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転職の本命サービスになれるか、転職SNS

岩佐猛(ワークポート 人材紹介部 マネージャー)
2006/11/25

転職サービスにはさまざまな形態がある。Web 2.0の代表ともいわれるSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)と転職サービスとは、相性はいいのだろうか。転職SNSというサービスはメジャーになり、大きな存在になるのか。人材紹介会社の現役コンサルタントが考える。

SNS

 ミクシィのマザーズ上場により、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)はさらに有名になりました。SNSはもちろんインターネット業界でも熱い注目を浴びて急拡大をしています。最近も米最大手のSNSである「MySpace」が日本に進出したばかりです。

 ところで、そもそもSNSとはどういったサービスなのでしょうか。SNSとは、Wikipediaの日本語版によれば、「ソーシャル・ネットワーキング・サービスとは社会的ネットワークをインターネット上で構築するサービスのこと。登録制、招待制などのいくつかの仕組みがあり、そのサービスのポリシーごとに分類される」(2006年11月22日現在)と定義されているようです。

 インターネットの特徴である匿名性を排除し、ユーザーに信頼感、安心感を提供するということが、SNSのスタート時の大きな特徴でした。しかし最近ではSNSであっても、メールアドレスを持っていれば誰でも新規登録できるような匿名性の強いSNSも増加してきたため、現在では匿名性の排除をSNSの特徴とはいえないのが現状です。

SNSと出会い

 分かりやすい説明としてよく使われるのが、SNSは「紹介制の出会い系サイト」という表現です。しかし、私はそう思いません。出会い系サイトは、そもそも「出会う」ことを目的としたコミュニティだと思うのですが、SNSはどちらかといえば「語り場」コミュニティという認識です。

 もちろん、その延長上に「出会い」があるのかもしれませんが、そもそもはインターネットを媒体として趣味・し好の合う人と会話をする場を提供するものであると認識しています。この認識の違いが最近、SNSで多発しているトラブルを誘発する要因となっているのではないかと私は考えています。

SNSの現状は二極化を生んでいる

 昨今のSNSブームは市場の二極化を生んでいると考えています。それは、

・ポータル型SNS
・専門型SNS

です。ポータル型はmixiなど大規模な会員を保有してさまざまなコミュニティが存在するSNSを指し、専門型はその名のとおり、限定したカテゴリのユーザーを集めていくというものです。現在はこの専門型SNSが急激に増えてきています。

 かなり幅広いジャンルにわたってこの専門型SNSが登場しているのですが、個人的に注目しているのが富裕層向けにサービスを展開しているSNSです。例えばアブラハム・グループ・ホールディングスが運営している「東大OBネット」や、パジェンダがスタートする「Catalo-g(語ログ)」などがそれに当たります。

 これらはSNSという媒体をもって初めて母集団形成を顕在化できたことによって生まれてきた発想ではないかと考えています。今後もそういった専門型SNSというものがどんどん増えていくだろうと考えています。

SNSと転職の相性

 さまざまな方から最近、よくご相談を受けるようになったのが、SNSを絡めた「転職SNS」についてです。現状では、私が知る限りでは転職にカテゴリを絞ったSNSはあまり例がないように思えます。mixiをはじめ、さまざまな企業がトライしようとしているか、トライしているようですが、まだ成功というレベルではないようです。

 ここで転職SNSとしているのは、転職希望者が集うようなコミュニティを考えています。転職した人の多くは退会するのか、それとも残るのかなど細かいビジネス上の細かいモデルは考えていません。本当はそうしたことが重要なのですが。取りあえず、実際に転職する人たちのコミュニティを浮かべてください。

 では、今後転職SNSは増えるのでしょうか。この問題を考える前に、一般的なSNSのビジネスモデルを考察すると、下記のような部分から収益を得ているように思います。

・広告収入
・会員課金収入
・企業向けマーケティングサービス

 では、それぞれについて、転職SNSと絡めて考えていきましょう。

 「広告収入」ですが、転職SNSがあれば間違いなく売れるのではないでしょうか。採用マーケットが、人材の獲得に躍起になっている現状であれば、転職をしたいという人材を組織化できるメディアは魅力ですから、参画企業も多くありそうです。

