を実現するための鍵でもある。

 では、山口氏はどんな製品に携わっているのか。残念ながら、特に専門となる製品群というのはないらしい。なぜなら基礎的な研究を行っているため、将来実装対象となる製品や機器は特定できない。

 山口氏が行っている研究は、暗号の実装や解析に関することだ。大事な機密情報を攻撃から守るには暗号化はもとより、システム動作の解析技術も注目を集めている。というのも、暗号を実装した組み込み機器において、その消費する電力や処理にかかる時間から、機密情報を推定することが可能となるのではといわれているからだ。

 まだまだ未知の分野である。暗号処理が組み込まれている機器の消費電力と処理時間をモニタリングしたら機密情報が解読できてしまう……、なんてことは、にわかには信じがたい。だが可能性も含め、こうしたケースにおける解析技術の開発に山口氏は取り組んでいる。学術的にも挑戦的な分野であり、日々試行錯誤の連続だそうだ。

   

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