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組み込みエンジニアへの転身指南

第18回 本当の転職理由を忘れるな

大谷麻里子(パソナキャリア)
2008/11/18

「したいことをするため」「条件のいい仕事に就くため」など、人はさまざまな理由で転職する。組み込み業界も例外ではない。同業界を舞台にした転職活動の喜怒哀楽を、キャリアコンサルタントがこっそり教える。

 転職を考えるのは、辞めたい理由があるからです。転職活動では、退職理由や転職理由を面接で答える機会が多くあります。そのため、「転職理由を忘れる」人がいるというと、読者の皆さんは信じられないかもしれません。しかし、そもそもの転職理由を忘れて転職し、入社後にその理由を思い出す人がいるのです。

面接で聞かれる重要なポイント「転職理由」

 転職活動で最も重要なのが面接です。企業にとって面接とは、書類ではつかみきれない要素、例えば応募者の具体的な経験、スキル、性格、会社に対する理解や熱意などを把握する絶好の機会です。応募者にとっても、仕事の詳細な内容や、自分のやりたい仕事ができるのか、などを把握するチャンスです。

 企業/応募者ともに重要な質問は、「どうして転職をするのか?」です。転職したい理由が明確でないのは問題外ですし、転職して実現したいことをその会社で実現できなければ、入社する理由がなくなってしまいます。

 転職活動を行うと、ほとんどの面接で転職理由を話すことになります。そのため、転職活動の開始時期には明確でなかった転職理由も、何度か面接をこなすうちに、きちんと答えられるようになるでしょう。

 人材紹介会社では状況に応じて模擬面接を行います。エンジニアの中には、面接に苦手意識を持っている人がいます。そんな人には、答え方のポイントを伝えたり、応答の練習を行ったりします。模擬面接を通じて、転職理由をスムーズに答えられるようになる人もいます。

 スムーズに転職理由を答えられるようになったものの、本来の転職理由を忘れてしまう人がいます。

本当は「年収アップ」が理由だけど……

 武田さん(仮名)は大学卒業後、小規模なソフトハウスで働いていました。開発の内容は、プロジェクトによって変わりましたが、業務系システムや組み込み系システムが多かったそうです。先輩や同僚などとも仲が良く、プログラマとして5年間勤務し続けました。

 プライベートでは付き合っている女性がいました。付き合いも3年目となり、そろそろ結婚を……と意識し始めます。しかし、年収は残業代込みで400万円程度。結婚したら子どもは欲しいね、と話していた武田さんは、いまの会社で勤務し続けて家族を養うのは難しいのではないかと考えました。そして、武田さんは転職活動を始めることにしました。

 手始めに転職サイトに登録し、「面接」についてインターネットで調べてみると、「前向きな転職理由が必要」「キャリアアップに関する意識が必要」などの言葉が見つかります。「年収をアップさせたいから」ではまずいのだろうか、と悩む武田さん。そこで、表向きは「組み込み系のキャリアを磨きたいから」ということにしました。

 気になった企業に次々応募する武田さん。思ったよりも早く面接の依頼が企業から来ました。しかし最初の面接はかなり緊張してしまい、自己PRや転職理由をうまく話すことができませんでした。

 これではいけないと、武田さんはあらためて志望理由をまとめることにしました。その甲斐あって、組み込み系のキャリアをどうして磨きたいのか、どんなときにやりがいを感じるのか、すらすらと答えられるようになったのです。

 そして、次の企業の面接。事前準備が功を奏したのか、面接の3日後には二次面接の案内が来ました。さらにほかの企業も面接まで進むようになりました。最終的には面接を受けた5社のうち3社(独立系の大規模なシステム会社2社と、メーカー系列のシステム会社)から内定をもらうことができました。

 武田さんは組み込み系のキャリアを極められそうなメーカー系列のA社に入社することにしました。メーカー系ということで、いままでの仕様書ありきの仕事から、仕様策定にも関与できる可能性があるとのことでした。

 基本給はかなりアップしました。残業代30時間分込みの年収は、いままで50時間以上残業を行ったうえでの年収とほぼ同額でした。そのため、年収に関しても特に心配はありませんでした。

意外と少ない残業、これでは年収が上がらない!

 武田さんは無事に前の会社を退職し、新しい会社に入社しました。中途社員研修を受け、配属が決定。

 思った以上に会社の環境は良く、社員教育にも熱心で、メーカーに深く入り込んでいる会社であることが分かりました。将来のキャリアも楽しみになってきました。

 しかし、1つだけ気になったことがありました。いままでの会社では22時ごろまで会社にいる人がほとんどでしたが、この会社ではかなり早い時間に社員が帰っているようです。残業は30時間程度と書いてありましたが、実際はみんなそれ以上に残業をしているのでは、という覚悟で入社した武田さんは肩透かし。残業時間が30時間に満たないことが多かったのです。

 ここで、武田さんは困ってしまいます。組み込み系のキャリアを極めること目的であったなら、この会社は理想的だったかもしれません。しかし、思い出してください。武田さんの「本当の転職理由」は「年収アップ」だったのです。

 基本給は上がったものの、残業が少ないと年収のアップにはならない、と頭を抱える武田さん。彼女との結婚を考えると、もう一度転職した方が良いのだろうか……と考え始めてしまいました。

「なぜ転職したいのか」を書き留めておこう

 企業に伝える転職理由は、前向きなものが理想です。周囲の不満を口にするとマイナスの印象を与えてしまう可能性があります。そのため、転職理由をうまく企業に伝えられるように準備することが必要です。

 しかし、転職活動をしていくうちに「採用されたい」という気持ちを優先して、「受けの良い転職理由」を作り出してしまうことがあります。企業に受けが良いように表現を工夫することは必ずしも悪いことではありませんが、譲れない点を把握しておくことも重要です。

 せっかく転職に成功しても、そもそもの条件を忘れて活動をしてしまうと、またすぐに転職を考えることになりかねません。人材紹介サービスでは、選考が進むタイミングごとに、その企業を気に入った理由、気になった点、当初の転職理由とのぶれを確認し、選択のサポートをしています。転職活動を始める前に、「なぜ転職したいのか」「転職でかなえたいことは何か」「譲れない条件は何か」を書き留めておくことをお勧めします。転職活動中に何度も見返し、企業の提示する条件と見比べましょう。

筆者プロフィール
大谷麻里子(パソナキャリア)●総合人材サービス会社での営業、アシスタント、企画業務経験を経てパソナキャリアへ入社。以前取得したCDA(キャリアディベロップメントアドバイザー)の資格を生かし、現在は機械・電気・化学メーカーなどに特化した転職希望者を担当。エンジニアを中心に転職相談などのアドバイスを行っている。


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