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派遣でキャリアアップできるは都市伝説か?

派遣でキャリアアップできないは都市伝説か?

岩崎史絵
2008/4/7

「自分のやりたい仕事が選べる」と人気の派遣エンジニア。その一方で、「企業は派遣の仕事を実績として見なすのか」「派遣でキャリアが積めるのか」という疑問をよく聞く。ITエンジニアとして、派遣でキャリアが積めるのか。そもそも、派遣でどのようにキャリア形成を目指せばいいのか。パソナテックに聞いた。

■ここ10年で派遣エンジニアの地位は劇的に向上

 キャリアを形成するには、大まかに分けて2つの方法がある。1つは、企業の中で与えられた仕事をこなし、技術知識やマネジメント力をバランス良く身に付け、管理職へと上がっていくマネジメント型。もう1つは、興味ある技術や業務、職種を究めるプロフェッショナル型。どちらも、それぞれの良さがあり、一概に「こういうキャリア形成がベストだ」とは決められない。

 だが、キャリア形成の困難さでいえば、プロフェッショナル志向の方が難しいだろう。企業に属している場合、自分の興味だけで仕事を選ぶわけにはいかないからだ。

 こうした「自分の望む仕事をしたい」と考えるITエンジニアにとって、派遣という働き方には大きなメリットがある。それは「自分でやりたい仕事が選べる」ということだ。だが、その一方で「身分が保障されないのでは」「派遣でこなした仕事を、キャリアとして認められるかどうか」といった不安感がぬぐえないのも事実だろう。

 人材派遣業大手のパソナテック 取締役 加藤直樹氏はこの問いに対し、「ひと昔前は、派遣というとクレジットカードも作れない、ローンも組めないなど、実績の保証がないと思われていました。しかしここ10年近くの間に、状況はまったく変わってきています」と語る。「第一に、業界全体が派遣という形態を認めており、派遣エンジニアに対する違和感がまったくなくなっていること。第二に、能力重視傾向が強まってきたこと。第三にITがコモディティ化し、開発案件の種類も数も増えたことが、ITエンジニアの派遣を後押ししています。また、IT業界そのものが、ユーザー企業に技術者を常駐させる形を取るところが多く、派遣に対して抵抗感がないという理由もあるでしょう。最近はユーザー企業も、派遣時にどのような仕事を請け負っていたかを正当に評価しますし、また給与などについても、正社員とほとんど変わりはありません」(加藤氏)

■派遣エンジニアだから可能な3つの方向

 ITエンジニアが派遣形態を選ぶ動機を詳しく見ていこう。

パソナテック 取締役 加藤直樹氏

 加藤氏は、大まかにいって3つの傾向があるという。1つは「この技術や業務をやりたい」という内容重視型。もう1つは、「将来独立したい」というもので、「ただし個人の営業力には限界があるので、まずは人材派遣会社を通して実績を積みたい」と考える独立志向型。そして最後に、「仕事時間とプライベートの時間をバランス良くし、心地よく仕事がしたい」というワーク・ライフバランス型だ。このうち、最も多いのが内容重視型で、冒頭に挙げた「自分の興味ある技術や業務、職種を究めたい」という思いが高いほど、派遣という形態を選ぶ人も多いようだ。

 派遣ITエンジニアのコア世代は30代前半。ということは、IT業界の平均とたいして差はない。中には50代のITエンジニアもいるという。「よく『限界年齢はあるのか』と聞かれるのですが、それは一概にはいえません。年齢層に応じて、求められる役割が上がってくるので、ある程度の年齢になったら、『マネジメント力』もしくは『先端技術』など、セールスポイントを持ち合わせていることが条件になります。もしもそういうポイントがなければ、やはり限界はあるでしょう」と加藤氏は語る。

■資格取得支援や気になる給与の水準は

 ただ、前述したとおり、派遣を選ぶITエンジニアの多くはプロフェッショナル志向なので、「セールスポイントがない」ような派遣エンジニアは実際は少ない。いい換えれば、スキルがある限りずっと現役でいられるということだ。

