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転職支援訓練体験レポート
失業者はエンジニアになれるか?
第2回 失業者、学生になって希望を失う

かわい きこ
2002/2/27

リストラに遭遇した筆者はハローワークで、あるプログラムを知った。それは、失業者向けの転職支援制度だった。現在の労働者の需給マッチを解消すべく、政府が実施している「緊急IT化対応等委託訓練」には、数多くのITエンジニアやプログラマに転身できるようなコースがあった。筆者はそのプログラムに応募し、エンジニアへの転身を図ろうと考えた……。このレポートは、筆者が実際に通った学校での実体験を基にしています。もちろん、すべての学校が同じような状況とは限りませんが、就職支援訓練に通おうと考えている人の参考になればと思います。

■本当にWebシステム構築科?

 まず最初に、「平成13年度 緊急IT化対応訓練事業等委託訓練 受講生募集のご案内 中核人材育成コース(3カ月訓練)」のパンフレットから、私が申し込んだコース内容を、念のため書き写しておきます。

科名 Webシステム構築科
対象・受講要件 Windows 98、Word・Excelなどのインストールができる方
訓練目標 ・Linuxを利用して、サーバ管理者としての技術を習得する
・ネットワークシステムを構築する
訓練内容 コンピュータリテラシー、ソフト・ハードウェア、ネットワーク知識、
アプリケーションソフト、インターネット知識、データベース関連
知識、ホームページ作成など
仕上がり像 Linuxを使用してネットワークを構築し、各種サーバ、ファイア
ウォールを立てられる。データの効率的な利用ができる

 しかし、授業開始後数週間もたつと、私の頭の中は“ハテナマーク”でいっぱいになりました。「そうか、やっぱり技術者向けの講座なんて大変だろう」と、同情と哀れみの声が聞こえてきそうですが、そうではないのです! それでは、なぜそれほどまでに“ハテナマーク”でいっぱいになったのか、とりあえず授業内容を聞いてもらいましょう。

 月・水・木・金の午前中は、「ITセミナー」「情報システム」などとうたった講義があります。中学や高校の授業さながらに、先生が黒板に次々と文字を書きつつ、コンピュータ関連のことを延々と語ります。ハードウェアやソフトウェアのこと、インターネットやネットワークのこと、講義内容は広範囲にわたります。ただし、この間にPCの前に座ることは一度もありません。

 ソフトウェアの講義では、コードが書かれたプリントを配られたことはありましたが、それを自分自身で入力することはありません。さらに時々「このコードを実行すると、こんなことができます」と、部屋を暗くして先生が持参のノートPCを大画面に映し出し、プレゼンしてくれることはありますが、その時間は私たちの格好のお昼寝タイムです。先生もプレゼンが終わると、「あ、終わりました、ゆっくりお休みになられましたでしょうか」なんていってしまうほど……。

■午後の授業とタイピング練習事件

 午後の授業になって、ようやくPCを見ることができます(「PC演習」と「PC実習」)。しかも週に3日間(月・水・金)です。しかし、この3日間で何をやるのかといえば、Excel/Accessの授業です。しかも、午後の最初の1時間はまだPCを直接操作させてもらえません。まずは教科書に書いてあるExcelのシートの作り方などを講義する授業があるのです。「こういう形のボタンがあるので、これを押して並べ替えます」といわれても、目の前にPCがないとは……。

 個人的には、意味がなさそうに思えるこの午後の1時間の講義が終わると、やっとPCの前に座っての2時間の実習時間となるのです。しかし、ここで私はズッコケそうになりました。なんと、毎回1時間、たっぷりとタイピング練習をさせられるのです。

 本当に「帰ってもいいですか?」といいたい気持ちを必死で抑え、最初の数回は私もまじめにタイピング練習を行い、“あなたはタイピング名人です”と画面に表示されたテスト結果を、“クラスメート”に自慢しました(もちろんむなしいです)。とはいえ、タイピング練習も数回が限度です。すぐに私はタイピング練習の時間に、ほかの学科の自習や予習をするようになりました。「タイピングは嫌だ!」という私のささやかな抵抗だったのかもしれません。このタイピング練習のことを私たち生徒は、「タイピング練習事件」と呼ぶようになりました。

 この地獄のタイピング練習が終わると、ようやくExcelやAccessの実習です。このとき使うPCは、当然のようにインターネットにつながっていません。個人的に、インターネット上からフリーのWebメールなどで外部の人と連絡を取ろうなんてことを考えた私がいけないのでしょうが。1カ月ほどたつと、ようやくタイピング練習はなくなりましたが、その時間はExcel/Accessの実習時間が間延びしただけでした。

