
第1回 上原仁――絶望を救ったSNSとオフ会
岑康貴
2008/6/17
| ブログやSNSなどの「オンライン・コミュニティ」と、勉強会やセミナーなどの「リアル・コミュニティ」。現代のエンジニアの「コミュニティ活動」は、双方が密接に連動している。オンラインとリアルの境界を越えて活動する人々に、これからのコミュニティ活動のヒントを聞く。 |
「コミュニティ活動」という言葉には、リアルな勉強会やコミュニティと、オンラインでのコミュニティという意味が共存し、互いに連動している。オンラインからリアルにつながる場合もあれば、リアルからオンラインにつながる場合もある。双方の境界を越えてエンジニアがコミュニティ活動を行うにはどうしたらいいのか。そして、今後どうなっていくのか。
連載第1回となる今回は、オンラインのコミュニティをリアルに持ち込んだ「RTCカンファレンス」と、リアルのコミュニティをオンラインに持ち込んだ「newsing」、その2つを作り出した、マイネット・ジャパン代表取締役社長上原仁氏に話を聞いた。
■挫折からオフ会へ
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マイネット・ジャパン 上原仁氏 |
上原氏は、いろいろな顔を持っている。マイネット・ジャパンを創業した経営者であり、RTCカンファレンスの主催者であり、1人のブロガーでもある。
かつてNTTでインターネット映像配信事業に携わっていた彼は、どのような経緯を経て現在に至っているのか。
「もともと私がよくオフ会に行くような人だったかというと、あんまりそうではなかった。ましてや、自分が主催する側になるなんて夢にも思っていませんでしたね」
「どこでもドア」を作りたい。現在のマイネット・ジャパンの企業理念でもあるこの思いを実現するために、上原氏はNTTに入社。光ファイバを生かした映像配信事業の立ち上げに携わることになるのだが、ここで大きな壁にぶつかる。アイデアがあまりに斬新すぎたため、市場に受け入れられず、事業が終息してしまったのだ。どこでもドアを作るうえで光ファイバが重要な役割を果たすと信じていた上原氏は、大きく落ち込んだという。
「夢が潰えた(ついえた)わけです。意気消沈というか、本当に生きる望みを失うぐらい落ち込みましたね」
思えばそれがすべてのきっかけだったと上原氏は語る。絶望の状態のまま上原氏はNTTレゾナントに移り、ポータルサイト「goo」のマーケティングに携わることになった。しかし、相変わらず意気消沈の状態のうえ、会社から明確なミッションが与えられていたわけでもなかったため、「さてどうしたものか」と思っていたという。
「それが2004年の4月ごろ。ちょうど、ブログやSNSが立ち上がってくる時期でした。周りを見ていると、どうもその辺りのことをやっている人がいなかったので、軽い気持ちでブログを始めました。SNSも、orkut、mixi、GREEなどに登録したんです。まだ意気消沈モードだったので、うつうつとした内容を書いていたんですが、それでもだんだんとネットのコミュニティ内で知り合いができてきて。じゃあ一度、集まってみようかという話になったんです。六本木のヒーリングバーに集まりましょうという会だったんですけどね。そこにいたのが、ふぁるちゃんや、原田くんだったんです」
ふぁるちゃんとは、mixi依存症が高じて、その後ミクシィに転職してしまうことになる中村初生氏(「mixi依存症なんです」――ソーシャルネットで人生が変わった26歳女性)。 原田くんとは、SNS研究家としてブログ「ソーシャルネットワーキング.jp」を運営し、現在はアルカーナの代表取締役を務める原田和英氏(「出会いで日本を良くしたい」――24歳、中毒からコンサルへ)のことだ。ブログやSNSにハマり、後にWeb業界のフィールドで活躍することになる人物がその場に居合わせた。
「ほかにも、エンジニアの方もいれば、学生さんもいた。SNSの初期にそういう場にいた人たちだったので、非常に情報感度の高い人が集まっていたんだなというのは、いまになれば思います。でもそこに流れていた空気は、ビジネス的なギスギスしたものではなくて、とてもゆるいものだったんです。人を受け入れるコミュニケーションといいますかね。こういう場があるんだということを、そのときに初めて知ったんです」
ビジネスでの付き合いしか知らなかった上原氏は、オープンで居心地のいいコミュニティに触れて衝撃を受ける。オンラインでもリアルでもゆるやかにつながっていく中で、次第に「意気消沈モード」は解消されていったという。
■初めての「運営側」
2004年8月22日、当時「儲かっていなかった」mixiのビジネスモデルを考えるイベント、「mixi版無敵会議」が開催された(参考:Webサービスのビジネスモデルはユーザーが考える時代?)。 主催者は中村氏。「日本のブログやSNSというものの転換点」だったというこのイベントで、上原氏は会場提供者という立場で、初めて運営側に回る。「NTTレゾナントのオフィスで80人くらい入れる会議室を提供しました。会社に、こういうことをしますといって、使わせてもらったんです。主催メンバーには、けんすう君(現在はロケットスタート代表の古川健介氏)もいましたね」と上原氏は懐かしそうに語る。
