第14回 失敗から学んだプロジェクトマネジメント
千葉大輔(@IT自分戦略研究所)
2007/4/24
いま、現場で求められているキャリアやスキルは、どんなものだろうか。本連載では、さまざまなITエンジニアに自身の体験談を聞いていく。その体験談の中から、読者のヒントになるようなキャリアやスキルが見つかることを願っている。 |
ITエンジニアの中に「自分はマネジメント志向か技術志向か」を考えたことがある人は多いだろう。マネジメントスキルを身に付けるのか、技術を追求していくのか。人それぞれ考え方が違う。
サイボウズのグループウェア「ガルーン2」の開発マネージャを担当する佐野大輔氏は「最初はどちらかというと技術志向でした」という。それがいまでは「マネジメントのプロになりたい」と話す。そこに至るまでの経緯を聞いた。
■人に使われるものが作りたかった
サイボウズ 開発本部 プロダクト開発部 佐野大輔氏 |
大学時代に情報工学を専攻していたという佐野氏。しかし、どちらかというコーディングではなく理論的な研究をしていたという。本格的にソフトウェア開発を始めたのは社会人になってからだ。
「学生時代に映画サークルに所属し、作品制作を行っていた影響で『ものを作る仕事に就きたい』と考えていたこと。情報工学を専攻していたので、ソフトウェア作りでもの作りの楽しさを味わえるだろうと考えたこと。自分の腕で食べていきたいと考えていたこと。それらを考えてソフトウェア開発の仕事を選びました」
大学卒業後、大手メーカーのグループ会社に入社。親会社に出向し仕事をしていたという。そこでは携帯向けに画像の変換サーバなど、主に製品の販売促進のためのネットサービスの開発や研究を行っていた。「仕事としては本当に面白い経験ができたと思います」と佐野氏は話す。
3年間その会社に勤めた佐野氏だったが、いつしか転職を考えるようになったという。佐野氏はそのきっかけを次のように話した。
「いろいろな技術や言語に触れることができた仕事でしたが、実際に人に使ってもらう機会やフィードバックを受ける機会があまりなく、だんだんと『何のために仕事をやっているのか』という疑問が浮かんできました。そこで『人に使われる製品を作りたい』と思うようになりました」
「より多くの人に自分の開発した製品やサービスを使ってもらいたい」。そう考えるITエンジニアも多いのではないだろうか。そういった仕事を志向するITエンジニアにとってパッケージ開発は魅力的だろう。佐野氏が面談する転職志望の人の中にも「受託開発よりもパッケージ開発がやりたい」と話す人が多いという。
次の職場として「パッケージ製品を作っている会社」を考えていた佐野氏。その中でもサイボウズを選んだ理由は何だったのだろうか。
「日本でパッケージ製品を開発して、なおかつその製品が広く使われている会社はほかになかなかありません。それが1番大きな理由でした。より多くの人に使ってもらえるような仕事をすることで自分を成長させられると考えました」
■「できたこと」に喜びを感じる
サイボウズに入って最初に行った仕事は、サイボウズのフレームワーク「CyDE 2(サイド2)」の開発、保守。前職でさまざまな技術に触れていた経験を買われたのだという。この仕事は1年半ほど続いたという。そのフレームワークを用いて作られた最初の製品が、現在佐野氏が開発マネージャを担当しているガルーン2だ。
「最初の製品だったということもあり、ガルーン2からフレームワークに対して、いろんなフィードバックが寄せられました。フレームワークを通じて製品にかかわっていくうちに、気が付くと開発責任者になっていました」
佐野氏に仕事にやりがいを感じる瞬間を聞くと「製品をリリースした瞬間」という答えが返ってきた。「学生時代に映画作りをやっていましたが、作っている最中は徹夜で編集作業を行うなど大変です。しかし出来上がった瞬間はすごく達成感があります。それを味わうためにチーム一丸となって取り組んでいくことが昔から好きでした」
ITエンジニアに限らず、ものを作ることに携わる人の中には「ものができた」ことそのものに喜びを感じる人と「ものを作っている過程」に楽しさや喜びを見いだす人がいる。佐野氏は前者のようだ。「映画作りにはいろいろなスタッフが参加しますが、自分は『できたもの』というか『できたということ』がうれしかったですね」
佐野氏にとって、つらい瞬間が「製品や作品が形にならなかった」ときだ。「1つ前にかかわったプロジェクトがうまくいきませんでした。その原因はいろいろありますが、チーム内のコミュニケーションがなくなり、チーム全体のモチベーションがだんだんと落ちていくのが分かりました。結局そのプロジェクトはなくなり、そういう結果で終わってしまったのが非常につらく感じました」
■マネジメント志向か技術志向か
「それまでは技術志向で、優秀なITエンジニアが集まれば大きなプロジェクトも成功させられると思っていました」という佐野氏。しかし、プロジェクトの失敗という経験が佐野氏の考え方を変えたという。
「プロジェクトを進めていくためには、チーム内のコミュニケーションを盛り上げていくことがより大切だと考えるようになりました。その後のプロジェクトでは、週1でのミーティングや細かくマイルストーンを設定し、そのマイルストーンごとに騒ぐなどとにかくコミュニケーションを取りまくろうと心掛けました」と佐野氏は話す。
「1つの製品にとどまらずに、いくつもの製品を横断して技術を習得し、会社の内外問わず技術を広めるところまでいかないと技術で食べていくことはできません。私はそれよりも1つの製品に対して責任を持ってやりたいと考えています。いまはどんなプロジェクトでも成功させて、次のプロジェクトにいくようなマネジメントのプロになりたいと思っています」。それが佐野氏のいまの目標だ。
■広い視点で自分の価値を考える
佐野氏の考えるプロジェクトマネジメントではチーム内のコミュニケーションのほかに、どんなことが必要になるのだろうか。
「適材適所ということが1つ。基本的にその人に1番向いた仕事をお願いしています。ただ、それと相反するかもしれませんが、同じ仕事ばかり振っているとチーム全体のレベルが上がりません。若手エンジニアに対してはあえて違う分野をお願いすることもあります」
若いうちにさまざまな知識や経験を積み、自分自身の価値観を構築し、得意分野を見つけることは、ITエンジニアとしてのコアを作るうえで重要だ。「私も前職での3年間はいろいろなことを体験してきました。その中で役に立ってないことは1つもありません。若いうちはいろいろ技術や経験を積むことは重要ですし、それはモチベーションアップにもつながります。いろいろなことに触れる中で、得意なものを見つけてもらえればと思っています」と佐野氏は話す。
そんな佐野氏に、若いITエンジニアに向けたアドバイスを聞いてみた。
「自分の腕で飯を食っているという自覚を持つことが重要です。自分の腕がどのくらいの価値を生むのか、会社の中の基準だけではなく、一般的に『こういうことができるといくらぐらいもらえるのだろうか』ということを、常に意識することが大切だと後輩に話しています」
重要なのは社内やプロジェクト内という視点ではなく、もっと大きな視点で自分の価値を測っていくことだ。「そうでないと認められないときにつらい」と佐野氏。会社やプロジェクトの評価は、プロジェクトの成否や会社の業績などに依存する。いくら個人として頑張っていても、評価に結び付かないときもある。そんなとき、もっと大きな世界に目を向けることが必要になる。
「広い視点で見れば、働く場所はそこだけではないということに気付きます。自分の腕に価値が出てくれば認めてくれるところは必ずあります。そういうことを意識しているとモチベーションが保てると思います」
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