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ヒューマンエラーゼロでいこう

第4回(最終回) ヒューマンエラーとの戦い、ようやく大団円

加山恵美
2008/3/24

人間はしばしばミスをしてしまう。エンジニアなら「うっかりデータを消してしまった」なんてことはあるだろう。だがその「うっかり」が顧客のシステムを停止させ大損害を引き起こすこともあり得る。こうしたささいなミスで信用失墜を起こさないように、社員一丸となって対策を実践している会社の努力の軌跡を追う。

 CTCテクノロジー(CTCT)は、作業中のヒューマンエラーをきっかけに全社的なKY(危険予知)活動を始めた。中央労働災害防止協会(中災防)に協力を依頼、オリジナルの研修を作成するなどして成果を上げたものの、再び壁に直面した。なお、ゼロ災運動やKYとは何かといったことは、本連載第1回の「なぞのゼロ災運動、ITに関係あり?」、第2回の「喜びの大型案件受注。が、崩れる信頼」を参照してほしい。

ヒューマンエラーゼロでいこう 各回のインデックス
第1回 なぞのゼロ災運動、ITに関係あり?
第2回 喜びの大型案件受注。が、崩れる信頼
第3回 「時間とお金の無駄」な活動って何?
第4回 ヒューマンエラー、ようやくゼロに近づく (本記事)

KY活動への理解不足に悩み、成果は後退

 CTCTのヒューマンエラーに対するさまざまな活動により、2003年には数々の表彰も受けた。だが2004年に入ると、それまでの活動が何だったのかというほど、ヒューマンエラーがまた増えてきたのだ。顧客からは「決められたことが守られていない。基本的なことができていない」と耳の痛い叱責も受けた。

 気が緩んだのだろうか。KY活動を始めて数年が過ぎた。重大なヒューマンエラーが起きるとリセットされるHEZ(ヒューマンエラーゼロ)カウンターの効果も薄れてきた(詳しくは第3回の「『時間とお金の無駄』な活動って何?」を参照してほしい)。

 CTCT 品質管理室 室長 橘博明氏は、全社的な活動となったKY活動への社内での理解不足などに悩んでいた。

 「社内にはKY活動に疑問を呈する声がありました。例えば、『KY活動は工事関係者がやることで、われわれITの現場には向かない』『本当にKY活動でヒューマンエラーがなくなるだろうか』『指差呼称なんて格好悪い』といったものです。また、トラブルが発生すると作業は一刻を争います。トラブルが発生して緊急でお客さまを訪問するときに、KYミーティングを行う時間がないという指摘もありました」と橘氏は当時を振り返る。

 社内にKYへの懐疑心が広がり、指差呼称が徹底できなくなってきた。これが全社的な活動でやる場合の壁かもしれない。深刻なトラブルを身近で見たり、実際に顧客から叱責を受けると、ヒューマンエラー防止の重要性が身に染みて分かる。

 だが、ほかの部署にとっては、対岸の火事でしかない。そうして人ごとと思っていると、自分のヒューマンエラーを防ぐことができない。会社全体という広い範囲だとKYの理念もなかなか隅々まで浸透しないのだ。

 ゼロ災運動の理念には「全員参加で」と掲げてあるが、その言葉のとおり「全員参加で」できるようになるにはかなりの努力が必要だ。

 CTCTでも陥ってしまったように、誰かが「人ごと」と思ってしまうと活動は停滞してしまう。これが工事現場では人命が失われるような惨事が起きる可能性があるが、ITの現場では、ビジネス上の損失は生じても人命までは失われることはめったにない。これがゼロ災運動とIT業界でのヒューマンエラーゼロ活動の違いであり、緊張感や意識の徹底が難しい理由のようだ。

反省と再出発、問題点には徹底的に対策を

 そして2005年、あらためてヒューマンエラーゼロを目標に掲げて反省と再出発をすることとなった。上役には会議や研修に参加してもらうことにして、全員参加の意識を徹底することにした。

 推進側にもテコ入れを行い、強烈なサブ指導者を迎え入れることにした。このサブ指導者とはKY活動を提案してくれた恩人であり、CTCTがエラーを起こすたびに激怒していたかつての顧客企業側の担当者であった。

 社内の人間だと社員を叱咤激励するにもつい手加減してしまうが、この人なら遠慮なくしかりつけてくれるだろうというもくろみもあった。実際にそうなった。しかも裏では丁寧なフォローまでしてくれる。いまでは稀有(けう)な怒り役だ。

 自主活動の一環として、2つの部門で「ヒヤリハットクラブ」や「ヒヤリハットラボラトリー」が始まった。どちらもヒヤリハット活動の一環だ。労働災害の経験則の1つにハインリッヒの法則というのがある。重度の災害が1つあればその背後には29件の軽度の事故があり、さらに300件の「ヒヤリ」と感じる未然に防げた事故があるという。

 ヒヤリハット活動とは、そうしたヒヤリとした経験を仲間うちで共有する活動だ。情報を共有し合い、同じ過ちを起こさないように注意を喚起するようにしようというものだ。

 依然として「緊急時はKYミーティングの時間が取れない」という批判はあったが、その対策として障害対応や計画作業時のチェックリストを作成した。これで緊急時にはすぐに作業に取り掛かることができるようにした。このチェックリストは「自問自答カード」といい、基本的にグループごとに作成する。それぞれ部署が違えばチェック内容が違うからだ。このカードを社員証と一緒に常に携帯することにした。

 また、特に重要な計画作業時のため、頼もしい助っ人となるスーパーバイザー組織もできた。この組織は第三者的な立場から作業の監督や監視のみ行う。絶対にミスが許されないような重要な作業時のみ、この組織に監督を依頼できるようにした。

KY活動は会社の価値である

 こうした努力が実り、2005年にはヒューマンエラーやカウンターリセットは2003年と同じ水準に戻り、さらに2006年以降はヒューマンエラーはようやくゼロに近づいている。

 CTCTのこれまでの経験でもそうであるように、ヒューマンエラーはある程度まで減らすことは可能だ。しかし、これをゼロに限りなく近づけようとすると、全社員の協力と相当な根気や努力が必要となる。

 顧客にもKY活動が評価され、信頼の証しとなった。CTCTではKY研修を行うと修了証を発行しているが、ある顧客の作業現場では「KY研修の修了証のない作業員は立ち入り禁止」といわれるほど、KY研修は高く評価されるようになった。

 橘氏は最近の心境をこう話す。「KY活動を始めたころから、営業などに『KYの取り組みを公表してはどうか』と勧められましたが、当初はその気になれませんでした。しかしようやく最近になり堂々とKY活動を説明できるようになりました」

 CTCTは何度か壁にぶつかり、それを克服したことでKY活動の努力と実績を本物と確信できるようになったようだ。

 橘氏は、「KY活動を実践、継続できること、それによりヒューマンエラーをゼロに近づけられることは、その会社の価値につながると思います」と強調する。


 CTCTは、こうした活動をほかのIT企業にもっと知ってほしい、そしてそのために、これまで述べてきたような同社の経験をぜひ参考にしてほしいという。

 確かに開発現場では、導入できないというところも多いかもしれないが、保守・運用管理などを中心とした業務であれば、CTCTの活動は参考になるのではないだろうか。

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