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人材紹介会社のコンサルタントが語る
第20回 「社内SE」に向く人、向かない人

イムカ
宮脇啓二
2004/5/26

求職者は、人材紹介会社のコンサルタントに転職相談だけではなく、職場の不満、自分の夢などを語ることが多いという。そうした転職最前線に身を置くコンサルタントだからこそ知っている、ITエンジニアの“生”の転職事情や転職の成功例、失敗例などを@ITジョブエージェントの各パートナー企業のコンサルタントに語っていただく。

社内SEへの転職志望者が急増!

 システムインテグレータ(SIer)やIT系コンサルティングファームで働いている方から、最近よく「社内SE(社内情報システム部門)への転職を希望しているのですが……」という相談を受けます。「顧客企業に対するシステム開発」という立場から「自社のシステム開発」へのキャリアチェンジ。理由はさまざまですが、明確なスタンス/ポリシーを持っている方と、漠然とした希望をいわれる方(社内SEって楽かな?)など、仕事内容を正しく認識せずに相談してくる方もいます。

 社内SEはSIerのSEがうらやましく見え、SIerのSEは社内SEがうらやましく見えるようです。「隣の芝生は青く見えるから……」的な転職は決していい結果に結び付きません。

 私は12年間のエンジニア時代に、社内SEとSIerのSEの両方で働いた経験があります。私の転職体験談を通じて、読者の皆さんに「社内SEとSIerのSEとの違い」を認識していただきたいと思います。

社内SEならではの「苦労」を思い知る

(1)社内SEからSIerへの転職
 現職のキャリアコンサルタントに就く前は、社内SEとして8年間、大手流通業の情報システム部門、および情報システム子会社で働きました。またIT系コンサルティング会社(SIer)のSEとして4年間、働いた経験があります。それらの仕事で感じたことや、転職後のギャップを説明します。

 <社内SE時代>
 私が働いていた大手流通業は、当時国内でも最大級の企業で、情報システム子会社だけでも500名程度の社員が勤務しており、システム運用センターを数カ所保有していました。企業グループの事業領域は多岐にわたっていたので大規模なシステムの開発や運用を担当しました。

 私自身は汎用機系/COBOLのプログラマからキャリアをスタートし、入社3年目には大規模プロジェクトに参加し、年齢が若いながらもリーダーとしてある程度広い範囲のシステム開発を任され、自分より10歳年上の外注SEを使い、社内のさまざまな部門との調整をこなしていました。自分たちの企業グループのシステム導入をリーダーの立場で行う職務であったため、使命感・責任感を強く感じていました。その経験は「マネジメント力」や「調整力」などのスキル形成、特定の業界知識の習得に大いに役立ったと思います。

 このころは対外的にもリーダーとして業務をこなしていました。そして社内SEならではという感じはしますが、大変な苦労もしました。

 その苦労とは、何足ものわらじを履いていたからです。明確に作業を分担していなかったため、「グループリーダー業務、社内各部門との調整業務、SE業務(要件定義、設計、プログラミング、テスト、導入など)、ユーザーからの問い合わせへの対応、トラブル対応(夜間の呼び出し)……」といった業務をすべて担当しました。大規模なシステム開発のプロジェクトを行いながら、既存システムの細かな「システム改修」「問い合わせ」「トラブル対応」なども並行して行っていたのです。残業時間は最高で1月200時間に達したこともあります。

 その中で一番のネックは社内SEの宿命である、ユーザーからの気安い“頼まれ仕事”。問い合わせやトラブル、ちょっとしたシステム改修などの作業です。社内各部門で顔が売れるにつれ、各ユーザーとの距離が近くなり、調整が容易になる半面、「あいつに頼めば何とかしてくれる」的な形で、業務量が増していったのです。

 その激務の中で外注のSEを見ていると、「私は何でもかんでもやらなきゃいけないのに、彼らは契約で任された範囲だけやればいい」「システム導入が終わっても、その面倒をずっと見続けなきゃいけないのに、彼らの仕事は導入とともに終わる」など、当時「うらやましさ」や「不公平感」を抱いたものです。

