連載:ITエンジニア最新求人レポート No.22<2003年10月版>
雇用なき景気回復はエンジニアにも押し寄せる?
小林教至(@ITジョブエージェント担当)
2003/11/5
アットマーク・アイティのキャリアアップ支援サービス「@ITジョブエージェント」を担当している筆者は、同サービスに参加していただいている会社をはじめ、複数の人材紹介会社/人材派遣会社を毎月訪問している。そこでヒアリングしたITエンジニアの求人動向を定期的にレポートする。マクロ的な動向ではないし、具体的な数値もないが、現状の市況や今後のトレンドを推測する資料としてほしい。 |
■ITエンジニア中途採用数の本格拡大は来年度か
調査会社のIDCジャパンが、国内PC出荷台数調査を発表した。それによると今年7〜9月の企業向けPCの出荷台数は前年同期比で16%増と拡大したそうだ。IDGジャパンでは「株価上昇などで企業の投資意欲が改善している」と分析している。
PCの出荷台数をもって、企業のIT投資が回復したとはいえないが、設備投資意欲が上昇しているのは確かだろう。では、この設備投資への意欲改善がITエンジニアの求人動向に反映されているのかを複数の人材紹介会社に聞いた。
「最近、大手SIer(システムインテグレータ)にITエンジニアの中途採用動向をヒアリングしたのですが、今期は求人数を拡大するつもりはなく、ピンポイントの採用が続くとの回答が多数でした。採用数を拡大するとしても、来年4月以降とのことです」とある人材紹介会社が教えてくれた。
しかし、その人材紹介会社は、来年4月以降の採用増に懐疑的という。「景気回復では一歩先行する米国のトレンドは、“雇用なき景気回復”です。一度絞った人員を拡大せず、筋肉質のまま業績を上げるスタンスなのでしょう。国内IT企業についても同様のスタンスになるかもしれません」
たとえ企業のIT投資が活発化したとしても、大手SIerは正社員の人員を拡大せず、不足する人的リソースは、派遣エンジニアを増員するか、アウトソースする傾向が一層高まるのではないか、という推測だ。特に中国をはじめとする海外開発企業は「安かろう、悪かろう」から脱却し、「安く、高品質」になりつつあり、アウトソース先として有望だ。
先月のレポート(「第21回 ITエンジニアが優位になりつつある転職市場」では、「企業のIT投資が活発になれば、IT業界も活況を呈し、ひいてはITエキスパートの求人の上昇基調になるだろう」と書いたが、そう楽観視はできないかもしれない。
■直近の中途採用トレンドは?
さて、9〜10月の中途採用トレンドとしてはどうだろうか? 複数の人材紹介会社の共通した意見は、「全般的には微増、ただしシステム開発系のITエンジニアに関しては需要増が見えない」というものだ。
この傾向は、求人広告件数の推移からも把握できる。先日掲載した記事「最新DATAで見る「IT系エンジニア」求人動向」(10月分)によると、求人状況に改善は見られるものの、8月に引き続き、9月も求人件数は減少しているという。
このような傾向においても、中途採用に積極的な企業もある。「大手SIerの中には、セカンダリ企業(二次請け)の選別を行っている企業があります。レベルの低い協力企業との取引を終了するというものです。そこで、セカンダリ企業は生き残りをかけ、優秀なITエキスパートを積極採用しているのです」。そこで求められるのは、顧客折衝や要件定義、基本設計など上流工程を経験しているITコンサルタント、プロジェクトマネージャクラスだ。
別の人材紹介会社からは次のような話を聞いた。「中堅以下の企業の中には、数十名レベルの採用を計画している企業もあります。それらの企業には特定分野において強みを持っているという傾向があります」。技術スペック的には、UNIX、Linux上でのシステム開発経験、DBアプリケーション開発経験が求められることが多いという。年齢は20代後半から30代前半とのこと。
しかし、特定の分野で強みを持つ企業を探すのは個人レベルでは難しい。求人広告を見ても判断がつきにくいだろう。この点では、人材紹介会社の持つ情報量を有効活用いただきたい。
■やっと復調、派遣エンジニアへの需要
派遣エンジニアの契約期間は3カ月や6カ月が多いという。そこで半期末の9月や3月は新規契約や契約更新で派遣会社は忙しくなる。「例年9月は新規案件の引き合いも多く多忙なのですが、今年は契約更新の話ばかりでした」と某人材派遣会社の営業担当者が話してくれた。
「9月がそのような状況だったので、今年の下半期は厳しいかと覚悟していたのですが、10月に入ってから、新規案件の引き合いが多くなりました。派遣エンジニアニーズはやっと復調したのではないかと希望的な推察をしています」という。
特に多いのは、JavaベースでのWebアプリケーション開発経験者とパフォーマンスチューニングができるDBエンジニアだそうだ。ひところJavaエンジニアニーズは余剰感があったが、ここにきて不足気味になりつつあるらしい。
回復したと希望的観測をしている前述の営業担当者だが、「引き合いのある案件はいずれも既存システムの改修案件ばかりです。新規の大規模開発案件が出てくれば、安心できるのですが……」と、先行きを楽観視しているわけではない。
■完全なる需要過多。組み込みエンジニア
最近の転職サイトや雑誌、転職フェアでやたらと目に付くのは、自動車や家電、精密機器メーカーのエンジニア募集だ。今回行った人材紹介会社へのヒアリングでも、各社一様に「求人数が最も多い技術系職種は、組み込みエンジニア」という。この分野はもともとエンジニア人口が少なく、かつ早期に育成もできないため、求人数が求職者を上回っている需要過多(エンジニア不足)な状態といえる。
例えば、情報家電の中にはOSとしてLinuxを採用するケースがある。さらにJavaで組み込みソフトウェアを開発するケースもあり、従来別分野と思われていたシステム開発系技術スキルと組み込みソフトウェア系開発スキルが近づいている。組み込み分野が、システム開発系エンジニアの新たな活躍のフィールドになるかもしれない。
そこで、複数の人材紹介会社に、組み込みソフトウェア開発は未経験でも、システム開発経験があれば可という求人があるかと質問をしたところ、各社とも「ない」という回答だった。「いまの組み込みエンジニアの募集は、経験者のみです。VXWorksやITRONなどのリアルタイムOSでの開発経験は必須とされます」(某人材紹介会社)
このことは正社員採用に限らず、派遣エンジニアでも同様で、ほとんど経験者のみのようだ。「Linux上での組み込みソフトウェアを開発できるエンジニア、という引き合いは多くありますが、そのようなエンジニアはなかなかいないため、対応できていません。最近わずかですが、C/C++での開発経験者ならば、組み込みソフトウェア開発は未経験でも可、という案件も出てきました」(某人材派遣会社)という。
このように、現時点では組み込みソフトウェア開発の分野は、ITエンジニアの新しい活躍領域になってはいない。が、この需要過多状態が続けば、「未経験可」という求人が出てくるかもしれない。この分野に動きが出てきたら、再びレポートしたい。
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