SE、ネットワークSE、プロマネ志望者は要チェック!
キャリアコンサルタント
杉山 宏
2004/2/25
@IT自分戦略研究所では、「エンジニアの職種別『キャリア点検』のポイント」という記事を掲載しました。その記事についてさまざまな反響をいただきました。今回はその続編として、「2004年版エンジニアが陥りやすいキャリアギャップ」を職種別に説明します。キャリアチェンジを考えている人、転職を視野に入れている人、あるいはいまの仕事に不満を感じている人……など、ぜひキャリアデザインの参考にしてください。 |
転職者が陥りやすい「キャリアギャップ」とは |
キャリアギャップは2種類あります。1つ目は「自分の中のギャップ」。いままで働いてきた中で培い、身に付いている「実力(自分のできること)」と「今後やってみたいこと」とのギャップです。
この「今後やってみたいこと」は、往々にして、自分のできることや年齢などを無視したものを挙げることがあります。例えば30歳前後になってから、「SEからネットワークエンジニアに転職したい」、あるいは「テクニカルサポート系だった人がコンサルタントをやってみたい」というものです。
2つ目は「採用企業側が転職希望者に求める採用要件」と「その人材の実力」とのギャップ。これはかなり深刻です。ギャップがなくならない限り、永遠にオファーは出ません。運良く両者のニーズが一致してオファーが出ても、今度はその仕事が自分のやりたいことと一致しなければ、そのオファーを受け入れることができません。企業側は、その人材がやりたいことではなく、実力(何ができるのか)を重視します。転職はこの2つのギャップを乗り越えない限り成立しないのです。
●誰もが陥りやすい「キャリアギャップ」 |
図1 企業はある人材がやりたいことではなく、「実力(何ができるのか」を重視する。特に転職の際は、この「キャリアギャップ」を克服しなければ、やりたい仕事に就くことは難しい |
キャリアアップとキャリアチェンジの違い |
転職は、企業の中途採用ニーズをトリガにして求人情報が広く世間に告知されることによって喚起されるものです。市場原理から見ると、「求人数>求職者数」であれば、求職者側が比較的容易に希望条件で転職できる状況であり、“売り手市場”と呼ばれます。
逆に、「求人数<求職者数」となると、希望条件ではなかなか転職先が見つからず、企業側が厳選して採用できる“買い手市場”と呼ばれます。現在はまさに、この買い手市場の状態であり、希望年収を下げなければ思いどおりの企業が見つからないこともあります。
第1のギャップである「自分のできること」と「自分のやりたいこと」が、あまりにかけ離れていると、まったく転職できない状況になります。一般的に転職例の中で多く見られるのが、「同じ仕事内容で何らかの条件を改善したい」というものでしょう。
この場合は、自分の実力を基準に転職活動することになるので、企業のニーズが旺盛な場合、すなわち売り手市場になれば、比較的容易にいい条件で転職できます。一方、買い手市場の場合、企業の厳しい選択のフィルタにかけられ、多数の候補者との比較にさらされるため、よほど秀でたものを持っていなければ、「自分を高く売る」ことが難しくなります。
キャリアアップという言葉がありますが、これはいままで働いていた領域でキャリアを伸ばすことです。異分野へチャレンジすることではありませんので、やりたいことをやれることの延長線上で仕事を探すことができます。
しかし、やれることとやりたいことが、まったくかけ離れた領域への挑戦となると、これはキャリアチェンジになります。転職の原則である「即戦力性」の観点で見ると、キャリアチェンジはそれに当てはまりません。例外的に、24〜27歳くらいまでの間であれば、第2新卒を含め、その方のポテンシャルを評価し、採用されることがあります。
逆にいえば、20代半ばを超えると、転職でキャリアチェンジすることはほとんど不可能です。キャリアチェンジしたいならば、「自分の実績をアピールしてほかの仕事にアサインしてもらう」、あるいは「社内公募制度が存在する会社で働き、それに応募する」ということになります。
31歳までに上流工程を経験しよう! |
