第1回 過去の道筋を振り返り、未来の道筋を切り開く
樋口研究室
山口紀子
2010/8/18
未来は見えない。見えないものを無理に見ようとしても、それはできない。では、どのようにして自分の未来の道筋をつくっていけばよいのか。それを解決する「ビューチェンジ」という手法を紹介する。 |
樋口研究室では、ITエンジニア向けに仕事能力の向上や改善、パフォーマンスアップを目的にコーチングを行っています。このとき、常に未来を見つめる「ビューチェンジ」を使うことが欠かせません。
エンジニアライフ コラムニスト募集中! |
あなたも@ITでコラムを書いてみないか 自分のスキル・キャリアの棚卸し、勉強会のレポート、 プロとしてのアドバイス……書くことは無限にある! コードもコラムも書けるエンジニアになりたい挑戦者からの応募、絶賛受付中 |
暗く、先行きが見えない状況では、歩むべき進路に明かりを照らしてくれる手法がとても重要です。この連載では、見えない未来(キャリア)を切り開くために有効なビューチェンジの手法を紹介していきます。
今回は、わたしたちの日々のコーチングの内容や、そこからビューチェンジという手法が生まれた経緯をご紹介します。
■ 「その仕事、今日やる必要はありますか?」
樋口研究室の事務所には毎日、たくさんの方が、ご自身の進むべき進路を見つけにやってきます。
平日の午前7時。朝一番のコーチング依頼の電話がかかってきます。わたしたちコーチの仕事はここからスタートします。
早朝のコーチングの目的は、これから始まる1日の行動チェックです。未来の行動について無駄な作業はないか、精査する作業を行います。
朝の担当コーチがチェックする内容は、とてもシンプルです。「今日のやることリスト」を電話の前で読み上げてもらうのです。コーチはそれをじっくり聞いて、どういう理由でそれを今日やる必要があるのか、尋ねます。
リストに、「今日やる必要性をはっきりと説明できないもの」が含まれていたら、本当にそれを今日やるべきか、考え直してもらいます。仕事に優先順位を付けてもらうわけです。第三者(コーチ)に指摘してもらうと、無駄な行動が見えてくるものです。
■ 「何も知らない相手に説明できますか?」
午前中は、半休を取られた方や、移動の途中で事務所に立ち寄る方が訪れます。
午前に訪れる方の目的は、午後に実行する行動の品質チェックです。未来の行動に対して精度アップの作業を行います。
担当コーチを実際の顧客に見立てて、午後の打ち合わせや商談、プレゼンで使う資料を使って説明してもらいます。
コーチは、何を説明されるかを事前に知らされていません。それがかえって良い結果を生み出します。コーチは相手の説明について、分からないことがあれば素直に尋ねます。コーチの尋ねた質問に納得できる返答ができないと、品質チェックはアウトです。事前知識のない相手にきちんと理解させて納得させられる説明ができたら、それはとても良い説明です。午後の行動もきっと成功するでしょう。
■ 「このセミナー、自分でお金を払ってでも、参加しますか?」
午後から夕方にかけては、セミナーに参加する方が訪れます。
彼らの目的は、セミナーを受講して知識を身に付けることです。未来の行動に対してスキルアップできるかどうかが重要になります。
ただし、セミナーの受講料を払っているのは、ほとんどの場合、会社です。自分でお金を払っているわけではありません。そのため、参加者の中には、スキルアップの目標を持たずに参加している方もいらっしゃいます。
そこで、担当コーチはセミナーが始まる前に、次のように尋ねます。
「このセミナーを自分のお金で受講することになったら、参加しますか?」
参加者によって答えはさまざまですが、セミナーが始まる前に問い掛けると、午後の貴重な時間やお金が誰のために使われているのか、確認してもらえます。セミナーの途中で眠ってしまう人が減る、という効果もあります。
■ 「あなたはメンバーや顧客からどう見られていますか?」
夜には、会社にいわれたわけではなく、自分のお金で事務所に来る方が増えます。
彼らの目的は、そのほとんどがご自身のリーダーシップ能力の向上です。リーダーシップは、未来に向けてスムーズに仕事をするための、大切な武器になります。
