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もうITエンジニアは嫌だって?

下玉利尚明
2006/7/19

いま、IT業界から足を洗いたがっているITエンジニアが多いと聞いた。その話は噂でしかないのか、それとも本当か。その真偽とともに最新の転職事情を追う。

 本当は大手システムインテグレータ(SIer)で、プロジェクトマネージャを目指したかった……。が実際に就職できたのは3次請けのSIer。自分の願いとかけ離れた職場で、日々コーディング作業に追われている。そんなITエンジニアは意外と多いかもしれない。

 とりわけIT業界に就職するタイミングが、いわゆる「ITバブル崩壊後」だった人は、「就職氷河期」とまではいかないが、少なくとも「自分の希望どおりにSIerやソフトハウスを選べる」状況ではなかったはず。だからこそ、いまもって「満足も納得もしないけど」「日々、押し寄せる仕事の山」に疲れ切ってしまった人たちも多くなる。

 それではいったいどうすればいいのか。選択肢はいくつかある。1つは「ITエンジニアとして自分の本当にやりたい仕事に『リベンジ転職』する」、もしくは「IT業界から足を洗う」である。

 要するに「やるか、辞めるか」。最近では「激務」に耐えかねて他業種への転職を目指すITエンジニアも多いという。「隣の芝生が青く」見えるのか。どんな選択肢にも、未来を切り開くチャンスもあるが、リスクもある。果たして、「隣の芝生は本当に青い」のだろうか。詳しく見てみよう。

IT業界はいま、空前の「人材不足」
リベンジ転職の絶好のタイミングか

テクノブレーン 代表取締役社長 能勢賢太郎氏

 ITエンジニアの転職市場の動向は現在、「人材不足」の状況にある。ITエンジニアのキャリアアップ転職やスキルチェンジ転職を支援するテクノブレーンの代表取締役社長 能勢賢太郎氏によれば、「景気拡大の余波からシステム開発や、ソフトウェア開発会社にとっては、『人材さえいれば』仕事はいくらでも取れるといった状況です。つまり『現場エンジニアの人手が足りていない』。私どもにも、『とにかく優秀な人材を探してくれ』との要望がひっきりなしにきております」という。

 空前の「人手不足」。そうなると「腕に自慢」のITエンジニアは「引っ張りだこ」となるはずだ。当然、転職のチャンスとなる。特に新卒時に思いどおりの就職ができなかった20代後半のITエンジニアにとっては、「希望するIT関連企業」への、いわゆる「リベンジ転職」を実現できる絶好のタイミングといえるかもしれない。

 そのことを裏付けるかのように、ITエンジニアの求人求職情報サービスをインターネット上で手掛けるエン・ジャパンの中途採用カンパニー・マーケティンググループ・ディレクターの臼田大輔氏も次のように語る。

 「求人動向も大手IT関連企業やSIerを中心に活況です。しかし、そのビジネスの拡大に『企業が採用したいと思う優秀なエンジニアの数が追いついていない』のです」。その背景には何があるのだろうか。臼田氏は「以前よりも新卒でITエンジニアを目指す人が減少した結果、転職市場にいる優秀なエンジニアも以前よりも少なくなったため」と指摘する。

エン・ジャパン 中途採用カンパニー・マーケティンググループ・ディレクター 臼田大輔氏

 「多くのIT関連企業が人材の確保に苦心しています。例えば技術力が高くIT業界ではよく知られたSIerであっても、一般的な知名度はそれほどない独立系SIerだと、とにかく人材が集まらない。とりわけ新卒でそういったSIerで働きたいという人が少なくなってしまっているようです。ある独立系SIerなどは、『採用予定の半分程度』しか人材を確保できなかったという話も聞きます」(臼田氏)という。

 ちょっと前であれば、多くの若手ITエンジニアが「あそこで働きたい」「あそこで自分のキャリアを積み上げていきたい」と「あこがれた」ようなSIerやソフトウェア開発会社であっても、現在は「人が集まりにくい」状況になっているのだ。

