フリーエンジニアとして長生きする方法
千葉大輔(@IT自分戦略研究所)
2007/6/29
自分の将来を考えるとき、さまざまな選択肢がある。そこには、「マネジメントの道に進みたい」や「技術を極めてスペシャリストになりたい」といった軸での選択があるだろうし、もう1つ「企業に属したまま経験を積む」、あるいは「独立をする」といった「雇用形態」という軸での選択もありうるだろう。
2007年5月に@IT自分戦略研究所とJOB@ITが行った読者調査によると、「今後の希望形態」として13.9%の人が「フリーランス/個人事業主」を挙げている。これは2005年の調査の13.1%比べて、わずかではあるが上昇している。
フリーエンジニアにとしてのメリットには、「自分の時間を有効に使える」「仕事とプライベートをコントロールできる」というものがある。その一方で「保障の少なさ」などのデメリットもある。
首都圏コンピュータ技術者協同組合 事業統括本部 企画広報課 鷹羽和利氏にフリーエンジニアの現状と、フリーエンジニアとして活動するために必要な資質を聞いた。
■経験を積んだ先の不安から
首都圏コンピュータ技術者協同組合 事業統括本部 企画広報課 鷹羽和利氏 |
年々高まる個人事業主への志向だが、鷹羽氏によると「ここ3〜4年の間に、それ以前と比べて急激に組合の登録者数が伸びてきている。ただ、ここ最近その伸びが落ち着いてきた」という。それは、IT業界の景気が回復しつつある中、ITエンジニア不足がいわれるようになった。そのため、必要な人材を確保するため、給与などの待遇面の改善を図る企業も増えてきたためだ。
しかし、鷹羽氏は「最近は正社員といってもそれほど保障されていない」という。「正社員は基本的には配属先やプロジェクトの内容など、会社に従って仕事をしなければいけません。技術が多様化する中、なかなか自分のビジョンに即した技術を追えません。そういった中で5年〜10年キャリアを積んでも、なかなかスキルを深いところまで身に付けられないのが現状です」と鷹羽氏は話す。
ビジネスの変化に併せて顧客の要望も多様化する。そこで必要になる技術もまたさまざまだ。以前は必要とされる技術が限られていたため、業務を通じて自分自身のスキルアップが実感できたが、最近はもしかすると、そういった実感がわかなくなってきているのかもしれない。また、現在の会社の制度では、ある程度経験や年齢を重ねると、管理職にならなけれないけない場合がよくある。しかし、ITエンジニアの中には「技術を極めたい」と志向する人もいるだろう。
「30代までは自分の技術を生かしてプロジェクトの一線で活躍できるが、40代を迎えたとき、『これから先どうしようか』という悩みにぶつかります。ITエンジニアの場合、そうなる前に独立をし、自分のやりたい仕事を選択する方がいいのかもしれません」(鷹羽氏)
■独立を選ぶきっかけは不安とお金
フリーエンジニアという道を選ぶ理由は人それぞれだが、鷹羽氏によると「一番大きな動機は『将来の不安』と『お金』ではないでしょうか」と話す。前述したとおり、「いまの会社員としてのスキルで、この先やっていけるのだろうか」という不安や、「いまの自分のスキルや仕事に見合った給料をもらっているのだろうか」という疑問から、独立を考え始めるのだという。
首都圏コンピュータ技術者協同組合に応募するITエンジニアの中には、40〜50代の「プログラミングが好き」という層が増えてきているという。「30代のITエンジニアの場合、『プログラミングが好き』という人は少なく、『上流の仕事をやりたい』と考えている人が多くいます。日本ではプログラマがITエンジニアとしてのキャリアのスタートだと思われていますが、実際は年を重ねても、プログラミングが好きだという人が多くいるのだと思います」と鷹羽氏。
現在、首都圏コンピュータ技術者協同組合に登録しているのは、開発系のITエンジニアが中心。これはいまのところ案件が開発系に多いためだ。鷹羽氏は「最近はネットワークを中心としたインフラ系の案件も増えてきている」と話す。一方で、プロジェクトマネージャといったマネジメント職は数が少ないという。「プロジェクトマネージャとなると、予算の管理や人の管理など個人事業主としては判断が難しい場合が多い」ためだという。
■成功するポイントはヒューマンスキル
さて、独立を考え始めるといくつもの障害が浮かんでくる。「今後の希望形態」として希望者が増えるフリーエンジニアだが、実際にフリーエンジニアとして仕事をしている人はまだまだ少ない。希望はしているが、踏み出せない。何が原因なのだろうか。
「定期的に仕事があるのだろうか」「高齢になっても仕事があるのだろうか」。フリーエンジニアを希望している人からは、この2つの不安が多く寄せられるという。フリーエンジニアとして長く活躍できる人材として、鷹羽氏は「第1にコミュニケーション能力などのヒューマンスキルが必要ですね。IT業界の場合、プロジェクトを組んで仕事をすることが多くあります。ただ、ITエンジニアの中にはコミュニケーションが苦手という人が多く、それだけにヒューマンスキルのある方の評価は高く、その評価が次の仕事を呼び込みます」と話す。
個人事業主の報酬はスキルとキャリア次第で決まるという。40代の半ばまではある程度のスキルとキャリアがあれば、それに即した報酬が得られる案件に携わることができる。しかし、それ以降はもっとよい案件に携われる人とそうでない人がでるのだという。
「そこで重要なのがやはりヒューマンスキルです。ヒューマンスキルの高い人は、多くの人脈をつくり、リーダーなどプロジェクトの中心として活躍し、報酬も案件の質も上がっていきます」(鷹羽氏)
そういったヒューマンスキルを身に付けるにはどうしたらいいのだろうか。鷹羽氏は「ヒューマンスキルがない人はいない」と話す。「技術は時間を掛けないと身に付けられませんが、ヒューマンスキルは意識することで発揮できます。『人付き合いは苦手だけど……』と思っている人でも、人とかかわろうと意識することで誰でもヒューマンスキルを身に付けられると思います」
またヒューマンスキルと併せて常に業界の動向をウォッチできていること、次に自分がどういう役割を果たせばいいのかが見えてくる。先々のことを考えてキャリアプランを立て、それに向けてこつこつと努力をしていることも重要になるという。
■メリットとデメリットをよく考えてチャレンジ
正社員として働くこと、フリーとして働くことそれぞれにメリットとデメリットがある。かつては、会社から離れて個人で仕事を請け負うということは、自分のキャリアプランの選択肢としては考えられない状況だったろう。しかし、自分のやりたいことや目指すべきことの実現を考えたとき、その手段としてフリーという選択肢も十分に視野に入るだろう。
フリーのメリットとデメリットが見えていれば、思い切ってチャレンジしてみるのもいいだろう。しかし、それを長く続けていくためには、ヒューマンスキルと個人事業主としての高い意識が必要のようだ。
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