では、キャリアアップを実現するために、気を付けるべきキャリアギャップについて、職種別に見ていきましょう。なお、全職種に共通するヒューマンスキル、すなわち、コミュニケーションスキル、プレゼンテーションスキル、マネジメントスキル、ネゴシエーションスキルについては、本稿の最後の部分で紹介します。
☆キャリアギャップ:SEの場合
SIerでSEのグレードを表す際、ジュニアSE、ミドルSE、シニアSEなどと分類することがあります。これは、年齢、経験年数とも密接に絡む分け方です。SEに求められるスキルは、他職種に比べてかなり広く深いものがあります。例えばハード、ソフト、言語をはじめとしたテクニカルスキル、設計スキル、適用業務、折衝、マネジメントなどのスキルが必要です。
中でもギャップに陥りやすいスキルが、設計スキルです。SEのキャリアの中でターニングポイントとなる、28〜31歳くらいの時期に、要件定義、基本設計といった上流工程の経験(シニアSEレベル)がなければ、希望どおりの転職は難しくなります。その次に陥りやすいギャップは、適用業務のスキルです。例えば、会計・金融・流通・製造などのアプリケーション分野などの業務スキル。この場合、広く浅くでは通用しません。狭く深いスキルが要求されます。
よく見掛けるケースでは、業務系から制御系までさまざまな業務のシステム開発を1〜6カ月の間担当してきたので、深いスキルが身に付いていない人。一見幅広い経験を積んでいるようですが、広く浅い範囲にとどまっていることが多く、専門分野を確立してきたとは評価してもらえません。
SEが転職を視野に入れた方がいいと思える「シグナル」は、以下のポイントです。
☆SEの「転職シグナル」 |
●いつまでたっても上流工程の仕事ができないと判断されたとき ●自分の専門分野を確立したいのに、次々に別の分野の仕事をアサインされてしまうとき |
「大規模システム」のマネジメント経験があるか |
☆キャリアギャップ:プロジェクトマネージャ(PM)の場合
IT企業の求人案件の中で、最もニーズの高い職種にプロジェクトマネージャ(PM)があります。PMに求められる要件の1つに、「大規模システム開発のPM経験」があります。Web系システムは短期間で立ち上げることが多いため、かつて汎用機全盛の時代のような何万人月とか、何十万人月とかの巨大プロジェクトはありません。
一般的に見て、50〜100人月のシステム規模や、1億円規模のプロジェクトをこなしてきていれば、大規模案件を経験してきたといえるのではないでしょうか。
次は責任範囲です。例えば、単なる進ちょく管理だけで、コスト、売り上げ、利益面はまったく見ていない、あるいは人事権もまったくない……。これでは要件不足といわれても仕方ありません。
それとネゴシエーション面で、顧客のキーマンとの折衝をきっちりこなしてきているか、ベンダのコントロールはできているか、トラブルシューティングはできているか……など求められる要件はたくさんあります。時々何年もの間、社内のMIS部門でマネジメントのキャリアを積まれてきたものの、PMとして要件不足という方に出会います。
詳しくヒアリングすると、部門間、ベンダ、外注間のコーディネーションをやってきたといいますが、残念ながらその業務内容ではPMの任務を担っていたとは評価されません。
PMが転職を視野に入れた方がいいと思える「シグナル」は、以下のポイントです。
☆プロジェクトマネージャの「転職シグナル」 |
●「単なる進ちょく管理」「仕様決めだけ」など、プロジェクト全体をコントロールする権限がない ●小規模プロジェクト、または、サブシステムごとの(PMではない)プロジェクトリーダーから脱却できない ●会社がプライムコントラクタではない。 ●顧客のキーマン(部長以上のポジション)との折衝が持てない |
20代ならばポテンシャル採用も |
☆キャリアギャップ:ネットワークエンジニアの場合
いまやネットワークエンジニアは人気職種です。この職種を目指す人は2タイプに分かれることが多いといえます。1つはネットワーク系企業で設計・構築をするネットワークエンジニア。ネットワークベンダ、キャリア、XSP、ネットワークインテグレータなど、比較的保守的な環境で、ネットワークのキャリアを積んできたタイプです。