しかし、リーダーシップといっても、その定義は個人によってさまざまです。会社の目標と合致している方もいれば、そうでない方もいらっしゃいます。そのため、その内容は多岐にわたります。
しかし、担当コーチが彼らに接するときの発想は首尾一貫しています。自身のリーダーとしての行動を第三者(会社のメンバーや顧客)がどんなふうに見ているか、それをじっくり考えてもらうようにしているのです。「自分に能力やスキルがある」と、自分自身が感じているだけではダメだからです。第三者に認められて初めて意味があります。
自分では役に立つ行動や発想である、と感じていても、相手から見て違和感があれば、それは能力やスキルではなく、身勝手な行動や思いになってしまいます。担当コーチは、そういう行動がないか、重点的にチェックしています。
■ たくさんの事例から生まれた「ビューチェンジ」
1日を通して見るといろいろな場面がありますが、樋口研究室が忘れないようにしているのは、常に未来を見つめるビュー(窓)です。その窓の枠を、相手にぴったり合うようにカスタマイズする。その中を上手に通ってもらって、行動力アップの効果を出す。そうして、皆さん自身の未来をつくる作業を支援する。これがわたしたちの仕事です。
未来は、いま行動した先にあるものです。行動しても、それが成功するのか失敗するのかは分かりません。
そういうときは、できるだけたくさんの方の事例を参照して、そこからより良い方法や発想を生み出していくことが大切です。
そのため、わたしたちは常にたくさんの方とコーチングを通じて会話し、どんな経過をたどったのか記録しています。
その記録から見えてきたやり方や考え方を、別の方に適用してみます。それがうまくいかなかったら微調整してやり直します。この作業の繰り返しが、未来を固めていく作業です。
こうして出来上がったのが「ビューチェンジ」という手法です。
この連載では、わたしたちがさまざまな事例から生み出したビューチェンジを紹介していきます。今回はまず、「未来の道筋」をつくっていくために有効なビューチェンジを紹介します。
■ 未来の道筋をつくっていくためのビューチェンジ
皆さんはこれから、仕事や生活で自分の歩むべき正しい道筋をつくっていかなければなりません。その正しい道筋のことを「キャリア」といいます。
キャリアは、自分の力で考えてつくっていくものです。しかしそれは未来の道筋なので、目に見えません。
見えない道を無理に見ようと思っても見えません。でも、少なくとも自分の通ってきた道は見えるはずです。ときどき道を振り返って確認し、少しずつ道をつくっていく。未来に対する道筋は、そのようにつくっていくとよいでしょう。
これを実行するための方法が「未知(道)を固めるビューチェンジ」(図)です。
図 未知(道)を固めるビューチェンジ |
1. まずは前進
道をつくるには、「前進する」ところからスタートします。
2. 少し進んだら停止
そのままずっと突き進むのではなく、ある程度進んだら「停止する(立ち止まる)」ようにしてください。
3. 立ち止まったら振り返って経路確認
立ち止まった場所で少し後ろを振り返ってみましょう。自分が通ってきた道が見えますか?
振り返ったときに見えた道は、舗装された道かもしれないし、ひょっとしたら悪路であるかもしれません。
それが良い道だったら、そのまま先に延ばしていってください。悪い道なら、断ち切ったり進路を変更したりする必要があります。こうして定期的に道を振り返って、良い道か悪い道かを判断をしながら、仕事や生活を進めましょう。
これを継続すると、道は上手に続いていきます。上手なキャリア(未来への道筋)のつくり方、ぜひ活用してみてください。
筆者プロフィール |
山口紀子●樋口研究室の認定コーチ。ヒューマンマネジメントの分野で活躍しているコンサルタント。IT分野の知識も豊富で、エンジニアに信頼が厚い。 |
» @IT自分戦略研究所 トップページへ |
@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。
現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。
これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。