 キャリア形成に必要な資格取得支援は、人材派遣会社各社が積極的に行っている。例えばパソナテックの場合、資格取得費用の負担やトレーニングコースの割引、eラーニングといった形で支援を行うことで、派遣エンジニアのキャリア形成をサポートしている。この点でも、正社員と派遣での違いはさほどないのではないだろうか。また、人材派遣会社を通じて仕事をすれば、大手システムインテグレータ企業や、ユーザー企業と直に仕事をするチャンスも多い。そのため「元請けで上流の仕事をしたい」というITエンジニアが、派遣ITエンジニアに転職するケースも非常に多いそうだ。

 気になる給与の額も、正社員と比べて遜色(そんしょく)はない。派遣ITエンジニアでいた方が、時間の融通も利きやすいというケースもある。ワーク・ライフバランス重視のITエンジニアにとっては、理想の雇用形態といえるだろう。ちなみに職種も開発系からコンサルタントまで幅広く、どんな分野でも、派遣形態で働くことが可能のようだ。

 一般的に、人材派遣市場は「1990年代初頭の“失われた10年”の間にリストラされた社員の穴を埋めるために伸びてきた」とよくいわれるようだ。だがITエンジニアから見ると、派遣形態には「やりたい仕事ができる」「将来の独立に向け、じっくり準備ができる」「仕事とプライベートのバランスが取りやすい」といった明確なメリットがあり、決して“正社員の代理”で終わっているわけではない。景気が上向きにある中でも派遣市場がずっと上昇し続けているのは、こうした理由があるからだ。

■派遣ならではのデメリットはあるか

 一方、派遣であることのデメリットはあるのだろうか。

 加藤氏は「いろいろな企業で働くので、周囲とうまくコミュニケーションを取る必要があるでしょうね」と述べ、「それ以外に、派遣ならではのデメリットはないでしょう」といい切る。

 ただ、強いていえば「各人が考えるキャリア像のロールモデルがいない」という点が挙げられるかもしれない。日本のIT業界全体で、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズのような業界を代表する人物が不足しているが、「こういう仕事をしたい」「こうなりたい」という動機付けに結び付くようなロールモデルは、なかなか登場していない状況だ。

 加藤氏によると、内容重視型、独立志向型、ワーク・ライフバランス型にこだわらず、派遣ITエンジニアで着実にキャリアを積み重ね、ユニークな仕事をしている人は大勢いるそうだ。こうしたITエンジニアを数多く輩出し、ロールモデルとして紹介していくべく、パソナテックでは「各人のニーズや技術力にかかわらず、多様なITエンジニアを募集しています」(加藤氏)という。

 人材派遣大手の同社がこう語るのは、そもそもキャリアというものは、各人の考え方などによって異なるもので、正解があるわけではないからだ。ただし、「派遣エンジニアの地位が上がり、コンサルタントや弁護士のように『自分のスキルや知識で仕事をする』ことが、もっと広く認知されるようになればいい」という業界全体の希望はあるようだ。そのためにも、見本となるべきロールモデルの確立が必要なので、「『自分がそうなってみたい』というITエンジニアは、ぜひ派遣形態にチャレンジしてほしい」と加藤氏は語る。

■いま、派遣エンジニアに求められるスキルとは

 そんな派遣ITエンジニアの世界だが、いま求められているスキルとは何だろうか。

 大きく分けると、「設計」もしくは「マネジメント」スキルの2つ、つまり上流系スキルのニーズが相変わらず高い。特に最近は、日本版SOX法にからんだ内部統制対応により、ユーザー企業でも積極的に、ITに明るい人材を募集しているという。より上流の仕事を志向するITエンジニアにとっては、いまが絶好のチャンスといえる。これらは、派遣だけではなく、正社員でもよく求められるスキルだ。

 「この混とんとした中で、正社員でいることが、必ずしも身分保障や将来の安定につながるわけではありません。かつては派遣というと低く見られていましたが、そうしたデメリットは現在はまったくなくなっています。『こういうことがしたい』という明確な思いがあるならば、派遣エンジニアとして成功するでしょう。一度、派遣という道を選んでみてもいいのではないでしょうか」と加藤氏は語る。

 想像以上に派遣の戦力化は進行しているようだ。いまやコーディングだけ、デバッグだけというわけではないようだ。求めればデバッグ、テストからプロジェクトマネジメントまで、何でもそろっているようだ。キャリア構築という意味でも、次第に派遣だからダメ、という時代ではなくなっているのではないだろうか。

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