連載:知っておきたい人材会社の裏事情
第5回(最終回)
いまこそ自己実現のために行動しよう
辻俊彦(@ITジョブエージェント担当)
2001/11/9
派遣会社での勤務経験がある筆者(現@ITジョブエージェント担当)が、人材ビジネスの“裏”を紹介するとともに、エンジニアがいかに人材会社と付き合えばいいのか、そのヒントを語る |
これまで4回にわたり、転職の際には利用する人材会社をどう選択し、どう付き合えば有効なキャリアアップやスキルアップが図れるのかを紹介してきました。最終回となる今回は、“IT不況”といわれる現状で、自らのキャリアアップをどう考え、明日から何をすればいいのかを提案して、連載を締めくくりたいと思います。
■価値が高い現在の求人情報
ここ数カ月、IT不況は大手企業をも直撃し、数千人規模のリストラが次々と発表され、メディアをにぎわしています。そこに同時多発テロに伴う国際的な緊張も加わって、景気はマイナス面ばかりが目に付きます。不況ムードにおける企業の採用は、抑制が進むのが従来のパターンでした。が、現状はリストラを推進している企業であっても、他方では採用を行うなど、複雑な動きを示しています。不況時には、不安先行で消費を手控え、リスクをあえて取らない傾向があり、転職市場もその影響を受けて冷え込むのが一般的でした。しかし、見方を変えれば、いまある求人情報は、不況下でも収益を上げている企業からのもので、“ホンモノ”の求人情報ということができると思います。しかも同一企業で解雇と新規採用が同時進行する中で求められるスキルは、今後も価値のあるスキルだといえるでしょう。逆にそのような会社で解雇対象から逃れられたといって安心していてはいけません。いまや動かないことが最大のリスクであることは、しっかりと意識しておく必要があります。
また、現状の採用基準は従来より厳しくなっています。あえていえば、従来は70点くらいの人でも可能性を見込んで採用ということもありましたが、現状は、80点以上でないと明確に採用見送りになります。そういう意味では、いま採用内定を獲得できる人は、自分のスキル・キャリアに自信を持っていいということになります。
■キャリアゴールを見極める
仕事をしている限り、個人が持っている時間のうち仕事をして過ごす時間が一番長いのは、否定できない現実です。それによってお金を得ているのは事実ですが、できれば自分がやりたいことや将来の夢に向かってのステップとして、仕事を位置付けていたいものです。そうでないとしたら、とても不幸なことです。そういう意味でも、本当は何がやりたいのかを見極めることは、キャリアを考える出発点になります。不況で動きにくい現在は、自分の内面に目を向ける格好の機会となります。歩く速度の個人差はさほどでもありません。であれば方向を見極めて、地道に歩いていくことが最短の近道であり、歩いているプロセスも楽しめるようになります。まずは、キャリアゴールを見極めることが重要です。ゴールは他人から与えられるものではありません。自分自身で確信を持つことでしか得られないものです。
キャリアゴールを考えるうえでも、これまでの道のりを振り返ることは有益です。無意識にせよ、その都度選択・判断をしながら歩んできたわけですから、漠然と「自分の夢って何だろう」と自問自答するよりは、自分自身の志向が見極めやすくなります。また、自分の強み・弱みを認識することで、夢の方向性がつかみやすくなることもあります。人材会社ではスキルマップや転職者の事例を情報として持っていますが、どう棚卸しすればいいか分からない方にとっては参考になるでしょう。最終的には、それを文書(レジュメ)化することで、これまでの自分を客観視できると思います。
■カウンセラーと相談して進める
連載の第2回「生き残り策を見極めて派遣会社を選択する」でも書いたことですが、実際の職業選択となると個人で集められる情報は限られていますし、偏りがあります。それを埋め合わせるのが人材会社の機能です。住まいを決めるとき、不動産屋を回るように求人情報を人材会社から得ることは必要です。単純な情報だけでなく、具体的な内容は、キャリアカウンセラーに尋ねることも必要になります。しかし、あくまでも適・不適は、キャリアゴールに照らして考えるべきで、順番は逆にならないように気を付ける必要があります。また、スキルの高い人ほど就業可能な求人情報は多いでしょうから、余計にゴールが重要になります。
キャリアゴール→キャリア・スキルの棚卸し→求人情報、と重要なプロセスを優先して取り組む必要があると書きましたが、人材会社の最も有効な利用法は、最初から一緒に話し合うことです。自分1人で考えてもすぐに煮詰まって、習慣化された思考の産物しか出てきません。仮に個人的な事情をよく知っている親友がいて相談できたとしても、キャリアカウンセラーは多くの転職者を扱ってきた経験から、親友とは違うアドバイスをしてくれるでしょう。本当に信頼できるカウンセラーは、キャリアアップの機が熟するのを待ってくれます。転職はあくまでも自己実現のための手段でしかあり得ません。
以上のようなサービスを受ける場合、人材会社のシステムとして、登録をする必要があります。登録に対する意識のハードルを越えることは大変ですが、動かないことがリスクだとすれば、登録して自分のキャリアプランを考えることは、唯一のリスク回避手段になります。また、冒頭にも書いたように、いまの求人情報はホンモノの価値の高いものです。そういう情報に触れないことは明らかな機会損失です。登録に伴う費用負担、義務は一切生じません。キャリアを考えるスタートとして、登録してみてカウンセリングを受けることが幸福なキャリアを築く有効な手段です。それさえもなかなか気が進まない方は、Web上で匿名登録も可能なサービス(例えば弊社の@ITジョブエージェントも)がありますので、試してみてはいかがでしょうか。
■自己実現の絶好のチャンスはいま
最初にも述べたように、いまある求人情報は価値の高いものですし、採用側が採用に時間をかければ、個人も転職に際して十分に時間をかけることができます。良質な情報を時間をかけて検討できることは、自己実現の絶好の機会といえるでしょう。ただでさえ“転職マインド”が冷えているこの時期、自己実現へ向けて動くことは、個人が本来の自分を見いだして元気になれる秘けつになるかもしれません。
筆者紹介 |
辻俊彦 ●2001年3月まで、エンジニア派遣大手企業で、事業企画に携わり、 企業のニーズに合わせた育成プロジェクトを立ち上げる。エンジニアの自己実現をサポートするというポリシーの下に、@ITジョブエージェントのサービス企画にも関与。 |
「連載 知っておきたい人材会社の裏事情」 |
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