もう1つのタイプは、コンピュータ業界でキャリアをスタートし、SEとして開発経験がある、または、テクニカルサポート・エンジニアとして、社内や顧客のヘルプデスクをしていたが、あるときLANの構築を体験し、そこからネットワークの仕事に興味を持ち、キャリアパスを変えてきたケース。こちらは、ネットワーク、およびサーバを含むシステム全体の運用管理・監視を行うタイプです。
どちらかといえば、前者は次々に新規のネットワークの設計・構築の仕事をこなしていくことを好み、構築後の運用管理まで担当したいという志向を持たないタイプが多いようです。後者は必ずしもネットワークの設計・構築を職務範囲としない場合があります。
いままで両者のすみ分けは明確でしたが、セキュリティマネジメント、TCO削減の観点から、トータルでソリューションの提案、問題解決ができなければ通用しなくなってきています。ネットワークの仕事にどちらのキャリアから入っても、広い守備範囲の知識、経験が求められることに変わりはありません。
ネットワークエンジニアのキャリアギャップは、システム開発、PMと同様に「大規模ネットワーク構築の経験」があるかどうかです。この大規模というところに、必要とされるすべての要素があります。すなわち、ネットワークの複雑さ(LAN、WAN、インターネット)機器間の親和性、パフォーマンスの問題、ボトルネック、レスポンス、セキュリティ、運用管理上の問題などをどう解決してきたのかということです。
ネットワークシステムが巨大、かつ複雑であればあるほど、これらの問題は複雑に絡みあい、一筋縄ではいきません。トラブルシューティングをはじめ、問題・課題解決には、深い知識・経験・ノウハウが必要になるからです。
上述のように、24〜27歳であればポテンシャル採用もあり得るといいましたが、まさに運用・監視系のネットワークエンジニアはそれに相当します。CCNAなどのベンダ資格を持ち、自宅でLinux/UNIXサーバを構築するなどの経験を持つ方は、十分に選考の対象になります。
未経験者だが、転職でネットワークエンジニアを目指す場合は、運用・監視系から設計・構築系へのキャリアパスになるでしょう。
☆ネットワークエンジニアが陥りやすい「キャリアギャップ」 |
●大規模ネットワークの経験があるか〜ネットワークの複雑さ(LAN、WAN、インターネット)機器間の親和性、パフォーマンスの問題、ボトルネック、レスポンス、セキュリティ、運用管理上の問題などをどう解決してきたのかを、企業は求める |
社内SEには「キャリアギャップリスク」がある |
☆キャリアギャップ:社内SEの場合
SE、PMを長年経験した方が、社内SEへ転職するというケースがあります。例えば社内MISで1つのシステムの保守・運用管理などの業務にじっくり取り組みたいという理由からです。そうした希望を持つ方には、「今後社内SEとしてキャリアを重ねた場合、以下のようなリスクがありますが、覚悟はできていますか?」と説明します。そして、同意を求めたうえで、案件を紹介します。そのリスクとは、以下のとおりです。
☆社内SEが陥りやすい「キャリアギャップ」 |
●入社してしばらくの間はいいかもしれないが、今後アウトソーシングのトレンドによって、部署ごとアウトソースされる可能性がある ●社内SEの仕事は、極めて多岐にわたっており、開発の上流工程だけをやっていればいいというものではない。あるときはネットワークエンジニア、またあるときは社内のヘルプデスク、インストラクタなどの仕事を任されることがある。臨機応変に動く必要が出てくるが、それに対応できるか ●システム再構築の仕事は非常に面白いが、カットオーバー後の、運用・保守フェイズは、比較的単調な仕事が長期間延々と続くが、それに耐えられるか ●外部からは見えにくい会社のカルチャーなどは入社してみなければ絶対に分からない。それに耐えられなかったらどうするか。現在あなたを取り囲む環境の常識が、そこでは非常識かもしれない。