ユーザーが声を上げて、サービスのビジネスモデルを考えるイベントを開く。この経験を経て、上原氏はさらに多くのイベントに顔を出すようになる。その中で、現在アジャイルメディア・ネットワークの取締役を務める徳力基彦氏に出会い、彼もメンバーとして運営していたグループブログサイト「FPNニュースコミュニティ」に参画するに至る。今度はオンラインのブログ・コミュニティの運営側に回ることになった。
「それからすぐに『アルファブロガーを探せ』の第1回があって、アルファブロガーに選ばれたような人たち、梅田望夫さんを囲む会をやったり、切込隊長(山本一郎氏)にインタビューをしたりしました。ブログの中であこがれているような人に、実際に会う機会をもてるようになったんですね。私が特別な努力をしたわけじゃないのに、そういう人たちに会う機会ができるようになっていった。だんだんと、もっとこういう場がたくさんできるといいな、と思うようになったんです」
ちょうどそのころ、ライブドア事件がテレビを騒がせていた。上原氏もブログでライブドア事件について発信し続けた。「ブログスフィアの中で、1つのテーマについて皆で議論をするということが一番うまく回っていた」時期だという。
そんな中、上原氏はあるオフ会で保田隆明氏と出会う。当時、ブログ・SNSオタクと化していた上原氏は、「おお、トモモト(当時、保田氏が運営していたSNS)の保田さんだ」と興奮したという。その後、メールでのやりとりを通じて1つの企画が持ち上がる。
「ライブドア事件に関して、彼(保田氏)も書いているし、私も書いていた。そこで、こういうのをオンラインだけでやるんじゃなくて、オフラインでもやってみないかという話になりました。リアルな空間でブログ的なコミュニケーションをとる場をつくってみないか。これが、後にRTCカンファレンスと呼ばれるものの始まりですね」
■リアルタイム・コンテクスト――RTCカンファレンス
「1回目は、自分たちの周りの人だけ集まったらいいか、という感じで、彼と私のブログで告知をしただけ。会場もまたNTTレゾナント。それでふたを開けてみたら、65、6人が集まったんですよね。なんだこりゃ、と。こんなに人が集まるのか、っていうのが、すごく驚きでした」
そこで上原氏が実践したのは、「ブログ的コミュニケーション」のリアルな場への応用だった。上原氏は、ブログで面白いのは「コンテクスト=文脈」であると話す。
「ブログのコミュニケーションで一番面白いのが、コンテクストだと思います。テキストそのもの、コンテンツそのものよりも、コミュニケーションが行われることで出来上がってくる文脈が一番面白いんだよねっていう話を(保田氏と)していたんです。このブログ的コミュニケーションをリアルな場に応用してみよう。リアルタイムなコンテクストを導き出す場にしよう、というのが最初の狙いです」
リアルタイムなコンテクストを導く、というブログ的コミュニケーションを実践するために取った具体的な手法とは、どのようなものだったのだろうか。
「最初に前で話す人間がいる。その後、中盤は各チーム6人くらいに分かれて、ディスカッションをする。最後に、そのアウトプットをみんなに出すっていう形式ですね」
イベントは非常に盛り上がったという。彼ら自身も、「熱量の高い、価値のある場だな」と感じた。4回目を開催したころ、「そろそろ名前を付けようか」という話になり、「RTCカンファレンス」と命名された。RTCとは「リアルタイム・コンテクスト(Real Time Context)」の頭文字を取ったものだ。
RTCカンファレンスはその後、定期的に開催されることになる。常時、80〜100人ほどが集まる大きな空間に成長していったこのイベントに対して、上原氏はどのようなスタンスで接していたのだろうか。
「自分たちも、あくまでオフ会の参加者っていう感覚ですね。主催というより運営。ゲストの方は少し高い立ち位置にいて、その脇で保田と私は、イベントに参加している人たちと同じ目線からゲストに突っ込みを入れていくっていうスタイルです。フラットな感覚の中でブログ的なディスカッションをしていくというのが、ずっと心掛けてやっていること。心掛けるというか、自然にそういうふうになっていったんです」
主催者ではなく参加者と同じ目線でい続けることが、RTCカンファレンスの「ブログ的コミュニケーションをリアルな空間に応用する」という目的に不可欠だった、と上原氏は語る。そして、RTCカンファレンスを1つのきっかけとして、上原氏は徐々に起業への道を歩み始める。
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