 木曜日の午後の授業は、Webページ(HTML)を作成する授業、「ホームページ解説」と「ホームページ実習」です。この授業も1時間の講義の後、2時間の実習となります。もちろん、この実習で使うPCもインターネットにはつながっていません。Webページ(ホームページ)は自分で作りたいと考えていたので、初歩的なHTMLを学ぶだけの授業ですが、取りあえずはよしとしましょう。

■講義の多い理由を発見

 しかし、ExcelにしてもWebページにしても、教科書を見たり、ウィザードに従ったりしていればできることばかりの実習です。どうして実習の前に1時間も講義が必要なんだろうかと、初めは不思議に思っていました。あるとき、私が通っていた専門学校にはPCのある教室は2つしかないことに気付きました。学校全体で何クラスあるのかは知りませんが、無駄な講義を多くしなくちゃいけない理由は、きっとそこにあるのでしょう。

 ハローワークか東京都か、それとも国なのでしょうか? どこがこうした企画のチェックをしているのか分かりませんが、「全員が実習をクリアできるために、講義を1時間入れ、全員の理解度を上げる」っていう程度の企画書だったのでしょうか? 本当は、専門学校の物理的な制約のためだったのに……。

 さて、授業開始から数週間もたつと、生徒もそろそろあきらめムードです。見極めの早い人の中には、タイピング練習の授業でサボる人が現れていました。講義中にお昼寝をする人や、独自でネットワーク系の本を読んで勉強する人など、各人各様といったありさまです。講義をしている先生も、もともとがこんな授業じゃあ仕方ないとばかり、注意もせずに淡々と授業を進めていくのです。

 そこで、私も“アルバイト”に時間を当てるため、モバイルギアを購入しました。この原稿の一部も、そんなつまらない授業の合間に書いたものです。これでつまらない講義の時間も少しは快適に過ごせるようになりました。

■唯一の「技術者向け訓練日」

 ここまで、意外と学校の悪口ばかり書いてしまいました。しかし、こんな学校でも、たまにはちゃんとした授業はあるのです。それが火曜日です! 1週間でただ1日、この日だけは朝から夕方まで、インターネットに接続しているPCを操作できるのです。この日だけは出席率もグンとアップします。中には火曜日だけ学校に来る猛者もいるほどです。

 火曜日の午前中は「UNIX」の授業です。教科書とにらめっこしながらviエディタを使ったり、ディレクトリを作ったり、ユーザーを増やしてみたり、グループ分けをしたり、実行権を変更してみたりと、実際に自分でコマンドを打ち込みながらの実習です。「そうそう、私はこれがやりたかったのよ」と実感しつつ、UNIXのコマンドを少しずつ学習していきます。

 午後の授業は「ネットワーク実習」です。この授業こそ、Linuxサーバのことを勉強する時間なのです。こちらもなかなか満足できる授業で、いわれたとおりにやっているだけとはいえ、LinuxのインストールやFTPサーバやSSHなど、さまざまなプログラムのインストールを行います。そんなわけで、火曜日だけは大変な充実感を覚えながら1日が終わります。

 これらの1週間の授業をまとめると、次のような時間割になっていました。

これがWebシステム構築科の恐るべき時間割

■授業後のアフター4(フォー)

 こんなふうに最初の1カ月は過ぎ去りました。授業は定時の午後4時きっかりに終了します。あるとき、クラスのだれかが「飲みに行こう!」と提案し、それにほぼ全員が賛意を示して飲みに行ったことがあります。失業者の身の上、さらに夕日がまだまぶしい時間帯。少し後ろめたい気分で飲みながら、「あんな授業をずっと受けてていいのか?」といった疑問をぶつけあい、議論になりました。最終的には、「まぁ、まだ1カ月しかたっていないので、もうしばらく様子を見よう」ということで落ち着きました。

 振り返って考えると、1カ月目はまだ、「ここで頑張って勉強して、何とか技術系の仕事に就きたい」といっていたクラスメートがいました。しかし私は、自分がエンジニアになるのは無理だろうと、すでにあきらめていました。

INDEX  失業者はエンジニアになれるか? 
  第1回 失業者、エンジニアに目覚める
第2回 失業者、学生になって希望を失う
  第3回 学生となった失業者、反抗を試みる
   第4回 学生、再び失業者に戻る

「連載 失業者はエンジニアになれるか?」

 

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