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経営者から若いITエンジニアへのメッセージ

第7回 ソフトウェア・バリュー・クリエーターを目指せ

三浦優子
2007/7/5

企業各社にとって、人材戦略は非常に重要な課題だ。人材の育成に当たって、トップは何を思うのか。企業を担う若いITエンジニアに何を求めているのか。

 オリンパスソフトウェアテクノロジーは、その社名のとおり、オリンパスのソフトウェアを開発する会社である。誕生したのは2006年7月。それ以前は、オリンパスグループの情報システム開発などを手掛けるオリンパスシステムズの一事業部であったが、オリンパスが発売している製品に組み込むソフトウェア事業を手掛ける企業として分社化された。

 オリンパスソフトウェアテクノロジー 代表取締役社長の天野常彦氏は、分社の背景を次のように説明する。

 「われわれが手掛ける『プロダクトウェア』の仕事量は急激に増加し、最近の機器製品の性能、機能に占めるソフトウェアの重要性は飛躍的に拡大しています。例えば、携帯電話1台に搭載されているソフトウェアの量は、1980年代に時代の最先端をいくものだった金融機関の第三次オンラインシステムに匹敵するといわれています。つまり、これからはソフトウェアがプロダクトの良しあしを決めるといっても過言ではなくなろうとしています。ですからプロダクトウェアの開発を担当する部門を分社化して、重点的に強化する必要があったのです」

 天野氏の発言にあった「プロダクトウェア」とは、製品に搭載または同梱されているソフトウェアを指す言葉で、天野氏らの造語だという。世間的にいえば「組み込みソフトウェア」といわれるものに一番イメージが近いかもしれない。ただし、ここでは製品に直接組み込むソフトウェアだけでなく、アプリケーションや製品によってはOSなども含めている。

コミュニケーション能力や想像力が鍵

オリンパスソフトウェアテクノロジー 代表取締役社長の天野常彦氏は、これからは「技術だけでなく、コミュニケーション能力を持った人材が必要」と語る

 オリンパス製品に組み込まれるソフトウェアを開発するエンジニアにとって、必要な資質とはどんなものか。そう質問すると、天野氏は次のように答えた。

 「ここ数年で自動車に入っているソフトウェアの量は約16倍、携帯電話に入っているソフトウェアの量は約20倍増加しているそうです。当社の従業員数は設立時(2006年7月)には420人でしたが、2007年1月には520人になりました。半年で100人の増員を多いと思われる方もいるでしょうが、この業界ではもっと大量の採用を進めている会社もざらにあります。むしろ、今後を考えていくと、日本の学生の理科離れが叫ばれ、文化系の学校や学部を卒業した人材を採用したとしても、ソフトウェアすべてを自社で開発していくことは不可能になるでしょう。つまり外部の力を活用することは必至といえます。そのときに、当社のエンジニアにはどんな能力が必要になると思いますか。技術や経験はもちろん、外部の開発会社と上手に付き合っていくコミュニケーション能力が鍵になるんです」

 製品に組み込まれるソフトウェア専業の会社のエンジニアというと、職人的な技術者を想像してしまう。が、天野氏は、その思い込みを払うように、「技術だけでなく、コミュニケーション能力を持った人材が必要」と指摘する。

 さらに、天野氏は続ける。「よく、『ソフトウェアを開発するためには、事前に体験しないと』といいますが、さまざま製品にどんどんとソフトウェアが組み込まれていくのですから、それをいちいち体験するというのははっきりいって難しい。例えば医療機器やバイオ分野で利用される解析システムなどはオリンパスの得意分野ですが、こうした機器類は、すべての開発エンジニアが体験して開発することはできません。想像力を働かせて、ユーザーの気持ちやこの技術がこんな分野に応用できるのではないかと考える力が必要です。その想像力を支えるのは、本質を見抜く洞察力であり、世の中や技術の変化を感じる力です。コミュニケーション能力とともにこうした資質を持った人材が当社には必要です」

 技術者にコミュニケーション能力をはじめ、想像力、洞察力、環境順応力が必要と聞いて、面食らうエンジニアもいるかもしれない。

 しかし、天野氏は「これからのエンジニアは、技術以外の資質を養っていかなければ、インドや中国の優秀なエンジニアと一緒に仕事をしていくことはできないでしょう。明らかに年収は日本の方が高いのです。日本のエンジニアは、インドのエンジニアと同じようにプログラムを書くのではなく、いかに製品に付加価値を付けられるかという明確な目的意識とそのためのスキルを身に付ける必要があるでしょう」と語る。

 これはオリンパスグループのエンジニアだけに当てはまることではなく、オフショアによる開発が不可欠になりつつある中で、日本の製造業のプロダクトウェアエンジニアに共通する問題提起ではないだろうか。

   

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