長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2008/7/4
転職を考えるITエンジニアは多い。しかし、果たしてその転職が正しい判断なのか、どのタイミングで決断すべきなのか、迷うこともあるだろう。キャリアカウンセラーの平岡健氏は、「あいまいな気持ちでの転職はできる限り避けるべきだ」と警告する。後悔しない転職のコツは、「目的を考え抜く」ことだという。 |
■転職は、できる限りしない方がいい?
少々陰りが見え始めたとはいえ、IT業界の転職市場が空前の「売り手市場」という状況は変わっていない。
ITエンジニアの転職意欲も相変わらず高い。実際のデータを見てみよう。2008年5月から6月にかけて、@IT自分戦略研究所とJOB@ITが実施したアンケート「ITエンジニアの転職意識レポート 2008年度版」では、全回答者(998人)中55.3%が転職を経験している。うち半数以上が2度以上の転職経験者だ。今後の転職意向を尋ねると、全体の14.8%が「転職顕在層」、64.2%が「転職潜在層」という結果になった。
転職顕在層:「現在、転職活動中である」「半年以内の転職を考えている」「1年以内の転職を考えている」 転職潜在層:「時期は未定だが、近い将来の転職を考えている」「現在は転職を考えていないが、良い話があれば考えてみたい」 |
これだけ多くのITエンジニアが転職を考えているわけだが、実際に退職、入社となると迷うケースもあるだろう。どのように決断すべきなのか? 転職にふさわしいタイミングはあるのか? これらの疑問に対し、「転職は、できる限りしない方がいいのです」と断言するのは、アイティメディアで@ITプレミアスカウトを担当するGCDF-Japanキャリアカウンセラーの平岡健氏だ。
■目的のない転職は恐ろしい
転職にリスクは付き物だ。そしてそのリスクは「目的のない転職」によって引き起こされることが多い。
アイティメディア 人財メディア事業部 人財開発部 GCDF-Japanキャリアカウンセラー 平岡健氏 |
例えば、どうしても東京から沖縄に行かなくてはならない理由があり、沖縄の企業に転職したとする。このときに収入が下がったとしても、「リスクではない」と平岡氏はいう。いうまでもなく、「沖縄に行く」という本来の目的が達成されているからだ。
しかし、このように転職の目的がはっきりしているケースは少ないそうだ。「私の知る限り、100件中1件くらいです。ほとんどの転職が、『感情的』な原因がフックになって行われています」
感情的な原因とは、人間関係、一時的な仕事のつらさ、人から勧められて何となくなど。
不幸にしてというべきか、感情的な原因で転職活動を行っても、現在のIT業界の状況ではうまい具合に転職できてしまうことが多々ある。
目的を見失ったまま、勢いでしてしまった転職でも、満足できる結果になれば問題はない。しかし当然ながら、失敗するケースも多い。「目的のない転職が成功するのは、宝くじに当たるようなもの」と平岡氏は警告する。冒頭で「できる限りしない方がいい」と平岡氏がいい切ったのは、まさにこの目的のない転職のことだ。
■目的のない転職の2大リスク
平岡氏によれば、目的のない転職のリスクは大きく2つに集約できる。
・求人企業は応募者の過去の転職歴を嫌がる
・転職前の能力が100%発揮できるとは限らない
である。
・求人企業は応募者の過去の転職歴を嫌がる
そもそも、求人企業は応募者の転職歴を歓迎しない。日本企業はほぼすべて、外資系企業も一部が、転職回数が多いほど応募者をマイナスに評価する傾向がある。「日本企業は『純血主義』。外部からの血を入れるのではなく新卒採用を重視し、自分たちで生んで育てたいという思いが強いのです」と平岡氏はいう。「同じような経歴で、転職経験のない人とある人が応募してきたら、企業は転職経験のない人を採用します」とのことだ。
転職という概念が広く受け入れられているように見えるIT業界においても、そういった考え方は「ほかの業界よりは少ないが、根底にある」そうだ。将来のことを考えるならば、むやみな転職は避けるべきなのだ。
・転職前の能力が100%発揮できるとは限らない
希望を持って転職しても、新しい環境で以前と同じ能力が発揮できるとは限らない。「前職で規模の大きなプロジェクトをうまくマネジメントできていたとします。もちろん本人の能力もあるでしょうが、開発担当のソフトハウスが優秀だったから、もしくは上司、プロジェクトメンバーが優秀だったからという理由もあり得ます」
自分が発揮できる力は周囲の環境も含めたものであることが多いので、転職先でもそれが期待できるとは限らないということだ。本人の能力自体は変わらないため、新しい環境に慣れることで発揮できる能力は上がっていくと考えられる。しかし、それが以前の80%なのか、90%なのか、110%なのかは分からない。
目的のない転職には、これだけのリスクがある。「だからこそ、目的のない転職は避けるべきなのです」と平岡氏は強調する。
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