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〜自分戦略研究所 転職者インタビュー〜
転職。決断のとき

第26回 収入が下がっても転職したい理由とは?

岩崎史絵
2005/8/17


転職が当たり前の時代になった。それでも、転職を決断するのは容易なことではない。スキルを上げるため、キャリアを磨くため、これまでと異なる職種にチャレンジしたり、給料アップを狙ったり――。多くのエンジニアが知りたいのは、転職で思ったとおり仕事ができた、給料が上がった、といったことではなく、転職に至る思考プロセスや決断の理由かもしれない。本連載では、主に@ITジョブエージェントを利用して転職したエンジニアに、転職の決断について尋ねた。


今回の転職者:伊藤俊夫さん(仮名・30歳)
大学(法学部)を卒業後、システムインテグレータ(SIer)に就職。運輸・旅行業の大規模システムの開発プロジェクトを担当することになり、アセンブラ、アプリケーションサーバ、ネットワークおよびOSなどを習得する。6年間同じプロジェクトに所属する中で、「さらに技術を磨き、自身の価値を高めよう」と転職を決意。@ITジョブエージェントに登録し、2004年10月に製造業に特化したSIerへと転職。

技術力を高めたい

 大学では法学部で学んでいた伊藤さん。「家族が全員マスコミ系の仕事なので、当初は大学を卒業したらマスコミ関係への就職を考えていた」(伊藤さん)というが、SIerに就職した。それから丸6年たったころ、“技術や開発の面白さ”が分かるようになり、それらをより追求すべく転職活動を開始したそうだ。

 伊藤さんはもともと好奇心がおう盛なのか、インターネット系のサービス企業や新しい技術に興味があった。ネットバブルが弾けたとはいえ、業績が好調だったり、または新しいネットサービスを展開したりして、注目されているベンチャー企業は多い。そうした企業は、新しい技術を開発したり、または既存の技術をうまく取り入れたりしながらビジネスを拡大していく。IT業界の中でも、いささか古い体質が残るタイプの企業に勤めていると、こうした“先端”のベンチャーで働きたいという思いが頭をもたげるだろう。

 伊藤さん自身、転職に当たってこのような軽い気持ちがあったことを否定しないが、「技術力を強化したい」という思いは絶えずあったようだ。というのも、伊藤さんが以前勤めていたSIerは、安定した収入基盤こそあるものの、アセンブラやCOBOLなど古い言語が主流だったり、大規模システムの保守・運用が主な業務だったりと、新しく何かをつくり出す風土ではなかったためだ。

 もちろん技術力は高いし、社内の雰囲気も良い。ただ「技術力を高め、ちゃんとモノを作り出したい」と思う技術者にとっては、やや不足する環境だったのだろう。今回の転職の動機の原点でもある。

安定しているが変化の少ない保守・運用業務

 伊藤さんは、大学生のときの就職活動では、マスコミ関係のほか、IT業界を中心として会社訪問をした。大学生の時に発売されたマイクロソフトの「Windows 95」の発売前後にインターネットブームが巻き起こり、爆発的にPCが普及した。この時期に大学生だったり、就職活動を経験した人は皆、「これからはIT業界だ、と思った」と口をそろえる。中でも伊藤さんは、ソフトハウスではなく、「顧客の要望に沿ってきちんと開発し、入社後の研修がしっかりしている企業」という選択眼を持って就職活動を進めた。入社したSIerも、研修期間が半年だった点が決め手だったという。

 1998年の4月に入社した企業のメイン事業は金融業界のシステム開発で、その次に大きな事業として運輸・旅行業のシステム開発・保守の仕事があった。特定の企業システムというより、業界全体で利用するシステム基盤がメイン。運輸・旅行業界では、この基盤に自社のシステムを連携させて交通機関の稼働状況を把握する。古くから開発を重ねてきたこともあり、メインのロジックはアセンブラで、最近になってアプリケーションサーバやゲートウェイサーバとのインターフェイスを備えたそうだ。主要業務は、このシステム基盤に関する運用・保守や新規開発になる。伊藤さんはこのプロジェクトに配属された。もちろんプロジェクトといっても半端な規模でなく、チーム1つが1プロジェクトという大規模なものだ。

 研修後に、運輸・旅行業の基盤システムのインターフェイスに関する機能追加を担当した。このときにはアセンブラを使い、2年近くかけて開発した。それが終わると引き続きインターフェイス部分の保守・運用業務を担当し、これは1年間続いた。

 さすがに飽きてきたところへ、ゲートウェイサーバへ接続するインターフェイス・アプリケーション開発の担当になった。アセンブラからCやJavaの世界へ移り、技術的に変化があったのは伊藤さんにとってありがたかった。

尊敬していた上司のひと言が後押し

 その一方で芽生え始めたのが転職の意思だ。最近の新入社員は安定志向だといわれているが、やはり「一生同じ会社に勤め続けるつもりはない」という気持ちを抱えているもの。特に転職が当たり前のIT業界において、同じ会社で3年、4年とたつうちに、転職の意思がどんどん強くなっていっても不思議はない。

 伊藤さんの場合、転職を後押しする大きなきっかけがあった。それは入社当初から、技術者として尊敬していた上司が日を追うにつれ、何事に対してもどんどんネガティブな見方をするようになっていったこと。それまでは、その上司の技術者っぽいところや、技術についても熱意を持ち、手を抜かない仕事ぶりに憧れていた。

