転職支援訓練体験レポート
失業者はエンジニアになれるか?
第3回 学生となった失業者、反抗を試みる
かわい きこ
2002/3/15
リストラに遭遇した筆者はハローワークで、あるプログラムを知った。それは、失業者向けの転職支援制度だった。現在の労働者の需給マッチを解消すべく、政府が実施している「緊急IT化対応等委託訓練」には、数多くのITエンジニアやプログラマに転身できるようなコースがあった。筆者はそのプログラムに応募し、エンジニアへの転身を図ろうと考えた……。このレポートは、筆者が実際に通った学校での実体験を基にしています。もちろん、すべての学校が同じような状況とは限りませんが、就職支援訓練に通おうと考えている人の参考になればと思います。 |
■2カ月目に先生交代
授業開始から2カ月目に、学校の都合とやらで先生の一部が入れ替わってしまいました。このときクラス全員を落ち込ませたのは、無駄に感じる授業が多い中、講義でも実習でも独自のプリントや実体験を交えつつ授業を進めていた一番人気の先生が他校に移ってしまったことです。その先生が担当していた「OAセミナー」と「ネットワーク実習」(実態はLinuxの実習)の授業には、新しい先生がやって来ました。
Webシステム構築科の時間割 |
「ネットワーク実習」担当の新しいS先生は、エンジニアと先生という二足のわらじをはく働き者です。Linuxをこよなく愛しているとても熱心な先生で、授業開始後すぐに一番人気の先生に躍り出ました。もし、あの先生の授業が毎日続けば、私たちの中から運良く技術者になれる人が出ていたかもしれません。週に1度の授業で1度ずつさまざまなサーバのインストールや設定をしても、何をやっているのか理解できないまま終わることがあるのですが、毎日授業を受けていれば、さすがに少しずつ感覚がつかめるはずです。
私自身の体験で申し訳ないのですが、CD-ROMからインストールするときは、先にCD-ROMをマウントする必要があることを覚えたのは、最初の授業から3カ月もたったころだと記憶しています。毎週火曜日の授業で毎回CD-ROMを使うわけではないし、数週間に1度ぐらいの頻度で、「これはCD-ROMに入っているので、そこからインストールしてください」といわれても、「インストールって何から始めるんだっけ?」となってしまっても仕方がないと思いませんか? 家で復習してもすぐに忘れる私が悪いのでしょうが。
いま、板書したノートを見直すと、私のノートにはCD-ROMマウントのコマンドのことが、なんと3回も書いてありました。S先生は、私たちの状態(知識レベル)をよく理解していたのか、辛抱強く1人1人の進み具合をチェックしながら授業を進めてくれました。おまけに授業の後も、時間無制限で質問を受け付けてくれ、いつも授業終了後2時間くらいみんな教室に残り、先生に質問をし、S先生はそれに対して優しくていねいに答えてくれたのです。全生徒15名のうち、そこまで残っている生徒は5名程度でした。
■恐るべし、OAセミナー
そして新しく私たちのクラス担当になったもう1人の先生が、「OAセミナー」のX先生です。それまでのQ先生は、教科書をほとんど使わない授業で、毎回先生自らが作成したレジュメや、新聞の切り抜きなどを配布し、工夫を重ねた授業で人気の先生でした(ただし、その内容を理解してもWebシステム構築ができる気はしませんでしたが)。X先生はそんなQ先生とは正反対な授業で、生徒一同を睡魔へといざない、まったくだれも聞いていない授業を展開したのです。
OAセミナーの教科書には、用語解説ページがあります。それを授業の間、一定のリズムで(お経のように)読むだけです。「ショートカットメニューとは、マウスを右クリックすると出てくる便利なメニューです」とか、「ドラッグ&ドロップとは、マウスのボタンを押したまま、マウスを動かすことです。主に目的の場所まで対象を移動させるのに使います」といったことを延々と話し(読み)続けるのです。もちろん、PCなんてどこにもありません。先生の声だけが、むなしく教室に響き渡るのです。この授業は、「タイピング練習授業事件」(「第2回 失業者、学生になって希望を失う」を参照)に次ぐショッキングな事件として、それぞれの心に刻まれたのでした。
この教科書には、「コンピュータの仕組み」や「通信ネットワーク」など、まともそうな章もあるのですが、圧倒的に多いのは、「ワープロの基礎知識」(網掛けやアンダーラインなどの定義が掲載されているだけです)や、「ビジネス文書の書き方」などといった章です。「ビジネスマナー」という章には、お辞儀の仕方が図とともに書かれていたり、敬語の使い方などが紹介されていたりします。この授業には、ヒューマンスキルの高いエンジニアを育てようという、高尚な狙いがあったということでしょうか?