 次は「会員課金」です。転職サイトの内容などを考えると、単純にユーザーに課金できるコンテンツが思い浮かばないので(わたしが思い浮かばないだけかもしれませんが)、何となく難しいのではないかと感じています。

 最後の「企業向けマーケティングサービス」ですが、これだけ人材採用に各社が苦戦している状況であれば、SNSを基にマーケティングを行いたい企業はたくさんあるはずで、企業から重宝されるサービスになる可能性があると思います。

 こう見ると、転職とSNSは相性が良さそうに見えます。しかし、以上の検討は企業側から見た場合です。それ以上に重要な転職希望者側から見るとどうなのでしょうか。

転職希望者から転職SNSを見た問題点

 問題として挙げられそうなのが、SNSやブログは転職サイトと異なり、個人を容易に特定できる可能性があり、匿名性が保たれないリスクがありそうだという点です。だからといって匿名性を高めてしまうと、今度は求人企業側にとってデメリットがあります。転職希望先の会社のコミュニティが立ち上がっても、匿名性がある故に企業の悪いうわさや風評ばかりのコミュニティになってしまい、採用イメージの悪化につながる可能性があるからです。

 そもそも転職という行動に関する意識を、実際の転職希望者との会話から読み取っていくと、「こっそりやりたい」という思いが大半を占めているように感じます。

 その理由はさまざまでしょうが、ほとんどの人は、転職活動をするのは“転職”という言葉が頭をよぎったからのはずです。注目してほしいのは、そういっても多くの人は、現在の会社に残ることも選択肢として残しつつ転職活動をする点です。

 そのため、ある程度自分の情報は出さざるを得ないとしても、転職活動の終盤まではなるべく内緒にしておきたい、現在の会社には知られないように活動したいというのが普通です。

 そのため、ある程度の匿名性を保てる環境でなければ情報を公開したり、コミュニティに書き込みをするということに対しては警戒することになるのではないでしょうか。現在の企業だけではなく、応募先の企業の人事に見られることにも抵抗があるでしょう。特にそれが選考に影響するとしたら、コミュニティへの書き込みもそれを考慮して書くか、書き込みを控えると考えるのが普通でしょう。もちろん、そんなリスクにも構わずに書き込みをする人もいるでしょうが、それは少数派のようです。

 そうであれば、転職SNSがあっても多くの人は登録をしない可能性もあります。

転職SNSの成功の条件は

 では、こうした問題を回避する方法はないのでしょうか。まずは個人情報部分の匿名性は高めるということでしょうか。通常のSNSは自由記入ではあっても、かなり細かくプロフィールを記入することができるものが多いようです。そのため、プロフィールを閲覧することである程度個人を特定できる場合もあり得ます。ですから、このプロフィールの部分の情報を少なくする、というのも一策でしょう。

 双方向のユーザー(求人企業と転職希望者)に対してある程度の公平性を保つため、管理人には監視の徹底が求められそうです。双方にとって不利益な内容の書き込みが放置されてしまうと、特に企業側のユーザーが離れていってしまう可能性があります。

 コミュニティ内が荒れ、ネガティブな書き込みが増えてくると、そうしたコミュニティに集まる人材を企業側は欲しなくなってしまいそうです。しかし、書き込みを規制してしまうとSNSにはユーザーから見た自由がなくなってきてしまうので、入会するユーザーが減る恐れがありそうです。

 転職SNSで一番可能性があるのは、転職サイトや求人媒体などのコンテンツの一種として位置付け、収益源としてではなく、集客源として考えていくというものではないでしょうか。

 いずれにせよ、転職に対してクローズな印象を強く持っているユーザーと、オープンなネットサービスのSNSの相性というものは、いまのままではあまりよくないのではないのではないかと感じています。

筆者プロフィール
岩佐猛氏(ワークポート 人材紹介部 マネージャー)●大学卒業後、テニスのインストラクターから外食産業の店舗マネージャ、IT系経営コンサルタントとして活躍。その後現職。異色の経歴を持ち、多角的な視点を基にしたキャリアコンサルティングを行っているという。

 

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