 ある日、転職の意思があることをその上司に相談すると、「とめるつもりはない。ここでは、伊藤くんのやりたいような新しいことができないよ」ときっぱり。これが伊藤さんの転職の意思を強固なものにした。

ベンチャー気概あふれる企業への転職を希望

 これがあって、伊藤さんは2004年6月から転職活動を開始。やはり技術はおろそかにしたくなかったし、そのうえで新しいことや、新規開発にチャレンジしたかった。同時に、交渉力や管理能力など、仕事の能力を高めることも忘れてはいない。そうすることで、自身の市場価値もより高まるからだ。

 早速伊藤さんは、以前よりアクセスしていた@ITの「@ITジョブエージェント」に登録。「技術を忘れたくなかったので、@ITジョブエージェントに信頼を置きました」(伊藤さん)という理由からだ。

 同時に、すでに転職を果たした元同期入社の友人にも連絡を取り、転職ノウハウを聞いた。「転職のいい話ではなく、辞め方や転職の進め方など具体的な事柄を中心に話を聞いた」(伊藤さん)とのことで、夢物語ではなく、自身の足でしっかり転職先を見定めようと活動していたことがうかがえる。

 @ITジョブエージェントに登録後、2〜3社の人材紹介会社から連絡があり、最初に会ったパソナキャレントに転職活動をサポートしてもらうことにした。転職は相性というが、まさにこの場合も「担当者の方に会ってすぐ好感が持てた」(伊藤さん)というのが決め手のようだ。

 当時、伊藤さんはサーチエンジンの会社や携帯電話向けコンテンツ会社、大手SIerなどに関心があった。パソナキャレントの担当者は、伊藤さんの希望や興味のある企業名を聞いて、20〜30の企業を紹介。新しいことにチャレンジでき、なおかつ技術的に優れた企業を幅広く見た方がいい、というわけだ。

 面接が始まったのは、猛暑の盛り。新しいことをやりたいという思いが空回りし、コンサルタント希望という形で面接に臨んだり、挑戦したいことを的確に伝えられないなどを繰り返しながら、徐々に自分のやりたい方向性がきちんと見えてきた。それを言葉にして伝えることで、最終的に2社から内定が出たという。

 経営者の人柄が面白そうで、技術的にも申し分がないと判断し、現在所属する製造業向けSIerに転職を決めた。業務としては堅実で、しかもJavaやオブジェクト指向開発などの新技術を使って一から開発を進めるというスタンスで、伊藤さんの希望にはぴったりだった。

 一方で、退社の意思を前の勤務先に伝える必要があった。伊藤さんの場合、同じプロジェクトの中でいろいろと仕事をしたので、顧客企業からの信頼も厚く、むしろ顧客からの引き留めに遭って苦労したという。そのため転職する直前まで以前の勤務先で仕事を続け、翌日から転職先に行くという「休みなし」の転職活動だった。

会社の成長に貢献したい

 転職して8カ月がたった現在、伊藤さんは冷静な目で転職先を見ている。「まず良かったのは、会社として『お客さまにはいいモノを作る』というスタンスがあることです。また社員を大事にしようという社長の意思を感じますし、大きく期待を裏切られたことはありません」(伊藤さん)という。

 実は伊藤さん、この転職で収入自体は下がったそうだ。それでも伊藤さんを転職に駆り立てたものは何か。「収入が良くても、自分の市場価値を上げたり、自分を高めたり、また会社の体制をつくっていくという大きな経験は、以前の会社では期待できませんでした。今度の会社は比較的新しいこともあり、例えば研修制度などはまだ充実していません。それでも仕事のやり方を工夫したり、またいいシステムを作ろうという気概があるので、自分が所属していた会社のやり方なども参考にしつつ、いまの会社の成長に貢献したいです」(伊藤さん)と話してくれた。

担当コンサルタントからのひと言

 伊藤さんは大変サポートしやすい方でした。なぜなら転職のテーマを明確に持っていらっしゃったからです。転職は必ず成功するとは限りません。イメージで転職する人が増えた昨今、やはりハッキリとした目的を持って転職活動に臨まれる方が、成功する可能性は高いのです。

 私が伊藤さんにアドバイスしたことは、「技術者としてスキルを向上させていきたい」という伊藤さんの志向性に対して、「どんなスキルを向上させたいのか」と、もう一歩踏み込んだ目的意識を求めた点です。どうなればスキルアップと呼べるのか、それは人によりさまざまであり、転職活動の目的地を左右する重要な要素です。

 伊藤さんの考えるスキルアップとは、レガシー技術中心ではなく、インターネット技術やネットワークに親和性の高いJava言語の技術など先進性・将来性の高い技術を身に付けていきたいというものでした。また単に実装するだけではなく、システム設計の経験も身に付けていきたい。要は上流工程の経験も積みたいという要望も持ってらっしゃいました。伊藤さんが最終的に転職先に選んだのは、自社開発のパッケージソフトを持っている会社で、ソフトハウスとして単に開発を請け負うのではなく、システム開発に上流から一貫して携わることができる会社でした。

 スキルアップを希望する方は多くいらっしゃいます。ただスキルアップとはあいまいな言葉であり、どうなればスキルアップと呼べるのか、どういう自分になりたいのか、そういったことをじっくり考えて自分の方向性を設定しなければなりません。伊藤さんはそれができたわけですが、それは技術者として伊藤さんが自己実現意欲が高かったからだと思います。新しい技術を使って上流工程を経験し、次のステージへジャンプアップしてもらいたいと思います。

パソナキャレント ITコンサルティンググループ





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