 しかし、ここでITエンジニアが「勘違い」してはいけないのは、いくら人材不足だからといって、「採用のハードルが下がっているわけではない」ということ。

 「いくら人手が足りないとはいっていても、採用基準は下がっていません。新卒でIT業界に就職したい人が以前よりも少なくなっている。それにもかかわらず採用基準は下がっていない。現在の状況を分かりやすくいうと『優秀な若手ITエンジニアが足りなくなっている』のです」(臼田氏)という。能勢氏も、「採用基準を下げて人材を確保しても、それがプロジェクトの問題の要因となったり、人材育成に手間がかかったりと企業側にメリットはない。そのことをSIerも認識している」と語る。つまり「優秀な人材であれば」、いまが転職のチャンスといえるのだ。

2次請けや3次請けのSIerから
プライマリへの転職も実現しやすい

 このように「優秀なITエンジニアの不足状態」にある。その一方でITエンジニアには、どのようなキャリアアップやキャリアチェンジの可能性があるのだろうか。

 ITエンジニアがキャリアアップやキャリアチェンジを実現するには、「転職」は手っ取り早い手段である。

 その転職には、いくつかのパターンがある。1つは「あこがれのSIer」など、「以前の自分であれば門前払いをくらっただろう」という企業に対して再度、チャレンジしてみるという、「IT業界からIT業界」内でのいわゆる「リベンジ転職」だ。これはITエンジニアとしてのキャリアアップをも可能としてくれるものだ。もう1つのパターンとしては、IT業界からほかの業種への転職である。

 まずは、IT業界内のリベンジ転職の可能性について考えてみよう。前述のとおり、現在、IT業界は空前の人材不足である。そのこともあって「優秀な人材」であれば、自分が希望する企業への転職、その転職によってプロジェクトリーダーやプロジェクトマネージャといったポジションを手に入れられる可能性は高いようだ。

 臼田氏は「プライマリのSIerであっても、新卒採用が難しくなっています。それだけに2次請けや3次請けのSIerから、いわゆる『上流工程の経験のない』ITエンジニア、いい換えればプログラミング、コーディングの経験なら任せてという『基礎スキル』を持ったITエンジニアを採用する動きが顕著に出てきています。20代後半であれば自社内で十分に育てていけるからですね」と語る。

 以前であれば2次請けや3次請けからプライマリへの転職は困難といわれていた。基礎スキルがあるのは当然、求められるのは「プロジェクトリーダーなど上流工程の経験」といわれても、2次請けや3次請けなどではその経験を積む機会さえ与えられない、それが現実だったのだ。ところがいまは、少し事情が変わってきたようだ。

 それでは「優秀な人材」とは、いったいどのようなITエンジニアのことを指すのだろうか。能勢氏は、「採用する企業側の担当者からしつこく求められているスキルは『コミュニケーション能力』です」といい切る。

 多くのITエンジニアは、システム開発を役割分担が明確化された「個人プレーの場」と考えがちである。しかしシステム開発は個人が開発に注いだ力の集合体である。たった1人でシステムを作るわけではない。「開発チーム内でメンバーとしっかりとコミュニケーションが取れるか。そのことが開発の生産性に大きく影響してくるのです。多少、技術は低くても、しっかりとコミュニケーションを取れる人材が欲しいという声をよく耳にします。そのことをしっかりと肝に銘じておいてほしい」(能勢氏)という。

 また、能勢氏は2次請け、3次請けのプログラマが、プライマリのSIerに転職できるかどうかのポイントを次のように指摘する。「採用する企業側が評価するのは、自発的に動ける人材かを見ています。プライマリのSIerで活躍するとなれば、当然、クライアント企業との折衝をはじめ、さまざまな提案もしていかなければならない。自分の頭で考え、その考えをまとめて、お客さまに伝え、説得するといった作業が求められるのです。自分で考えて動ける人材かどうかは重要です」