もちろん、その逆のケースもあり得る ●情報化投資に積極的な企業であればいいが、そうでない場合、時代遅れの技術に執着するので、新しい技術情報、環境などに触れられない可能性がある ●会社の全業務にかかわり、業務知識、ノウハウが身に付くという強い期待を持って入社しても、最近はエンドユーザー部門のリテラシーが上がっているので、現状分析、要件定義、取りまとめなどは、現場の代表者が行い、社内のMISはベンダを集めてレビューを行うが、コーディネーションだけで、中身には入っていけないケースが多い(いわゆる中抜き)。このような環境ではシステムが大規模であっても、PMのキャリアは身に付かないという致命的な欠点がある ●社内MISのキャリアを長く続けた後、「もう一度SIerやソフトハウスなどでPM、システムコンサルタントとの仕事に戻りたい」と思っても、SIerやソフトハウス側は、長期にわたる社内SEのキャリアを評価しない傾向があります。すなわち、社内MISの環境は、納期、コスト、品質意識において、ぬるま湯の環境にあり、SIerやソフトハウスに転職した場合、その環境でのルールを順守できる精神力を持っているのかという疑問を抱かれやすい |
特に重要なのが、業務のプロ、PMのプロを目指して、社内MISへ転職したのにそうなれないケースが出てくるというギャップです。自分の評価と他人の評価との違いが歴然と存在しています。
ネガティブな話が続いたのでポジティブな話をしましょう。社内MISへの転職を望む方は、マネジメント志向が強く、将来、MISのマネージャ、CIOを目指せる環境(経営戦略上、情報化投資が重要と考えている経営者がいる企業)であることが重要です。コンサルティングファーム系のコンサルタントがCIOを目指すケースがよくありますが、その場合も彼らには会社経営、現場業務の現実を知らないことが多く、こちらも険しい道といえます。
30歳を過ぎれば「ヒューマンスキル」は必須! |
☆キャリアギャップ:全職種共通のヒューマンスキル
最後に、全職種に共通のヒューマンスキルについて説明します。コミュニケーションスキル、プレゼンテーションスキル、ネゴシエーションスキル、マネジメントスキルなど、近年これらのスキルが重視されるのは、ビジネスのスピードが速く、かつ競争が激化するようになり、伝統的なピラミッド型の意思決定をしていたのでは、ビジネスに対応できなくなったからです。
そして、自律性、自己完結性を高め、硬直化した組織の活性化を図り、あるいは人事戦略、ベンチャー精神を高めるなどの要求があるのではないでしょうか。あとは顧客満足度の向上など顧客志向の強さ、利益確保のためのマネジメント強化などが背景として考えられます。
ヒューマンスキルは確かにパーソナリティと密接な関係にはあるが、イコールではないと思います。日々、転職希望者との面談で感じるのは、上述した4つのスキルの基盤にあるものは、レスポンスビリティ(反応の良しあし)ではないかということです。相手の言葉に対するレスポンスビリティを上げることが、非常に重要なファクタになります。
明るくて、やたら人当たりはいいし、よく話すけど、発言内容が的確でなければ、相手の関心をひきつけることはできません。ここが、性格とヒューマンスキルとの決定的な違いです。一見無愛想で口数は少ないけど、発言内容は非常に的確で、示唆に富んでいるPMやコンサルタントは世の中にいくらでもいます。むしろ口数が少ない方が、発言したときの説得力は増すものです。
ヒューマンスキルの研究、教育はまだまだこれからです。ただ、人材サービス業界で働く経験からいえば、「ヒューマンスキル=性格」ではありません。性格が暗い方、無愛想な印象を与えてしまう方でも、鍛えて高めることはできるに違いない、と確信しています。
ヒューマンスキルでギャップを感じている方は、ヒューマンスキル=性格ではない、という認識に立ち、その向上に日々精進していただきたいと思います。30歳を過ぎますと、ヒューマンスキルは職種に関係なく、強く求められるスキルの1つです。日ごろから意識して磨いていくことを強くお勧めします。1社だけで定年を迎える、という時代はもう終わりました。これからは、「いかに、よりよいキャリアアップを継続して行うことができるか」。これにかかっています。それが実現できる人は、幸せな人生を送ることができるのではないでしょうか。
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