第16回 給与が上がっても失敗した転職の話
アデコ
福間啓文
2008/9/1
数年前と比較すれば、転職は身近なものになってきている。だからこそ気を付けたい「転職でキャリアアップ」の思い込みについて、「ウソ・ホント」の視点で考えてみたい。 |
何を希望して転職を考えるかは人それぞれですが、よく耳にするものとして「給与をアップさせたい」という希望があります。
確かに、誰にとっても給与が高いことはうれしいはずです。ただ、転職によって給与が上がったことと、その転職が成功だったかどうかはイコールではありません。
今回は、私が実際に会ったITエンジニアの話を基に、転職時に給与アップをかなえ、一見成功したかのような2人の失敗事例を検証しましょう。
■「ほかのプロジェクトに行ってくれないか」
川中さん(仮名)は27歳になる、中堅システムインテグレータ(SIer)の組み込みエンジニア。主にデジタル家電・携帯電話の組み込みシステム開発を担当していました。川中さんの最大のアピールポイントはコミュニケーション能力の高さで、人柄も申し分ないため、常駐先のメーカーからも信頼を得ていました。
@IT自分戦略研究所カンファレンス 上級ITプロフェッショナルのスキルとキャリア 開催 |
日時:2008年9月27日(土) 11:00〜18:00(受付開始 10:30〜) 場所:秋葉原UDX 6F RoomA+B 詳しくは開催概要をご覧ください。 |
順調にキャリアを積んでいた川中さんですが、その顧客受けの良さが裏目に出るような出来事が起きてしまいました。ある日、会社の上司から「話がある」と呼び出された川中さんは、切り出された内容に絶句してしまったそうです。
「……申し訳ないが、新しい金融のプロジェクトに行ってくれないか。実は人員が足りなくなり、適任を探したが誰もいない。こうなったら、顧客受けのいい君にお願いするしかないのだ……」
突然の話にびっくり仰天した川中さんは、どのくらいの期間行くことになるのか、組み込みの仕事に戻れるのはいつかを上司に確認しましたが、上司は「分からない。とにかくすぐ行ってくれないと困る!」との一点張りだったということです。
未経験のうえに興味がないプロジェクト(証券会社の情報系システム構築)でやっていく不安、会社の不誠実な対応への怒りが一気に爆発し、川中さんはほとんど勢いで転職活動を始めました。
■意気揚々と転職。しかし……
転職に当たって川中さんが重視していたのは「組み込みの仕事ができること」でしたが、実は「給与アップ」も強く希望していました。というのも入社以来なかなか給与が上がらず、以前からもう少し上げたいと思っていたのです。
これまでのキャリアと人柄から、転職活動は順調に進み、複数社から内定を勝ち取ることができました。
その中で、川中さんが入社を決意したのは、組み込み系開発に強みを持つ受託開発会社でした。理由は組み込み開発に専念できる環境であることと、何よりも提示された給与が一番高かったことのようでした。
川中さんは好きな組み込み開発にかかわれること、それまで不満に思っていた給与額を上げられることに喜び、意気揚々と新天地でスタートを切りました。ところが、半年もしないうちに新たな問題にぶつかってしまったのです。
会社が受託しているプロジェクトの数が、尋常ではない多さだったのです。請け負い方にも問題があったため、短納期のプロジェクトばかりでした。毎日残業、残業の連続で、休日出勤も多く、川中さんはだんだん疲弊していきました。
■「組み込みの仕事」+「給与が高い」=「ベストの会社」?
川中さんが転職を考えたのは、本人が望んでいない急な異動命令がきっかけで、やむを得ないことだったといえるでしょう。ですが、勢いに任せて転職活動をスタートしたことからも分かるように、冷静な判断ができていなかったところは問題だと思います。
川中さんは「組み込みの仕事ができる」+「給与が高い」=「自分のベストの会社」と短絡的に考えてしまったのですが、実際はそうではありませんでした。
転職前は気付かなかったのですが、川中さんにはもう1つ、重視したいポイントがあったのです。それは「残業」に関するものでした。
以前の会社は、少々の残業はあったものの、比較的オンオフをきっちりと管理できる環境でした。川中さんも休日はしっかり休み、好きなスポーツに励むことができていました。現在の会社ではそれがかなわない状況です。もし川中さんがこの価値観を認識し、面接時もしくは内定後の面談でしっかりと確認していれば、後悔することはなかったのではと思います。
「給与が一番高い」会社に飛びついた立花さん |
@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。
現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。
これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。