 そして入社8年目、その不満が高まるにつれ、同じ会社/組織内でずっと働き続けることへの不安や閉塞(へいそく)感も感じ始め、30歳で会社を去ることとなりました。

SIerのSEは「金を稼ぐ人」

 <コンサルティング会社時代>
 その後、IT系のコンサルティング会社に転職しました。前述のような業務上のボトルネックからは解放されましたが、今度は大きなスキルギャップに悩みました。

 前職との最も大きな違いは意識の問題です。社内SEは、会社の「間接部門」である一方、SIerのSE/コンサルタントは直接部門(金を稼ぐ人)です。この点は社内SEからSIerのSEにキャリアチェンジした人が、最もギャップを感じるところです。それはプロ意識の欠如ともいえます。

 私の場合は、社内SE時代にバリバリに活躍した(……と自分では思っていた)という中途半端なプライドが邪魔したためになかなか意識変革ができず、プロ意識を理解できませんでした。例えば、さまざまな業界の顧客に提案する場合、開発案件の要求定義をまとめ、契約を行い、成果物を納めて、代価をいただくというプロセスがあります。

 しかし、それまで社内で「なあなあ」で仕事をしてきた結果、システム開発のプロセス/成果物に対する意識が低く「動きさえすればいいんだろう」的な発想が知らず知らずのうちに体に染み付き、成果物のクオリティも低いものになっていました。

 また、顧客との接し方についても、社内での調整と顧客との調整は性質が異なります。ある程度、対人折衝力に自信はありましたが、ビジネス感覚が欠如していたせいか、満足いく内容ではなかったように思えます。

 テクノロジ面では、30歳まで汎用系/COBOLを中心に開発していたので、オープン系を一から学ばなければなりませんでした。社内環境で対応できるものしか開発したことがなかったので、転職して初めて自分のスキルに偏りがあることを知りました。またプロジェクト管理の手法についても、まったく体系だった知識がなく、その点も一から勉強する必要がありました。

 「よくそんなギャップを持つ私をその会社が採用したな」と思いますが、採用に際しては社内SE時代に鍛えられた「リーダー経験」「対人折衝力」を評価してくれたようです。リーダーの立場で働いた経験は、机上のスキルとは別の次元で評価されたようです(SEに必要な馬力というものです)。そのほかの部分は、会社に「これから仕事の中で吸収してくれ」ということでした。

顧客とのコミットメントがプレッシャーに

 時間はかかりましたが、次第にそのギャップも理解できました。スキル面での遅れを取り戻そうと、「プロジェクト管理」や「テクノロジ」について勉強し、何とか外部にも恥ずかしくないレベルで仕事をこなせるようになりました。8年間、現場でたたき上げてきたので、それを後付けで勉強する形となり、「ああ、自分がやってきたことはこういうことだったのか」と、さほど苦痛を感じませんでした。

 また、その会社は前職と異なり、3カ月〜1年程度のサイクルでいくつかの業界や企業のプロジェクトを、SE、コンサルタント、プロジェクトマネージャなど異なる立場で経験できました。その間いろいろなシステムや人々と出会え、エンジニアとしての幅を広げる意味でいい勉強ができたと思います。

 ただ、社内SE時代と違う点は、契約に基づいたシステム開発なので、「顧客とのコミットメントをどう守るのか」というプレッシャーがかかってきます(時に逃げだしたくなるほどの……)。社内SE時代は組織で守られていましたが、SIerのSEは後ろ盾のない状態で働いているという感覚を持ちました。これは前職では経験したことがありませんでした。

 以上のように、私は幸いにも両者の立場を経験しましたが、どちらが良かったかは一概にいえません。それぞれ良い点、悪い点があり、その人の個性や考え方によって“向き不向き”があります。次に私の体験に基づき、社内SEの仕事をSIerのSEと対比させながら整理しましたので、転職を検討する際の参考にしていただければと思います。

 
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ITエンジニアの転職現場から(2)

Index
ITエンジニアの転職現場から(1)〜SIerへの転職
  ITエンジニアの転職現場から(2)〜社内SEへの転職




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