連載:ITエンジニア最新求人レポート No.8<2002年7月版>
採用活動活発化するも、求められるスキルは……
小林教至(@ITジョブエージェント担当)
2002/7/31
アットマーク・アイティのキャリアアップ支援サービス「@ITジョブエージェント」を担当している筆者は、同サービスに参加していただいている会社をはじめ、複数の人材紹介会社/人材派遣会社を毎月訪問している。そこでヒアリングしたITエンジニアの求人動向を定期的にレポートする。マクロ的な動向ではないし、具体的な数値もないが、現状の市況や今後のトレンドを推測する資料としてほしい。 |
■多くの職種で中途採用活動が活発に
3月の求人トレンドレポート「転職市場、ついに回復基調へ!」で、“転職市場は完全に底を打って回復基調になった”とし、その後毎月そのトレンドが続いてきた。主な採用職種はプロジェクトマネージャだったり、コンサルタントだったりと限定された職種での採用意欲だった。しかし、7月は「プログラマからSE、プロジェクトマネージャと募集職種が広がり、さらに求人数も増えています」(某人材紹介会社)というのが、ヒアリングしたほとんどの人材紹介会社からの答えだった。
「中堅で勝ち組のシステムインテグレータ(SI)の採用意欲が特に盛んです。しかもそれほど高い要求レベルでもない求人もあります。そのような求人はあっという間に決まってしまう状況です。とはいえ第2新卒クラスの求人はなく、28〜32歳くらいの経験年数5年以上が中心です」(某人材紹介会社)だそうだ。それら企業の心理を、採用できるうちに採用しておかなければ、この先負け組になるからと分析する人材紹介会社もあった。
SI以外で活発なのは、携帯電話やAV機器など、いわゆる情報家電の組み込みエンジニアだそうで、これもどの人材紹介会社でも共通した動向だった。「特に中国市場へ製品を投入している、または投入を予定しているメーカーからの求人が多いですね」(某人材紹介会社)ということだ。最近よくいわれる“生産拠点としての中国”から、“一大消費市場としての中国”へ軸足を移したメーカーの人員拡充計画の一環なのだろう。
ある人材紹介会社では「生保・損保系の情報システム会社や、その系列会社も採用に意欲的です」と教えてくれた。ひところの銀行再編に続き、今度は生保・損保の再編に伴う動きだそうだ。相変わらず金融系システムに強いエンジニアへの採用意欲は高いという。
■自社システムから業務系パッケージへリプレイスが進む
情報家電の組み込みエンジニアとともに、今回のヒアリングで聞いたのは、ERP、SCM、CRMなどいわゆる業務系パッケージの導入コンサルタントの求人数の多さだ。このトレンドは以前から続いているが、いよいよコンサルタント不足が深刻化しているらしい。
「業務系パッケージの導入コンサルタントの採用時に求められるのは、物流・販売・生産管理・財務会計・人事労務などの業務知識と経験、業界の商慣行への知識です。特定業界での業務経験が4〜5年ある20代後半のエンジニアが最も求められていますね。各部門の専門家である顧客と対等に話せることが必要で、それができさえすれば、テクニカルスキルが多少劣っていても採用されることがあります」(某人材紹介会社)。
例えば、メーカーで生産管理システムを5年担当している28歳のエンジニアだと、転職市場での価値がとても高いという。ただそのようなエンジニアは、往々にして自身の価値を認識していなかったり、そもそもキャリアプランを考えていなかったりするそうだ。せっかく持っているアドバンテージをこれからのキャリアにどう生かしていくか、考えてみてはいかがだろうか。そのために人材紹介会社のキャリアコンサルタントに相談してみることをお勧めする。キャリア査定とともに自分のキャリアの可能性も提示してくれるはずだ。
業務系パッケージの導入コンサルタントの求人が多いということは、それだけユーザー企業に業務系パッケージの導入が進んでいるということだ。「TCOの削減や、国際会計基準への対応、企業統合をにらんで、など各企業により導入理由はさまざまですが、ここにきて自社システムから業務系統合パッケージへリプレイスをする企業が増えているようです。実は2000年問題の際にもリプレイスが進むと予測されたのですが、自社システムのメンテナンスが比較的容易だったので、盛り上がらなかったんですよ」と事情に詳しい人材紹介会社のキャリアコンサルタントは教えてくれた。
この業務系統合パッケージへのリプレイスの動きがさらに拡大したとき、ソフトウェア開発エンジニアを取り巻く環境はどう変わっていくのか。おそらく必要人員は減るだろう。そして、求められるスキルは前述のようにテクニカルスキル以上に業務経験や顧客交渉力が重視される。この長期トレンドの中で、エンジニアとしてのキャリアプランをどう描くべきか。このテーマについては、今後も折に触れレポートしていきたい。
■活況は長続きしない?
一見活況を呈しているエンジニア転職市場だが、冷静に分析する人材紹介会社もある。ある人材紹介会社は、「この時期に中途採用活動が活発になるのは、来春入社の新卒採用活動や今年入社の新人研修がひと段落したためで、例年のこと」というのだ。
そして「この活況は長くない、と見ています。会計不祥事などによる米国の不安定な経済動向により、日本企業も中途採用について慎重になっています。経済動向が少しでも悪くなればすぐにでも中止するでしょう」(前述の人材紹介会社)と予測する。上昇基調なITエンジニア求人トレンドとはいえ、楽観視はできないようだ。
■派遣需要の上昇は9月以降か
先月のレポートでは、派遣エンジニアトレンドについても「底打ち感」とした。底を打つには打ったが、上昇には転じていないようだ。「案件は微増の傾向ですが、引き続き厳しい状況に変わりはありません。いまは、1名の派遣エンジニアの案件に、数十人もの申し込みがある状況です」(某人材派遣会社)。情報家電の組み込みエンジニアや生保・損保系システムの要件定義のできるエンジニアなど、中途採用トレンドに似た派遣案件もあるそうだが、いずれも高いスキル(ハイスペック)を要求されるだけに、なかなか決まらないのだという。
「スキル条件として増えているのは、UNIX/Linuxでしょうか。経験年数が2〜3年のエンジニアは引き合いが多いですね。対して、Windows 2000のできるエンジニア、というのは少ないです。Windows系の案件は、自社内でエンジニアを調達できるというのが実情のようです。またここのところ多いのは、要件定義や分析設計などネットワーク構築の上流工程ができるエンジニアの要請です」(某人材派遣会社)
中途採用のトレンドが派遣業界に波及するには、3〜6カ月かかるという。とすると、9〜12月ごろには派遣業界も上昇に転ずる可能性がある。引き続き派遣トレンドにも注視していく。
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