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「転職でキャリアアップ」のウソ・ホント

第5回 新卒1年目でも転職できますか?

アデコ
辻貴由
2007/5/8

3年後に起業したい!

 大和田さん(仮名)は、中堅ソフトウェア開発会社へ新卒で入社してもうすぐ1年。プログラマとしてWebシステム開発を担当してきました。「将来はWebシステム開発会社をつくる」というキャリアビジョンを持っていて、もともと3年をめどに転職を考えていました。

 大和田さんが任されていたプロジェクトは、流通業向け顧客管理のWebシステムの開発でした。幸いにもすべてが起業へ生かせる内容の仕事で、大和田さんは何事にも積極的に取り組み、好奇心を持って、システム開発のノウハウを熱心に習得しました。その頑張りが認められ、1年目であるにもかかわらず上流工程も任されることとなり、仕事は大変充実していました。

 しかしあるとき、携帯電話の組み込みソフトウェア開発部門へと転属になってしまったのです。本人のキャリアプランからすると組み込み分野は大きく外れてしまうために、これを機に予定よりも早い転職を決意し、転職相談に来たのです。転職理由は「起業のためのキャリアアップ」ということでした。

 話を聞いてみると、大和田さんはWebシステム開発への強いこだわりと自分なりのキャリアビジョンを持っていて、転職理由の揺らぎはまったくありませんでした。私は、現在の転職市場では組み込み分野のITエンジニアのニーズが非常に高く、このまま転職せずに現職にいることも将来的には有効なキャリアになるのではというお話もしました。しかし大和田さんは、ハードウェアと密接に関係する組み込み分野での起業は難しいと判断し、Webシステム開発のスキルとノウハウを身に付けなければ自分のキャリアビジョンは実現できないという考えを持っていました。そしてWebシステム開発のスキル習得に加え、将来に向けて小規模なソフトウェア会社の運営方法を学び、人脈を広げていくために、ベンチャー企業への転職を希望していました。

 大和田さんは一般的な1年目のITエンジニアに比べ、技術的なスペックは非常に高く、上流工程の経験もありました。1年目とは思えないほどのキャリアを積んだという実績に加え、起業への熱い思いが認められて、すぐにWebシステム開発に特化したベンチャー企業への転職が実現しました。年収はダウンしましたが、大和田さんにとってのキャリアアップ転職は成功したといえます。

キャリアビジョンの有無が、明暗を分ける

 同じ1年目に転職を志した嶋さんと大和田さん。2人の違いはどこにあるのでしょうか。それは、「明確なキャリアビジョンを持って日々の業務に臨んできたか」ということです。自分のキャリアビジョンに向けて、「いま何をすべきか」を常に考えていたかどうかによって、たった1年の間に2人には大きな違いが生じました。

 就業年数が短く、経験が少ない人の転職では、いかに自分をアピールするかが重要となってきます。そこでは短期間でどれだけ業務に対して真剣に取り組んできたかと、どれだけ熱いこだわりを持っているかがポイントになります。就業期間は短くても、中身の濃い業務を行うことによって、実際の期間以上のキャリアを積めることにもなります。明確なキャリアビジョンを持って能動的に仕事をしていくことで、たとえ入社1年目であってもキャリアアップ転職を成し遂げることができるのです。

 若手転職希望者に転職理由を聞くと、「会社の雰囲気が悪い」「仕事内容が入社前のイメージと違った」「上司とうまが合わない」など企業や職種とのミスマッチを挙げる人が依然多いのですが、「キャリアアップしたい」ということを理由に挙げる人も増えてきています。

 キャリアアップという言葉は抽象的で分かりにくいものです。キャリアアップという言葉のとらえ方は、「責任あるポジションに就くこと」「大規模な仕事を担当すること」「スペシャリストになること」「年収をアップさせること」「大企業で働くこと」など、人によってさまざまです。

 私は、「自らが掲げた中長期的なキャリアビジョンに近づいていくことがキャリアアップである」と考えています。ある人にとってはキャリアアップと思えることが、ある人にとってはキャリアダウンと感じることもあるかもしれません。個人の価値観の数だけキャリアップに対する考え方があると思っています。

 キャリアアップするためには、まずしっかりとしたキャリアビジョンを持つことが重要です。そしてそのキャリアビジョンを実現させるために3年後、5年後のマイルストーンをしっかりと据え、どういったキャリアを積むべきかを常に考え、自らのキャリアを定期的に見直していくことが大切です。見直した結果、軌道修正が必要ということであれば、その方法の1つとして「キャリアアップ転職」があるという姿勢が重要だと思います。

 前向きなキャリアアップ転職は非常に素晴らしいことです。ただ、実行に移す前に一度立ち止まって考え直してみてほしいのは、「どういうキャリアビジョンに基づくキャリアアップなのか」「そのための手段として転職は妥当なのか」ということです。

 もし入社1、2年目で現状に不安や不満があり、キャリアアップ転職を考えている場合は、キャリアコンサルタントへ相談してみるのもお勧めです。第三者の視点からの意見が得られると思います。

 

今回のインデックス
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筆者プロフィール
アデコ 人材紹介サービス部 関西支社 コンサルタント
辻貴由
大阪府出身。大学卒業後、メーカー系ソフトウェア会社へ入社。約7年間SEとして官公庁・電力・交通システムの開発を数多く経験。同社を退職後、アデコへ転職。現在IT業界専門のコンサルタントとして、ITエンジニアの転職支援に従事。求職者のビジョンとスキルをうまく調和させたキャリアプランの提案を心掛けている。

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