 例えば、「与えられた仕事は一生懸命、頑張ります」といった姿勢は「やる気」のアピールにも取れるが、半面、「指示されたことしかやらないのか」といったことにもつながる。とりわけ2次請け、3次請けのSIerでキャリアを積んだITエンジニアは「実力はあっても」、仕事の進め方が「常に受け身」と見られがちである。「プライマリのSIerへと転職するなら、2次請け、3次請けの『体質』が染み込んでしまわないうちに考えた方がいいですね」(能勢氏)

 自発的な意思をしっかりとアピールできれば、キャリアアップを目指す「リベンジ転職」も可能なようだ。「人材不足が深刻化しつつあるいまなら、自分で『こんなところで働けるの?』と驚くような転職が可能です。IT業界におけるリベンジ転職は、いまが最大のチャンス」(能勢氏)といえそうだ。

ほかの業種への転職を成功させるには
専門的な「業務知識」までを身に付けること

 一方、IT業界から他業種への転職については、厳しい状況にあるようだ。「まったく異業種」で、これまでのITエンジニアとしてのキャリアとは「まったく無関係」の仕事に転職したいというなら、それはある意味、「本人の意志の強さ」にかかわってくるだろう。能勢氏によれば「とにかくIT業界だけは、もう絶対に嫌。違う職業に就きたいという人が最近、増えてきた」という。しかし、当然のことながらその転職にはリスクが伴う。

 「将来を考えたときに、まったく一から自分のキャリアを再構築し直さなければならない。どんな業界・業種でも楽なところはないでしょう。再び最初から苦労することを考えたら、いま、人材不足から幅広いキャリア構築のチャンスがあるIT業界でキャリアを構築していく方が、賢い選択だと考えます」(能勢氏)という。

 また、臼田氏は「ITエンジニアが他業種へと転職するのであれば、やはり、社内SEなどこれまでのキャリアや技術を生かせる仕事を選ぶことをお勧めしたいと思います」と語る。しかし、社内SEへの転職を希望するITエンジニアは多く、ただでさえ少ない社内SEの募集に対して「10倍から20倍の競争率は当たり前」(臼田氏)ということも忘れてはならない。能勢氏も「社内SEの求人は、実はそれほど多くはないです。多くの企業は社内SEを減らす方向にある。この先も増えていくとは考えていません」と厳しい状況を指摘する。

 つまり、IT業界におけるキャリアアップ転職は可能であるが、IT業界から他業界への転職は厳しいということだ。IT業界が人材不足とされるこのタイミングで現実的な転職を考えるのであれば、やはり、IT業界でのキャリアアップを実現してくれるような転職を考えるべきではないだろうか。

 そのためには、いま一度、IT業界でキャリアアップを図るために、自分自身が置かれているポジションを見つめ直してみることが大切だ。

 能勢氏はこう語る。「転職志望のITエンジニアとの面接では、いつも『自分の仕事が見えなくなっていませんか』『自分の仕事の意義、意味合いとは何ですか』といいます。まずはそこから見つめ直しましょう」

 そのうえで「仕事に追い込まれてしまう現在の環境を変えるには、仕事の『立場』を変えることが大切です。そのためには違うポジションを与えてくれる職場に転職する選択肢がベストではないでしょうか」(能勢氏)とも語る。

 臼田氏や能勢氏のコメントを総合すると、やはり、IT業界から他業種への転職は必ずしもよい選択とはいい切れないようだ。

 それでも、ほかの業種への転職を成功させる数少ない望みにかけるのであれば、「現在手掛けている業務や業界の知識を磨いてください」(臼田氏)という。業務知識があり、そのうえIT知識もあるとなれば、ほかの業界でも価値ある人材として認められる可能性が高いようだ。



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