第7回 XPJUG――居心地の良い「ゆるさ」
岑康貴
2008/11/25
無数にある開発コミュ二ティやユーザー会などの組織。一体どんなことをしているのか。そこではどんな人たちが活動しているか。コミュニティのメンバーに話を聞き、その実像を探る。 |
「それじゃあ2チームに分かれて」「俺はアカウント情報を暗号化しようかな」「プロブレム『技術的に難しい』……誰か解決できない?」「よし、システムキッチンを作るぞ」「木曜日になりました。おはようございまーす」
2008年11月13日、19時、都内某所。どこからともなく集まってきた男女が何やらカードゲームに興じている。タスクの書かれたカードを選び、サイコロを振る彼らは、はた目にも楽しそうに見える。
「エクストリーム・プログラミング(eXtreme Programming)」の普及を目指すコミュニティ「日本XPユーザーグループ(XPJUG)」。そのスタッフミーティングにお邪魔した筆者は驚いた。「スタッフミーティング」という言葉からは想像もつかない、楽しそうな光景だったからだ。
XPJUGスタッフミーティング (都内某所にて) |
■開発プロジェクトのシミュレーションゲーム
この日、集まったXPJUGのスタッフは全部で8人。スタッフは全部で30人以上いる。
11月17日の「ユーザー会」で行うワークショップの事前打ち合わせがこの日の目的だ。打ち合わせとはいうものの、しかめ面をした会議ではなく、当日行うワークショップを実際にスタッフが体験しよう、というものだった。
1人の男性が説明を始める。「タスクボード・シミュレーション」というゲームを行うようだ。
あるシステム開発のタスクが書かれたカードの山。それらには、タスクの大きさに応じて数字が振ってある。時間がかかるタスクほど数字が大きい。ユーザーは順番にどのタスクをこなすかを選び、サイコロを振る。サイコロの出た目がタスクの数字よりも大きくなればタスク完了だ。期間は2週間で、1日につき午前と午後、1回ずつサイコロが触れる、という設定。こうしてチームで力を合わせて、期間内にシステム開発プロジェクトを完了させようというゲームである。
テーブルが大量のカードであふれる。 スペースをどう活用するかも重要なポイントだ。 |
特別ルールとして、「1の目」が出てしまうと「問題発生」。「プロブレムカード」をカードの山から1枚引く。「画面のデザインが変わった」「既存のコードが複雑過ぎる」「技術的に難しい」「メンバーが会社に来ない」など、実際によく起きていそうな、本当のプロジェクトでは起こってほしくない「問題」が降りかかる。各メンバーが3枚ずつ持っている「ソリューションカード」で解決しなければ、そのタスクを進めることはできない。
「『技術的に難しい』という問題。これはミーティングをして、もっと簡単なやり方に変更するよう交渉しましょう。そのために、ソリューションカード『会議にファシリテータ役を設ける』。これで解決です」
プロブレムカードとソリューションカードは単純な1対1の関係というわけではない。その「問題」がどういう問題で、どう解決するのかを説明し、メンバーを納得させることができれば、無事問題は解決だ。
『技術的に難しい』という問題を解決 |
■「大きなタスクは早い段階で処理を」
4人のチームと3人のチームに分かれて、実際にゲームをする。1つは前述したようなシステム開発のタスクだが、もう1つは「開発者じゃなくてもできるように」と、「家の模様替え」という設定でタスクが作られていた。タスクは「壁紙を張り替える」「システムキッチンを取り付ける」「すのこベッドを設置する」など、プロブレムは「服が汚れる」「食事をする場所がない」「組み立て方がわからなくて途方にくれる」など、ソリューションは「2階のベランダから入れる」「電源を壁に増設する」「子どもに泊まりがけで出掛けさせる」などだ(模様替えというレベルではないような気がする)。
各自、ゲームを進めるうちに、だんだんとコツをつかんでいく。大きなタスクは早い段階で処理しておかないと危ない、タスクは細かく分割した方がよい、進ちょく状況が分かりやすいように「見える化」する、ふりかえりは重要。こうした気付きは「実際のプロジェクト」に生かすことができるだろう。頭では分かっていることが、シミュレーションを通じて実感できる。
本番のユーザー会では、彼らスタッフがコーチとなってワークショップをけん引することになる。そのため、ゲーム中に「これはこうした方が分かりやすい」「このルールはなくした方がいいだろう」という声が次々に上がる。
非開発者向けの「部屋の模様替え」プロジェクト |
ゲーム終了後は、各自が「ルールの改善点」「コーチとしてどう進めたらよいか」「ゲームをうまく進めるアイデア」などを紙に書き、シャッフルして1つずつ挙げていく。
特に興味深かったのは、「ペアプログラミングという概念を導入したらどうか」というアイデアだ。あるタスクに対して2人がサイコロを振ることができ、大きい目の方を採用できるというものだ。これならタスクの処理効率が上がるし、問題発生の確率が格段に減る(2人とも1の目を出さないと、問題発生にならないからだ)。その代わり、2人が1つのタスクに取り掛かることになるというデメリットがある。プロジェクトマネジメントの戦略性が問われるところだ。
■義務ではなく、自発的に集まるコミュニティ・スタッフ
21時、スタッフミーティングが終了。スタッフの多くはこのまま飲みに行くようだ。
ここに集まるスタッフは皆、普段は別の企業で異なる仕事をしている。仕事を終え、平日の夜に集まり、ああでもない、こうでもないと議論を交わす。すべて義務ではなく、自発的な行為だ。
なぜ彼らは集まるのか。そこにはどんな意味があるのか。XPJUGを代表して、天野勝氏と安井力氏に話を聞いた。
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