■OAセミナーでプチ反抗
この教科書どおりに講義を進められたのではたまったものではありません。これは何とかしなくてはと思案していると、同じように考える人がほかにもいたようで、「あのぉ。僕たちはネットワークの勉強をしにきたんですが……」と、声を上げた人がいました。“さすがにこの講義は許しがたい”という思いは、どうやらみんな共有していたようです。
そのクラスメートは言葉巧みに、「できればネットワークやシステムに関連付けた内容も講義していただけるとありがたいのですが」と、不満だけではなく、解決策(ソリューション)の提案もしてくれました。先生は生徒の方を見向きもせず、顔を真っ赤にしてうつむきながら「分かりました」とだけいって、そのまま教室を去ってしまいました。
X先生をはじめ、なぜか私たちが通う学校の先生は総じて生徒に話し掛けられるのが苦痛に感じているか、苦手そうな先生が多く、実際先生と目を合わせる機会はほとんどありませんでした。
さてその後、この授業はどう変化したかというと、X先生は「OAセミナー」の教科書を使用しなくなりました。しかし、ほかの授業で十分すぎるほど講義を受けたExcelの機能を紹介するような授業に変更になったのでした。しかも、そこには1台のPCもない教室です。その中でP先生が淡々と、「Excelにはこういう機能があります」と語るのみ。これ以上何をいっても無駄だと察した私たちは、この学校とX先生の限界を垣間見たような気がして、この事件以降、だれも文句をいうことがなくなったのです。
■工夫する先生の授業はやっぱり人気
意味のない(意味を見いだせなかったというべきでしょうか)講義の効果でしょうか。講義への私の考え方は、徐々に変化しました。初めのころは、講義時間に比べて実習時間が少ないことに不満を持っていたのですが、そのうち「技術的な内容の講義なら、どんな内容でも悪くはないか」と、感じるようになっていたのです。慣れとは恐ろしいものです。最初は「さっさとPCに触らせろ!」と禁断症状が出ていたというのに……。
数ある講義の中で、ある程度の人気を保ち続けていたのは、「ネットワーク知識」の講義です。人気の秘密は授業のレベルの高さと独自性。担当のM先生は、「OAセミナー」や「PC解説」などの授業のように、ただ教科書を読むだけの授業はせず、雑誌の切り抜きのコピーを配布したり、先生がインターネットで実際に利用している情報源などを紹介したりと、身近な話題を盛り込む授業が“ウリ”でした。私もこの先生の授業は毎回楽しみで、体調の悪いときに1度欠席しただけで、最後まできちんと出席し続けました。
■それでもある講義への不満
ただ、その講義にも少し不満をいわせてもらえれば、「もっと基本的なことから分かっていないのになぁ」と思うことがありました。例えば、私は恥ずかしながらクロスケーブルとストレートケーブルの違いを知りませんでした。
授業では、ルーティングプロトコルやOSIの7階層モデルの解説などを学習しました。しかし、この講義は、初めて聞く用語が耳に入るだけでも「PC解説」などの授業より、ためになることは確かです。ほかのみんなも同じ気持ちだったのか、この授業は実習も何もない講義だったのですが、毎回確実に5〜10名(定員は15名です)の出席者をキープした数少ない授業でした。
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